砂埃の舞う中。商人達は品揃えに砂がかぶらないようにシーツなどをかけているが、やはり見本は見せねばならない。
そして、そういったものは商品価値が下がり、安くで夕暮れのバザールで売りに出され、それを目当てにまた人が集まる。
ここはそんな街、ウルダハ。
そんな味気ないながらも、活気だけは異様に盛り上がりを見せる中、二人の珍妙な連れが酒場、クイックサンドを訪れた。
「いらっしゃい!あら、ハウンド。さっきぶりじゃないの?」女将のモモディ。
ララフェルの彼女は情報通でも知られ、買いたい、売りたい、など。またその情報を買ったのは誰か?なども商品になる。
そのため口止め料もあるが、相手がその口止め料を上回る額面を提示した場合はその限りではない。
ようするに知られたくなければ値を張れ、ということなのだが。
そしてその情報を買い損ねた方も情報のネタになってしまう、非常にデリケートな戦いになる。
ひどいのになると、買ったヤツは?>それを買ったやつは?>それを・・?>ソレを・・・?
と、エンドレスよろしく十数回繰り返したライバルLSも居たという。
(それすらも商品だが。以降、二つのLSには依頼がサッパリだと聞く)
そして。
ハウンドは少し店のチョイスを間違えたかもしれない、と思ったが。
いや、ここはヘンに隠すよりは成り行きの方がいいかもしれん・・・。と思う事にした。
なにせ、すぐ後ろ手には・・リムサ・ロミンサの豪商の一人娘が居るのだ。
ヘタすりゃ・・いや、しなくても誘拐容疑で指名手配されかねない。
もうあんな逃走劇はこりごりだ。
少しだけ恨みがましい目で少女を覗き込む。
少女は視線に気づき、にっこりと微笑んだ。「どうかしたの?」と屈託無く。
「別に・・ただ、ここじゃ騒ぎはご法度だからな。さっきみたいな面倒は無いはずだが・・。
ただし、大声だけはヤメとけよ?俺だけじゃなく、お前にも降りかかるぞ。」
「え?なにが?」
「試してみればわかる。その代わり俺はその時点で逃げ出すからな。巻き添えはゴメンだ。」
「えーーー!つれないのお。」
「だからっ大きな声だすなっての。」周りの視線が気になり目立たないように辺りを見る。ふぅ、っと一息。
壁際に、(といってもクイックサンドのテーブルは全て円形状の廊下に
囲まれたドームみたいな場所に設置されているため、壁際、すなわち廊下の土台部分になる。)
席が開いていたが、ひそひそ話しなどできるはずもなく、結局どこでも同じ、という結論の元。
やや真ん中あたりに今しがた空いたテーブルを見つけ腰かける。
「さてと。」ハウンドは苦い顔のままだ。
「なんでそんな顔してるの?ハウンド。」と、ケーキとジュースと、ミートパイとサラダと鶏肉のカツと豆のスープとパン等・・・次々注文しながら。
「目の前の惨状を見れば、誰でもこうなる・・。」
「ほうかひら・・?」すでに頬張り始めている。
「まあ、いいだろう。まずはだ、お嬢さん。君の名前をちゃんと聞いて無かったんだがな。いいかな?」
んぐっんぐう!・・・・ごくん。
「ふあ・・死、死ぬかとおもった・・・」
「で?」
「カテリナ、よ。」銀髪の、光の加減でそこだけ薄緑に輝く様は美しく、年齢を悟らせない。
「おいおい、ファミリーネームは?」
「そんなもの、家に置いてきちゃったわ。欲しければ誰にでもあげてよくてよ。」
(グローリャ家もひどい言われようだなあ。)「なんでそんなに毛嫌いする?」
「わたしの事、ただの道具としか思ってないんだもの。そうね、お人形かしら?」
「まあ、名家ってのは得てしてそういうもんだな。」
「そういう貴方はどうして猟犬なの?それこそ家名は?」
「ソコをつくかい。傭兵仲間の間じゃ過去の詮索はご法度なんだがな。」
「わたし、傭兵じゃないし。」
「俺から習うんだろ?」
「自分のため、だから。」
「まあ、いいか。もう少しばっかり若い頃には剣術士ギルドに出入りしてたんだけどな。
スジがいいからって、おだてられて厄介な仕事を引き受けちまって。それがなんとだ。
ウルダハでも指折りの豪商の息子、といっても何番目かわからんが。そいつと手合わせして欲しい、ときたもんだ。」
「ふむふむ」
