814セブンス。少し先の話・・・のんびりとした・・・

「はあ。」
ため息とも、疲れとも取れる一息。
そろそろ青年といってもいい年頃のヒューラン。
ミッタークは荒い息を整え、目指した場所に行き着いた。

「こんなトコかよ・・・。」
深い森の中、暗闇に、そして木々に紛れて、その小屋があった。
場所は聞いて知っていた、というよりも、元々住んでいた「魔女」から聞いたのだから間違いはない。

ただし、「家」並にその場所の特定が難しい。なにせ、聞いていたのにわからなくなるくらい。
さすがの魔女の家だ。
苔むしたその小屋は、かつての魔女が住まいとしていただけあって、確かに趣がある。

ごくり。
唾を飲む。

この小屋に、仇としながらも、今となっては想い人と呼べる女性が住んでいる。

コンコン、とノックをする。

・・・・・・・


少しの間があり、「あいよ。」と彼女の声。
玄関のドアノブは無く、とっかかりがあるだけだ。
そこに手をかけた瞬間、ドアが内側から開く。

ゴっ。
同時に横手から丸太が振り子さながらに落ちてきて、彼の体を吹き飛ばす。

「なっ!!!」

横殴りにされて、マトモな装備もしていなかった彼は、玄関前で無様に転がった状態で・・・
「黒・・・ねえちゃん・・・」

「あん?ミッターか。どうした?」
「逢いにきたんだよ・・・」
「それより、このくらい避けろよ。ダセえな。」
「こんな・・・いきなりな仕打ち、どうかと思うよ?」
「私の恋人を自称するなら、このくらいはなんとかしろよ。」
「初めてだし・・・それにさすがは魔女の家だね・・・」
「ふん。」

魔女の家。
かつては幻術士の別宅だったのだが、弟子となった魔女がアチコチと改装してまさしくトラップ館になっている。
まず、不用意に玄関に立とうものなら、丸太が横から降ってくる。
それに、ドアも外開きに見せかけてあるが、実は内開きで相手を引き込む、ないしは盾にできる。
裏口には川もあり、逃走にも十分、食料確保も。
そして、大木の側だけに、その木にもハシゴがつけてあって逃走するのに使える(フェイクにも)木に登って逃げたと思わせて、川に潜む、という。
部屋にも仕掛けは山盛りで、寝台は二段に。
ただし、普通の寝台だが、半地下みたいな構造で上の寝台には木製の人形すら置いてある。
そして、その半地下すらフェイクで、その半地下を見つけた時点で賊は失敗に気づく事無く、落とし穴に落ちる。大体、逃げにくい半地下なんて寝台にするわけがない。
本当の寝台は天井裏にある。

居間にも仕掛けは満載で、シャンデリアかと見まごう照明も、ひも一本で落ちてきてガラスと火の粉を撒き散らす仕掛けがあったり(もちろん本人が巻き込まれないために紐は壁にある。)
キッチンには投擲用のナイフがいかにも料理用にズラリと並んでいたり。
そしてフライパンなど、盾に柄が付いてるだけとか。
とにかく、からくり屋敷の様相を。

「はいれよ。」
黒雪は、いつもの着流しではなく、少し薄い目の着物で。おそらく普段着、いや、部屋着、か。
家の説明を聞いて、ミッタークは呆然と。
いまの彼女は、もう「死人」なのだ。先の依頼で・・・殺してしまった。
「その・・」言葉に詰まり、勧められた椅子に座ると・・・
「この家な、面白いぞ。さすがは魔女の隠れ家、ってところか。」
「今・・・何してるの?」
「ふん、暇な時間を潰すにはいい。裏手の川で魚も釣れるしな。しいて言うなら、米粒が食いたいってところか。白が届けてくれるから、たまに足らない時だけ催促するくらい、か。」
「黒・・雪・・・」
「そうさな。人肌恋しい時もある、よ。ミッター。」
「うん。俺も。」
華奢な体を抱きしめる。

「で、だ。」その愛おしい体を引き離し。黒雪は。
「な?」
「これ、だ。」
布に包まれた長い物を突きつける。
「これ?」
「草薙の剣、だ。天の村雲ともいう。私は雨、の方が好きなのでそう読んだが。」
「え?」
「お前に皆伝者を譲る。私はもう死人だ。使うこともあるまい。」
「そんな・・・」
「その代わり、奥義全てをマスターしろ。いつでも来い。相手してやる。」
「黒・・・」
「ふふ、私はまた別の剣を用意している。例の社長繋がりでな。東方からの輸入もそれなりにできるようになったらしい。これだ。」
もう一本あったらしい(全く目に付かなかった・・・)一本。
「銘を・・村正、という。」
聞いたことがない・・・
「いわゆる魔剣でな。抜けば、目の前の相手を斬殺せねば収まらん、らしい。私らしいだろう?」
「それで・・・」
「お前を斬り殺す。そういうことだ。」
「いやだ!」
抱きしめ、唇を奪い押し倒す・・・・
「・・・うん。私も・・イヤだ・・。」
そのまま・・・・・

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