578外伝。黒衣森の少女 二人II

ずり。
ずりずり・・。   どすん。
「あいたたたた・・・・・。」
しりもちをついた少女は、上を見上げる。
自室の窓から、シーツを繋ぎ合わせたロープを使って下まで降りてきたのだ。
もっとも最後は握力が足らなくて、滑って落ちてしまったが。まあ、腰の高さほどなので怪我はない。
月光に薄いグリーンの髪が映える。
その美しい髪を肩あたりまで伸ばしたエレゼンの少女は、決意を新たに夜の街へと向かう。
ここまではなんとか上手くいった。ここからだ・・・。
「ええと・・・確か国際街商通りは・・・こっちだったかしら・・。」
最下層目指して慎重に進んでいく。
やがて。
明かりが煌々と灯り、こんな時間でも活気のある声が聞こえてきた。
「やった!」
あとはザナラーン行きの船にさえ乗り込めば。
そこで。
「ん?君は?」・・・・「もしかして?グローリャ家の娘さんじゃないのか?」
衛兵に呼び止められる。(しまった!)
「あ、いえ。その・・。」
「迷子か。親御さんに連絡するからしばらく待っておいてくれよ。」
「い、いえ!これは。その修行の一環で・・・。」そこで小銭を彼の手に握らせる。
彼は不思議そうに手の中のコインを見ると。
「ああ、そうなんだ。じゃあがんばれよ。」と見送ってくれた。
「あぶなかった・・・。」
無事デッキまで行き、深夜発ザナラーン・フェリードック行きの船に乗り込む。
一息。
「待っててね、アンドレ。」サロンに行き、まだ数人しか腰かけてはいないソファに座ると、ウトウトしだしてしまった。
カバンは取られないように紐でしっかりと腕に巻きつけてあるし、抱きかかえて。そして安心して眠る。人も多いから大丈夫だう・・・。

翌朝。船内に声がかかる。「もうすぐザナラーンに着きます!お降りのご準備をしてください!」
はっ、と目が開く。カバンは・・うん、ある。他にもチェックするが取られたものはないようだ。「心配しすぎたかしら?」
切り立った崖のようなところにデッキがあり、停泊。
ぞろぞろと乗客を吐き出すと入れ違いに入ってくる。ちょっとした混雑のなか、階段を上がり、町を初めて見る。
簡素だが、活気もあり海の玄関口として十分だと思う。
そこに芳しい香りが。
そっちを見ると屋台があり、繁盛しているよう。そして此処に来て先日からほとんど何も食べていない事を思い出し。
「あそこでわたしも何か食べようかな。」
看板には「サンドロ海戦料理!」とある。戦なのだろうか?
屋外のテーブルはいくつかあったが、どこも誰かが座っていてどうしようか?と思っていれば。
「おや、お嬢さん。もしよければ私のトコはどうだい?」
赤いローブの年配のミコッテが声をかけてきてくれた。「あ、じゃあおねがいします。」と遠慮なく。
空腹はもうそのくらいでは恥ずかしいとは思えなくさせている。
すると、グレイの髪を束ねたお姉さんがオーダーを取りにきてくれ、適当に頼んでしまった。
老ミコッテの優しい語り掛けについつい、身のうちを吐露したくなったが、できる範囲で・・探し人を。
なのでリムサからウルダハまで向かうという事、家出同然なので、聞かれても黙っておいて欲しいなど。
そうかい、と優しく返事をしてくれ、おもわず涙が溢れそうに。
ミコッテもグレイの髪の女性を見る目は何処か悲しげで、嬉しそうだ。

支払いを済ませ、ミコッテに別れを告げ、キャリッジとやらに向かう。
「なにこれ・・・。」
気球?に下げられた荷台をチョコボに牽かせるというもの、とは聞いていたが。
うーむ。だいじょうぶ?コレ。
なにはともあれ、乗車。先客はいない。あとから二人ほど乗り込んでキャリッジは発進した。
ウルダハはもうすぐだ。



「あーあー・・。だりー・・。」
猟犬と呼ばれる男は年の頃20,3か4片手剣を吊るし、今はオフだからか簡素なシャツとズボン。
ブーツという井出立ち。長めの漆黒の髪に無精ヒゲがトレードマークだ。
ウルダハの大通りをぶらぶらと。何するでもなく歩いていた。
相棒の狼はというと、いまはどこぞの戦場を渡り歩いてるか、リーヴの続きかどっちかだろう。
「俺もリーヴ受けときゃよかったぜ・・。」とグチるがいまさらだ。
「なんかおもしれー事ねーかな・・・?」
ふと思い出す。先日家でした少女の行方を捜している、とリムサの豪商がお布令を出していた。
こいつを探すのも一興だな・・・・。でも、ウルダハとは限らんだろうになあ。
と。そこに背中から誰かが体当たりしてきた。
「なっ!何だ!てめえ!」振り返りざまに裏拳を放つが空振り。へ?
相手の身長が低くて空振りしてしまったのだ。ハウンドの身長は190センチ。ヒューランにしては背が高い。
で、体当たりのあとしがみついてる相手はといえば、160センチあるかどうか。しかも女(おそらく)
「おいおい、ねーちゃん。昼の日中にそれはどうかな?」
引き剥がし、正面を向かい合う。
「助けてください。」涙を浮かべながら。
(おいおい・・面倒は勘弁だぜ・・・?と?おい。まさか。こいつは!)
「なあ、ねーちゃん。何から助けるんだ?」
「追われています・・・。」

