1046トリニティ。 蒼天騎士

まだ日中には早い時間ではあるのだが、どこか薄暗い空の下。
肌寒い空気と、纏わりつくような霧。
雲霧街とはよく言ったものだと、エレゼンの青年(には少し早いか・・・)
「このあたり~でっす。」
その隣を歩くララフェルの女史(身長や、顔の見かけだけで年齢は測れない。が、自分よりは年かさのハズだ。)に「そうなのかい?タタル。」と返す。
「でっす!貧み・・ふガガガガ・・・」
(タタル?僕でもその単語はココじゃマズイって思うんだ?)
(んぐんぐ!)ぶはぁ。
とっさに手の平を押し付けられ、呼吸困難に陥った女史は怒るでもなく、ただ「ごめんでっす。」と素直に謝り・・
エレゼンの青年を見上げようとして、その背後になんだか危険な予感を・・・

とっさに察した青年、アルフィノは後ろも見ずにララフェルを抱きかかえるように走りだそうとして・・諦めた。

「やあ、皆さん。どういったご用件でしたでしょうか?」
声変わりはとっくに済んだはずだが、まだ少し中性的な声音は少年で通る容姿と相まって、相手を威嚇するには物足りない。
が、友好的な空気や、場の調停には役に立つ・・・と思い、最大限に使用してみたのだが。

「フォルタン伯に匿われた異邦人だな?」

どうやら相手は「愛想よく」という単語を辞書から落としてきたらしい。

「ああ、エドモン・ド・フォルタン伯爵から、直々に身元を預かってもらっている。アルフィノ・ルヴェユール。こちらは、タタル・タル女史。」

「・・・おい、捕らえろ。」奥からもう一人の声。
「は、ポールクラン卿。」衛視でもなく・・騎士見習い達が取り囲む。

一人だけ前に出てきた騎士が、いかにも面倒だ、といわんばかり。

「待て!ポールクラン卿と言ったか?このような狼藉、誰の断りで行うのだ!?」
「・・・メンドくせえな。ガキ。ゼーメル家だよ、四大名家ぐらい知ってるだろう?」
「な?我らはその四大名家が一つ、フォルタン家の庇護にあるんだぞ!」
「ち・・・。お上がそう言ってるんだ。ゴネんじゃねえ。」
「・・・罪状は?」
「異端審問だ。お前らは、異邦人ってだけでも面倒なのに、「氷の巫女」と名乗る異教の女とも親しいらしいじゃねえか?十分なんだよ。しかも、こんなスラムにまで足を運んでな。
先日もなんだかわからんが、見たことねえ黒い女?がウロついてたって話だしよ。」
「・・・、氷の巫女については、知らない事もない。が、それはかの教団を追いかける側だったからだ!」
「おうおう、お前ら聞いたな?こいつら、やっぱ異端だ。捕まえてブチこんどけ。」
「はっ!」
「待て!」「きゃあああああ・・・」



そろそろ、午後に差し掛かろうというのに、部屋には明かりを灯さないと少し薄暗い。
カーテンが分厚いのもその一因だろうが(温度を保つにはこのくらいがイイらしい)

武具の手入れを終えた女性二人は、何気ない会話を楽しんでいて・・・

「そうそう、リンちゃん。オモロイ話があるねん。」
「ふうん?」
普段着に着替え終えて、スツールに腰掛けながらも足をてぇぃ!と蹴りあげるように伸ばす相棒に
「こら、はしたない・・・で?」と言いながら、大剣を鞘(ベルト?)に仕舞い込んで。
「うん、下層にな雲霧街ってあるって聞いたやろ?」
「あ、うん・・・。」
「そこでなあ、なんとや。暗黒騎士が出没するっていうねん。」
「・・・へぇ・・?」
「こっちやと、暗黒騎士ってイシュガルドが発祥なんやってな。そんで、リンちゃんがもしかしたら?と思ったんやけど・・・ヴァナ?だっけ。
異邦人って言うからな。こっちの暗黒騎士とか、興味あるかなあ?思ってや。」
「その話題、ドコから?」
「ん~、タタルちゃんから聞いたで。今頃、噂話を探りに行ってるんやないかな?」
「そ、そうなの?(わたしが真っ先にお忍びで潜入したんだけど・・・言っちゃうか・・)」
「アルフィノも付いてるさかい、大丈夫やろ。っと、そろそろ飯ちゃうか?」
「そ、そうね・・(本当は、女の銃使いの噂が聞きたかったんだけど。)」

執事がドアをノック。昼食を告げるベルを鳴らす。

「ほな行こか。おもろい話が聞けたらええな。」
「そ、そうね。」



食堂には、そわそわとした空気があり、その中心人物はこの家の家長、フォルタン伯。
「おお、お客人。お待ちしておった。さあ、席にどうぞ。」
なんだか、貴族の招待というか・・少し上機嫌すぎな気がする二人。

「いや、貴殿達の先日の大橋での戦ぶり。内心どうあれ、ゼーメル家やデュランデル家も認めざるをえんようでな。感謝状を寄越してきおって。後見人として、儂も鼻が高・・」
「失礼致しますっ!」
突然、ドアを開け放ち入ってきた年配の執事。
「何事か!無礼であろうっ!」
「申し訳ありません!お客人方、お二人にとっても一大事でございますっ!」

???

