882セブンス。黒い剣士のたまにはオシャレを楽しもう・・

「どうぞ。」
黒髪の剣士、黒雪は、どうにもハデ極まるヒューランの少女を招き入れた。

ここは「魔女の家」と呼ばれる、知っている者しか入れない、そんな家。もしも招れかざる客が来た際には、手痛い挨拶と、後悔を手土産に帰るハメになる。
そんな伝説めいた、「本当にあるのか?」な、家であるが。

そこに。ちょこん、と可愛らしくお辞儀をした少女。
赤と白のエプロンドレス、白黒の髪はゆるいカールのボブ。その色彩さえモノトーン、というか、モノクロであれば、世間様で言うところの「メイド」なのだろうが。

黒衣森でこんな珍妙な格好で歩いているとすれば、もはや一人しかいない。
「クラリオン」
彼女には、悲話がまとわりついている。
ただの噂としては信憑性を疑うにはどうか?というくらいの。
先の戦役、カルテノー戦。その後の謎の幻獣、いや、蛮神の龍族の王の一角。
その炎の洗礼で彼女の実家は焼かれ、彼女自身も瀕死の重傷を負い、家族はそろって焼け死んだ。
さらに、その廃屋は幽霊屋敷として、悪霊の住処となっていた・・・そして、彼女自身がその家を壊滅させたと。
自身の身内の霊や、自宅すら滅させた「鋼鉄の処女(アイアンメイデン)」と呼ばれている。

真実は違うのだが、彼女は「事実」を受け止め、その名を享受して。
ただ一人の主に仕えている。

その彼「黒衣」とも呼ばれる主人から。
「はい。ご主人様。いかがなさいましたか?」
「いやね・・昔馴染みから無茶な注文を。俺に女物の服を見繕って来い、と来たのさ。」
赤い給仕娘は小首をかしげる。白髪を少し、いやもう少し黒色に染めた少女は困り顔で。
「その・・大変、失礼な意見なのですが・・そのような申し出、却下されてしまっては?」
「そうもいかないんだよ。彼女には貸し借りもあるし。」いつ着替えているのだろう?黒いローブ?マント?姿でとんがり帽子。長いソファに横たわり、足を組んで。
帽子から溢れる黒髪は流れる絹のようにも、真夜中の蜘蛛の巣にも見える。
真っ白い容貌は女性めいていて、年齢も定かではない。

「クラ、お願いしてもいいかい?」
「はい。仰せとあれば。」


「ご主人様・・」
なんとなく、この依頼?を自分に振られた理由がわかってきた。
単に服をチョイスしろ、ではなく。
「下着」から、だそうで。
確かに、これは男性には選ぶどころかまずショップにすら、いや、それ以前か。
大まかなサイズは聞いたのだが、自分が使っていたものが果たして合うかわからないので、ベルを使ってグリダニアに居るリテイナーのミコッテの少女、
ヤーデに「なんでもいいからサイズこのくらい!いっぱい買ってきて!」
「ちょ!?ええと、オレ、今昼飯ッス!」
「さっさと行って買って来い!その昼飯、誰のおかげで食べれてると思ってるの!」
「ひゃああ!お、お金は?」
「今回は特別。「黒衣」って言えば、ノーパスで買える!早く行け!」
「りょ、りょうかいッス!」

「はぁ。ご主人様も無茶言うわね・・」
グリーンの髪のミコッテの少女に、自分も無茶を言ったのは自覚しているが、受け取って、すぐにその先に行けるのは自分か、ご主人様のみ。
ならば、買い出しは当然そうなってしまう。
背後から。「俺が行ったほうがよかったかい?」
考えを見透かされたか、小声が聞かれたか・・
「と、とんでもありません!」
「黒衣」は、「はは、悪かった。クラ。大した仕事じゃないがよろしく頼むよ。」
「はいっ!」自分が必要とされているなら、どんなことでもする、と決めたのだ。「ご主人様。」
「まったく・・ご主人様はやめろって・・」「いえ!これだけは譲れません!ご主人様は、ご主人様ですから!」(うーん。)押しかけメイドはココだけは・・


なんとか昼過ぎには、大量の衣類を送ってもらい、バカでかいカバン二つにパンパンになる量を。
「行ってきます!」「ああ。頼むよ。買い出しならともかく、着替えにまで付き合うのも流石にな。」「黒衣」はソファで寝そべったまま。


「えと。その。下着って、付けられないんですか?」まず最初にそこで驚いて。
裸身の女性に。
「あー。うん。こっちだとそういう物って聞いてたけど、使い方がわからなくって。」
「話になりませんね。淑女の嗜みです。それに、付けないと体のラインが壊れます。まず・・」
「うわ!きついきつい!」「胸のラインを保つためです。殿方に嫌われたいのですか?」「そ・・・」「では、ガマンしてください。」「はふ・・」
「その、それって履いてたら不便じゃない?」「履かない方が周りに恥を晒す事態になることを魔女様から注意されたのでは?」「あ・・・そうだな・・」

やっとの事で下着を付け終えて、次のステップ。
「次はこの黒髪をまとめましょう。が、服の色合いから。こちらはお好みがあれば、ですが。」
「あー・・・もう。お任せします・・」ある意味、先の下着騒動で心が折れた黒髪は。
が、しかし出された服の彩に目を輝かせる。
「この桃色のがいい!」
「ですと、そうですね。この長さですと編んだ方がいいか、ゆるい波をつけたほうが自然・・いや、敢えて真っ直ぐもアリですか。」と、なにやら思案。
「お任せします。」と、もうなにがどうなっていくのかわからない黒雪だが。

「いかがです?」姿見まで連れて行かれて。
薄桃色のワンピース、長い黒髪は真っ直ぐだが清楚に映る。小さい花をいくつもつけた麦わらの帽子。
どこから見ても、東方の暗殺請負をしていた女性には見えない。

「では、私はこれにて。」赤いメイド嬢は帰っていく。礼金の請求もなしに。

ふん♪ふん♪ふーん♪
姿見の前で少し、くるり、と回ってみながら。
「よし!」出かける準備をして・・・そろそろ陽が落ちてきて・・・・

せっかくの「お昼に映える衣装」が夜だと残念な結果になりかねないと・・・
「晩ご飯、ハクにお願いしよう・・・・」
衣装を丁寧に寝台横に畳んで、ふて寝をする黒雪・・・・

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