しばらくして。「おい。男。その女を離せ。抵抗しなければ何もしない。」
少女はぎゅっと男のシャツを掴む。
「おいおい。キミタチ。嫌がってるじゃないか?その辺にしとけば?」
「抵抗するか?」男3人がスゴむ。
もう一度少女の顔を見る。エレゼンだからか、品のある目鼻立ちに、すらりとしたおとがい。
掛け値なしに美人だ。まだガキンチョだが、これは化けるな。しかもその目が涙で潤んでいる。
コレをあんな品のない野郎に渡せばどうなるかは想像しなくてもわかるので。
「なんだって?キミタチ、抵抗するんですか?」
「ンだと、このお!」一人が殴りかかってくる。少女をさっと抱えながら走ってきたところの膝を正面から蹴り抜く。
がっ!と悲鳴だか、石畳に激突した音がして男が転げまわる。恐らく膝が割れただろう。ブーツには鉄板が仕込んである。
「へ、やるじゃねえか。」じゃりん。二人が剣を抜く。
「お嬢さん、ちょっと後ろにいてね。」とそっと背後に下ろす。
こくこく、と頷き背中から見守るのがわかる。
くいくい・・・。指で合図し、「抜いたな?」
「だったらなんでえ!」走り出して切りかかってくるが、まだ抜刀しない。
鎧もなにも着けていないのだから、斬られれば重傷ですめばいいだろう。
眼前に迫る刃を見て、少女が悲鳴をあげ、目を瞑る。

ぎゃりん。
がっ!

弾き飛ばされた男の剣が石畳に突き刺さる。
「どうした?拾えよ。落し物だぞ?」
「く、クソ!」男はよたよたと剣を取りに。そこに背後から首筋に剣が当てられる。
ひっ!
「戦場じゃあな、背中見せたら何時斬ってもいいんだぜ?おわかり?」
もう一人はすでに逃走している。
「で?一体全体なんでこんな小娘に必死なんだ?」
「し、知らねえのかよ・・その女、リムサの豪商の娘だぜ。連れてきゃ褒美がたんまりって寸法さ!」
「その前にテメエら、手をだすだろ?」「そ。いや、そんな・・」
「いーや、その顔はやるな。そんでもって「手遅れでしたが、つれてきました」なんて、いけしゃあしゃあとのたまうつもりだったろ?」「・・・・・・・・」
「図星か。二度と顔見せるんじゃねえ。この薄汚ねえ野良犬どもが。もし顔みたらなあ。この猟犬様が野良犬の首くれえいつでも噛み千切ってやるぜ?」
「ひ・・・ハウンド!」
「わかったら失せろ!」ひぃぃぃぃ

「っと。大丈夫かい?お嬢さん。」「うん。」
「じゃあ、俺はこれで行くからな。あんなのに掴まる前に早く自分でお家に戻って心配させるのをやめちまいな。じゃあな。」「いや。」
「あ?」「つれてって。」「へ?」「だから。わたしを連れて行って。」右手で顔を覆う。「俺はガキのお守りなんてできやしねえ。」「ガキじゃないもん。」
「ほう、じゃあ今晩、俺の寝台で寝るか?」「無理。だって許婚がいるし。」
「じゃあ、なおさら家に帰れよ。いい加減にしないと俺も怒るぞ?」「う・・。」
「大体、なんで俺なんだ?助けたからか?お人よしに見えたからか?ドッチも違うぜ?」
「剣術、教えてほしいから。」「は?」「剣・術・よ。あなた、強そうだし。」
そりゃまあな・・一流どころの傭兵として名をうってるんだからな・・。
「で、なんのためだ?カネか?冒険者気取りか?今見て興奮したからか?」
「違うの。許婚を探すのに・・またあんなのが絡んできたら一人でもなんとかできるように。」
「そうか。まあ、どっかで話を聞こうか。幸い近くに酒場がある。そこでな。」「うん。」


邂逅・・・


----------コメント----------

シ・ヴェテックト師が居るw
Marth Lowell (Durandal) 2013年05月05日 11:22

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小説が続くヽ(´ー`)ノ
Sanshi Katsula (Hyperion) 2013年05月05日 11:27

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女難の相を持つ猟犬さま。

(なお、ようやく438話目読破)
Ephemera Mitoa (Durandal) 2013年05月05日 12:00

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>マルスCEO、そーですw
時間軸的には、マユの冒険がはじまる6~8年ほど前になりますかw
このころ、師はここに食事に来るのを楽しみにしていましたしw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月05日 12:02

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>三枝師匠、せーんろはつづく~よ~w
最近、シリアスばっかりだしなあwたまには脱線もしてみたいw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月05日 12:04

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>エフィさん、ようこそw
ハウンド氏について、リーナがエフィに語った過去に「自分も着いて行った」ということで、具体的にw
確かに彼は女難かもw
438話、がんばったにゃあw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月05日 12:06

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こんばんわ。
Mayuriさん、小説好きですね^^
前にjx童話賞って言うのをやっているのを新聞で見ました。
挑戦しようと思って、途中まで書いたことがあったけど、やぱし、筆不精の私には無理でした^^; キャハハ~恥ずかしい
Queen Alutemis (Hyperion) 2013年05月05日 18:30

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>クイーンさん、こんばんわw
うんむw読むのも書くのもスキなのですw
そんな賞あったのね・・・でもチャレンジが大事ですよ!
恥ずかしがることないってw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月06日 00:30

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