849セブンス。ある冒険者のお話。

「なにかあるんだよね。じゃ、探しにいかなきゃ。」
淡い桃色の髪のエレゼンの女性。
ナルヴィ・グローリャ。
両手の親指と、人差し指で空を切り取りながら。
脇にはスケッチブック、背にはランス。
悠々と荒野を歩いていく。

元はと言えば「グローリャ家」の血縁で、良家のお嬢様だった。
が、本家の従姉カテリナが出奔して、「死んだ」と。
それに衝撃を受けて、自分が救い出せてたら・・・と。
仲の良かった従姉の死に、自分がなにができるのだろう。

その次の日から、自分は絵かきになる。そう決めた。
スケッチブックをおねだりし、木炭でスケッチを始めたのが13の頃か。
少し、感慨深い。今、自分の歳はさらに重ねたが、こればっかりはやめれない。
「うん、いいね。こういう景色とか。」
荒野の先にあった小さな集落で、子供たちが騒いでいる。邪魔をする気なんて、もとよりない。
スケッチブックを開いて、描き始める。奔放な子供達。
が。
背後に不穏な気配。
スケッチブックをしまい、振り向く。
描きかけの絵は残念だが、記憶にはとどめてある。大丈夫。
ただ、
今、目の前にいる魔物が、さっきまでの子供達の笑顔を壊すのだけは見逃せない。
ナルヴィは。
「コッチだよ!」と挑発する。できるだけ子供達に聞こえないように小声で。
しまいこんだスケッチブックのかわりに、大ぶりなランス。
昆虫のような、それでいて大きく、尻尾の先には毒がある魔物。
言葉の意味がわかるとは思えないけれど・・・
今ので、注意は引けたはず。
「じゃあ、まずは!」
軽装の鎧に身を包む彼女は、「竜騎士」として名も知れて。

空を翔る。

エレゼンだろうが女性は軽い。そこにもって鎧も軽装。
だが。
槍は相当な重量。
上空から叩きつける、いや、突き出すこの攻撃は、竜騎士が竜と対峙するために編み出した技とされる。
「てやあ!」
胴体にランス「ペインハート(心の傷み)」が突き刺さる。

ギギギ!
反撃のために尻尾を振りかざす魔物だが・・・
「させないっての。」
ランスを引き抜き、正面から。
十分に体重を(鎧の分も)乗せて。
「一昨日来やがれ、この雑魚が!」ヘヴィスラスト。

ランスを引き抜いて、2度ほど振って汚れを払う。
「ホント、魔物て無粋よね。そーだ、コロセウムなんて開設ってあったし。あそこでちょっと儲けちゃおうかな?」
本職は絵描き、みたいな?
「でもねえ・・・ランス持ってたら、参加者扱いされちゃうかも・・・。」
少し考え。
「ま、いいや。ラザハンとか行った事ないしね。あっちの夜空とか、どれくらい綺麗なんだろうね。」
歩きながら、先ほどの子供達の戯れのスケッチに加筆を。
「いいのが描けたら・・いいね!」

ナルヴィは歩いていく。

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