「よいしょっと。」
エレゼンの女性が声をあげる。
「じゃあ、行ってきますね。」爽やかな笑顔。
午後の喧騒もすぎ、食器の片付けやティータイムを楽しみに来るご婦人方々のオーダーを聞き。
ナオ・ガムドゥラは忙しいながらも充実した時間を。
「ありがとうございましたー♪」
夕暮れまじかな時間。少し休憩がてらカウンターに着き女主人が用意してくれたクッキーと香茶をすする。
「結構忙しかったですね。」ふぅ。と一息。
「そうね。」こちらも香茶を含みながら、ミューヌ。
カフェとはいえ、夜も遅くまで営業しているカーラインカフェ。
朝から夕暮れまでは、ミューヌとナオでホールを回している。夕暮れからはナオの先輩にあたる女性(自分たちでは少女と言い張っている)が二人。
そして、朝に弱い、それと陽が高いうちは「仕事」に熱心な冒険者が少ないためか、午前は意外とヒマ(とはいえ、手ぶらではいられない)というか。
ただ、今日は少し事情が違い、とあるイベントに合わせてスイーツの納品があったからだ。
「ふう、ホントにカナーリが来てくれて助かったわ~」
「そうですね、カナル先輩はさすがです。」キッチンとホールを股にかけて大活躍。
ナオは彼女の後任として雇われ、そのカナルこと、カナーリエンフォーゲルの手並みに舌を巻いたものだ。
「それにしても。」「ですね。」
彼女にヘルプを頼んだのは、ウルダハ郊外でのイベントのため。これまたエレゼンの女性の婚儀のパーティにスイーツを、
そして花嫁はこのカフェでもお馴染みの娘だったため、ミューヌも気合を入れて、いや、入れすぎか。
危うく納品が間に合わないかも?なスケジュールにしてしまったから。
さらに、仕事があるので自分達の代わりに、会場で祝辞までお願いしてしまって・・・
ゆっくりとお茶を飲み干すと、ナオはステンドグラス越しに時間を計る。
「ミューヌさん。そろそろお嬢さん迎えに上がらないと。にしてもオーアさんは遅いですね・・」
「そうね・・ま、いつものことだけど。うん、大丈夫。ナオ、迎えに行ってくれる?」
「はい。そうおっしゃるなら。」
「じゃあ、よろしく。私はもう少しゆっくりしてるから。」
「はい。忙しかったですし。では、お疲れ様でした。」
「じゃあね。」「はい!」
そして店の玄関でミコッテ同士が鉢合わせしたのだろう、少しのやり取りがあったみたいだけど・・
いつものコトよねぇ・・
「おっはーにゃあ!」古参(と言っても、瑞々しい女性真っ盛り)のミコッテ。
「おはよう。オーア(この呼び方に定着・・)、今夜もしっかりがんばってね。」
「はーい。イーリスはいつものとおりかなあ・・パールで叩き起こそうかにゃー・・」
(あの子の場合、オーアと違って寝坊じゃないから起きてるとは思うけど・・早いに越したことないか)ミューヌはうんうん、とうなづき。
「おはよーでっす!」と赤毛の女性。ハツラツとした空気が若々しい。
「おそー!」とは、オーア。すでにオーダーがいくつか通り、トレイと食器、さらにグラスまで。
尻尾がピンと伸びているあたり、かなり忙しくなっているよう。
「ゴメ!」「いそいで~」「はい!イーリス、これ2番テーブルね!」
少し落ち着いてから。
「そろそろかしら?」
「え?」「なんですか?」
「今夜、ミーランちゃんの婚儀なの。で、お昼がいそがしくって、カナーリにも手伝ってもらっててね。」
「えー!カナルいたの?」「会いたかった~。」
「まあまあ、彼女にお願いして、パールを介してだけどお祝いが伝えられるから。メッセージ考えといてね。」「うん!」「はい!」
・・・・・・・「ねぇ?」「なに?」「わたし達、出遅れてるよね。」「・・・それは言わないで欲しいにゃ・・」
「あ、ミーランさん!この度はおめでとう!」純白のドレスを纏った女性を見つけたカナルは。
「きゃ!カナルさん!ありがとー!」ミーランは驚きと喜びに涙が滲みそう。
「ええとね。カフェを代表して私がね。」
「そうなんだ!ミューヌさんは・・お仕事だよね。他の3人も。」
「ま、ね。でも・・コレ。持ってて。」小さな袋を。
「なに?これ。」
「いいからいいから。じゃあ、ちょっと準備の手伝いしてくるね!」
「はあい!」(もうすぐ式かあ。緊張するなあ・・)ミーランは、さっきまでいたはずの相棒を探すが、見当たらない。「もう・・」
「新婦さん、準備です!こちらへ。」「はーい。」
しばらくして小さな袋が明滅し、「あれ?パール?」ミーランは手に取ると思念を通わせる。
すると・・・
「おめでとう!ミーラン!」「やっほー!先越されたにゃあ!おめでとうにゃ!」「わたしはオーアには負けないから!そして、おめでとう!」
「皆さんとは別の場所からですが、おめでとうございます。ミーランさん。」
!!!「みなさん!ありがとうございますっ!!!!」最大限に念を込める。
よーっし!元気が出たーー!!!!!
ミーラン、ミューヌ、カナル、ナオ、オーア、イーリス、全員の想いは一つに。