907セブンス。いざ!リゾートに!

チリンチリン♪
寝台近くのベルが鳴る。
「ん・・もう、朝か。」くせ毛の金髪の青年が寝台から起き上がる。
傍らにいる妻は、未だスヤスヤと寝息を。
普段より少し早い朝だからだろう、妻はそれでなくとも朝には弱い。
とりあえずは、顔を洗いに。そして愛する子供達の寝顔を見に隣の寝室へ。
そして。
「パパ。起きた?」娘から。
「ああ。おはよう。もう起きたのかい?」
「さっき、ベルが鳴ったのが聞こえたもの。」
「そっか。じゃあ、一緒に顔を洗おう。」

二人で顔を洗いに。「ねえ。ママは?」「うーん。気持ちよさそうに寝てたからなあ。もう少し寝かせてあげようかなってね。」「ふうん。らぶらぶ、ってやつね。」
「ドコでそんな言葉を覚えてくるんだ・・」未だ8歳になったばかりの娘。まあ、なんとなくは分かるが言い出すのもコワい。

顔も洗い終え「じゃあ、パパはママを起こしに行ってくるから、ターシャはアクィラをよろしく。」
「うん。殴り倒してでも起こしてくる!」「ダメだ。それはダメだ。ちゃんと起こすように。」
その後、息子の悲鳴が聞こえたが、諦める方向か、再教育の方向かで頭を痛めるウルラ。

「おい。マユ。朝日が見れる時間だ。そろそろ起きないと見れないぞ?」ゆっくりと体を揺らす。
「~ん~もうちょっと・・・。」うっすらと開いた瞼がまた閉じていく。
そこで。
「わっ!」と耳元で。
「ひゃあっ!」飛び起きる妻。
「もうっ!何すんだ!」拳が来る。
軽くかわして「起きたか?」なんて。
「せっかくいい夢見てたのに・・・」ぶーたれる妻を優しく抱き起こす。
「もっといいものが見れるんだ。さ。起きて。」


家族揃って案内されたビーチへ向かう。朝焼けの空は幻想的で。
暗い藍色から、青に、そして蒼に落ちていく切れ目に雲が薄くたなびいて・・・
淡い黄色から、段々と橙色になり、少し緋い弧が描く稜線と、水面に映るその優しい明かり。
昼夜を分ける境界線。
「綺麗・・・・」マユは白の薄手のワンピース姿で、この刻一刻と移りゆく風景をうっとりと・・
「ああ。」傍らには愛する夫もいて。
その横には、イマイチ分かっていない息子と、感動を共にする娘「きれい・・」

しばし、その幻想的な光景をただ、立ち尽くすだけ見ていて・・・・
完全に陽が昇ってしまった。
こうなれば、もうリゾートの景色になってしまう。
「ウルラ。ナイス!」夫の胸を叩く。
「どういたしまして。」「パパ!すごくきれいだった!」「眠いよぅ・・」
それぞれの感想の後に。
「朝食の準備をさせていただきます。しばし、そちらのパラソルの下にてお待ちください。」執事のララフェルが。
「奥様。それとお嬢様に。こちらのお召し物をご用意いたしました。着替えにはお手伝いさせていただきますので、いつでもお声を掛けて下さいませ。」
給仕長のララフェル。
聞いた話だと、二人は双子だそうで。なるほどなー、とか思ったのは後日譚。

いつの間にか用意されていたパラソルの下には、ゆっくりと横になれる寝台みたいなイスまで用意されている。
「ほんっと、至れり尽くせりよね。」「まったくだな。」「あとご飯おいしい!」「ぼく、ねむい。」
大して待つまでもなく、ビーチ用のカーペットに背の低いテーブルと、サンドとティーセットが用意され
「お待たせいたしました。」と執事のララフェルが。
広いビーチに、家族4人だけの舞台が演出されて。
「すごいな。」「わ。このサンド、具がお魚!なんのお魚かしら?」
「はい。今朝早くにあがったトンノ(マグロ)をソテーしてほぐしたものをドレッシングとあえて、採れたての野菜と挟んでおります。」
「すごーい。お父さんにこれ作ってもらおう!」「アレッサンドロ様の得意料理の一つだったと伺っております。」「食べたことないし・・・」
「ママ!食べていい?」「いいわよ。ちゃんとノフィカ様にお祈りしてからね。」

もちろん、この「誰も居ないビーチ」を準備したのは、百鬼夜行で・・・
「はい、ソコ!一般人が入らないようにちゃんと見張ってるのよ!」ジェメメがルガディンの厳つい男達を仕切って。
そこに。
「僕はいいのかナ?」いきなりの声。
「リ・いえ、フネラーレ姐さん!もちろんです!ただ、先客が居まして・・」給仕長が少し言葉に詰まる。
「ふうン?」
「はい。実はカルヴァラン棟梁のお知り合いの「天魔の魔女」様のご親族で。「しっかりと饗せ」と仰せつかっております。
もし、お顔が差すのを嫌われるのであれば、別邸に彼らを案内いたしますが?」
「イイ。知らなイ顔でもないしネ。」スレンダーながら、女性らしいスタイルで。
ついでに言えば、黒いセパレートの水着で、大きめのパラソルを持った彼女は、どこかの人形店にでも飾ってありそうだ。

「やァ。久しぶりかナ?」珍しく笑顔で。
「え?フネラーレ・・・さん?」驚きの顔で出迎えて「あ、お邪魔してます!」彼女がこの邸宅の持ち主の恋人なのは十分に知っている。
「そりゃそうか・・・」夫も立ち上がり「どうも。今回は無理を聞いて頂いて感謝していますよ。」礼を。
「どうゾ、ごゆっくり。家族団欒のお邪魔ヲするけど、ゆるしてネ。」
「とんでもないですよ。」「すみません・・」「ママ?このひとお人形さん?」「さわってもいい?」「君たちは黙ってなさい・・・すみません。ちゃんと教育しておきますから・・」
「いいヨ。子供達と触れ合う事なンて滅多にないからネ。」

しばらく後には子供達とビーチではしゃぐフネラーレの姿が・・・

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