「で、意気揚々と行って見れば、なんてことはない。手合わせどころか嬲り者にする気満載でな。
そこの坊主に度胸をつけさせる為に、お前死んでくれ、ってなもんだ。なまくら刀を渡されて、向うはビンビンに研ぎ澄まされた剣。
こっちは革鎧、向うは鎖鎧だ。話にならねえ。しかもご丁寧に逃げれないように部下が出口を封鎖してやがってな。
しょうがねえ。やるだけやるかと。まあ、結果、勝っちまったんだけどな。
坊主の剣をさっきみたいに張り飛ばして、それに持ち替え、両手首ごと落としてやった。
その後は坊主を盾に屋敷から逃げ出して、逃亡を1年くらい。そんときに傭兵になったんだよ。
で、本名だの素顔だのはさすがにやばいってんで、猟犬って名前を団のリーダーからもらったのさ。
まあ、部隊の所属、ってわかるか?どこから攻撃するか?って事なんだが、突撃隊(アサルト)だったから、猟犬って寸法さ。」
ふ~~~~んと頷く少女。
「さ、そっちの番だぜ?」
「わたしのは・・。」さっきまでの元気さが失われていくのがわかる。
黙って促す。
「市井のヒューランの男の子で、アンドレアっていうの。なんだったかな・・きっかけは大したこと無かったんだけどね。
もう少し幼いときだったから、外で遊んでたのかな。その時にまたね。って。
それから何度も遊ぶうちに「将来はアンドレのお嫁さんにしてね。」って約束して。
で、わたしもそれからはほとんど外に出れる時間が無くて、滅多に遭えなかったんだけど。
彼は真摯にわたしを待っててくれて。ある時、親が同じく商人の息子を連れて来て、
「お前の旦那様だ。ワシもいい婿がとれそうだ」なんてのたまって。
それで、意を決して二人で逃げようとしたんだけど、子供の考えることなんてお見通しよね。
二人とも掴まっちゃって。次の朝、彼が有罪判決を受け、身柄を引き受けた父が奴隷商にに売ってしまったの。
それも何処だかわからない。だから。わたしは探さなきゃならないの!」後半は涙で顔が・・・・
「そうか・・・。わかった。剣の術は教えてやる。その代わり、途中で投げ出すことは許さないからな。」
「うん。ありがと・・・・。」
「それとな。カテリナ。家名はともかく名前も少し変えようか。」
「え?」
「その名前で呼び合うといろいろとマズいだろう?」
「あ、まあ・・。」
「よし。今からお前は、カタリーナだ。いいだろう?」
「まんまじゃない・・・。」
「いいんだよ。ヘンに凝った名前とか長いのにすると、いざって時に反応できん。そも。それが自分の名前だったかどうか、慣れるまでに死ぬぞ?」
「う!」
「というわけで、できるだけ元に近くて、違う名の方がやりやすい。」
「はい。」
「じゃあ、さっさとソレ食え。まずは俺んチだ。荷物を置いたら、剣だのなんだのを見繕いにいく。
練習は明日からだ。それと俺の家は手狭だが二部屋あるから心配はしなくていい。何か質問は?」
「その・・・彼女さんとかは?」
「時々、日替わりで来る程度だ。」
「ああ、そうですか。」
「うわー・・・・。」
部屋に入り、開口一番。むちゃくちゃ散らかっている。
衣類から、空いた酒瓶、瓦版、食器類や、その他。
「ここは、俺の部屋な。お前はあっち。」と奥を指差す。
おそるおそる・・・・。
がちゃ。
「あれ?」
意外と小奇麗にされている。
「なんで?どうして?」
「客室だからだよ。」
「てことは・・・。」
「まあ、そうなるな。」
びくっ
「心配するなといっただろ?俺はガキには興味無い。」
それはそれでカチンときた。
「おい!荷物置いたらすぐに来い。買い物だ。」
「はーい。」「返事は、「はいっ!」だっ!」「は、はいっ!」
「よし。行くぞ。」
適当な剣と素振り用の木剣、盾、胸甲付きのチュニック、サークレットなどを買い、一旦戻り点検した後。
「よし、今日はもう終わりだ。明日に備えて寝ておけ。日の出が起床時間だ。遅れるなよ?」「はいっ!」
バタム。
ドアが閉まると、なんだか今日一日の出来事が今更のように色々あったと思えてくる。
寝台に潜り込み、ランプの明かりを消すと自然と瞼は閉じていた・・・
「おやすみ・・・アンド・・・レ・・」
翌朝、きっちり起きて挨拶をしに部屋をでると、長身の偉丈夫はまだ寝ていた。