アイリーン、エレディタは互いに顔を見合わせ・・そういえば、もう二人が居ない。
「アルフィノ様、タタル様が異端審問会に逮捕されたとの事・・・。今日、夕暮れに異端審問裁判が開かれるとの事。」
「異端審問会だと!?誰が申告したのだ?」
「は・・、グリノー卿、と。」
「あいつか・・・」苦虫を噛み潰したような伯の顔を見て

「あの?話がよう見えへん。教えてもらえます?」
「です。」

「グリノー卿は、頭の中まで筋肉でできているような知性の欠片もない奴だ。ただ、武に秀でているだけのな。
何故、あんな奴が栄えある蒼天騎士に名を連ねているのかが全くわからない。」
「お館様、お言葉が・・・」
「ああ、うむ。どうせ、儂の足を引っ張るために誰かがそそのかしたのであろう・・」
「ええと。ようわからんけんどさ?アルフィノ達はどうなるん?」

少しの沈黙。

「神聖裁判所にて、異端審問官から聴取を受ける事になる。」
「で?」
「其処で異端者と認定されれば、極刑は免れん。」
「どうすれば彼らの無実を証明できるんですかっ!」
「ううむ、審問自体は裁判所の中だけで行われる。が、無罪を勝ち取った者が殆どおらんのだ。噂では、審問官による拷問に耐えかねて有りもしない証言をして、死罪。
あるいは、その最中に生命を落とした、とな。 まことしやかに囁かれておるが、ここ最近に蒼天騎士になったというゲスな男が、その噂の審問官あがり、だそうだ。」
「なら、大丈夫・・じゃ・・?」
「いや、体質が変わるにはまだ早いだろう・・・アイリーン殿。」
「なんか手は無いんか?」
「・・・あるにはある。ただ。」
「なんでしょう!?」「なんや?」
「決闘裁判、という古式に則った裁判法だ。これは、互いの主義を正義を問うため、戦神ハルオーネ様の名の下に、騎士同士が命と名誉を懸けて戦うのだ。」
「・・・いいでしょう。受けて立ちます。」
「せやねえ。」
 
二人の決意を見て・・
「わかった。ならば、神殿騎士団のアイメリク卿を頼られよ。儂からも一筆と、オルシュファンを同道させよう。
卿とは仲が良いのでな。・・・せっかくの昼食が台無しになってしまったな・・。」

「いやいや、大丈夫やで。ちゃんと頂くから!」
「あ、うん。あ。はい!」
「どうにも、つまらない名誉争いに巻き込んでしまったようだ・・」
「ええって!しっかり英気養うで!な、リンちゃん。」
「そうね!」

二人は席に着くと、「冒険者マナー」でもって、昼食に手を付けていく。

「ふ、頼もしい・・・アルトアレールや、エマネランもこのぐらいの覇気が欲しいな・・」



応接間にて・・・

「お!来たな。しかし、今回の件。流石に謗りを受けても仕方がない。ゼーメル家は特にこの家を目の敵にしているからな。
感謝状を書いてる時には、さぞかし腸が煮えくり返っていたんだろうな。」
オルシュファンは壁にもたれかかりながら。

「知ってるの?」
「今回、告発したのはグリノーっていう、筋肉バカだが・・その直近にポールクランってのがいてな。そいつは平民出身だが、騎士を夢見てこのフォルタン家の門を叩いたんだ。」
「へぇ。」「そうなんだ?」
「ああ。ただな、平民出ってだから差別をする伯爵じゃない。ちゃんとした面倒を見てたんだが・・」
「が?」
「素行に問題がありすぎてな。俺みたいに、鍛え上げた体と精神があれば問題ないんだが・・」
「あー。わかるわ。うちも貧民街の出やしな。」「ちょ、エリ!」
「貴族の一員と勘違いしたヤツは、放逐されてな。同じく人格に問題があったゼーメルの筋肉ダルマに拾われた。
しかも、蒼天騎士に二人そろって抜擢されたモンだから、話題としては十分。あ、エレディタ。お前の身体は実にイイぞ!」
「誤解を招く言い方はヤメてくれへんやろか?」拳を突きつけながら。
「ああ。その拳。実にイイ。」
パッカーン!
銀髪の騎士がアゴを打ち抜かれて、ひっくり返りながらも 「・・・・イイ。」

「ふ~!ふ~!!」
「エリ?落ち着いて?ね?」
「せやな・・・リンちゃん。急ごか。」
「・・・エリ・・・少しは加減しないと・・・オルシュファンさんが居ないと・・」
「あ。せやかて、うちはコイツには術式なんて使わへんで。」
「仕方ないな・・・癒やしを。」小振りの杖を手に・・
「リンちゃん、術式使えるん?」
「む。黙っててごめん。あっちじゃ、アーティファクトを貰えるくらいには。でも・・なんか、こっちだと違和感があって、使ってなかったの。」
「じゃあ、今がお初?」
「でもないけど。他人には、初かも?」
「なるほど。・・・っと、お目覚めや。」
「イイ目覚めだ。行こう。」

(大丈夫かいな?)(大丈夫・・とおもうよ?)

3人は神殿騎士団詰め所に。
「オルシュファンだ。アイメリク卿にお会いしたい!」
(大丈夫?)(さあ・・・?)

「どうぞ。総長がお待ちです。」

(なんとかなるんや。)(ですね。)

ドアをノックし、
「どうぞ。」と返ってくる。

「では、行こう。」
銀髪の騎士は、我が家でもあるかのようにドアを開け放ち、二人を招き入れる・・・・

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