815セブンス。少し先の話・・・のんびりとした日常

ちゃぽん。
「ふん。」

釣り糸を垂らす。
明け方のグリダニア。まだ陽は昇っていないが、明るみが射している。
黒い髪は伸ばしたまま、昨夜の情事で乱れてはいるものの、絹のような髪はおとなしく。
「大物くるか・・・小物が来るか・・・。」

釣りには「まずめ時」というのがある。
朝夕の陽が昇るか、落ちるか。この時に魚が活発になってエサを追い求める。
この「魔女の家」を使うときに魔女本人から聞いた教訓だ。
確かに真昼間に釣り糸を垂れるより、朝夕のこの時間の方が圧倒的に釣れる。
眠たいが。
恋人は未だ寝台で夢の中、か。
「お気楽な事だな。」
独り言で寂しさを紛らわしながら・・・
「お。デカイ、な。」

ぐ・・ぐぐぐぐぐ・・・・

「おい、なんだこの重さ・・・」
ついグチが出るほどの。
張り詰めた糸が切れるかと思いきや、タイミングを取り引っこ抜くように。

びちゃ、っと揚がったのは、オロボンみたいな魚だった。

「なんだこれ?」
つい、パールで連絡する。
魔女のパールをもらったのは、この「家」をもらってからだが。
何かと分からない時に活用している・・・
(ああ、魔女?)
(なによ、朝っぱらから。)
(魚、釣れた。)
(良かったわね。)
(いや、悪かった。その、言い方が。)
(あ?)
(ヘンな魚・・・オロボンみたいなやつ。)
(マヂか!)
ヘンなテンションの天魔の魔女。
(あたしでも2回しか釣った事ないんだ!そいつ、ナマズってやつだ!生ではたぶん難しいが、鍋とか、焼くと最高だ!おい!スゥ!あの家に行くぞ!・・・・返事しろ!)
「あの・・魔女?」つい声が。
(ああ、レアな食材だからな。食べに行く。)きっぱり。
うわ・・マズイな・・・ミッターとの関係はすでにバレているが・・・二人の時間が減るのは惜しい。
しかしながら、このレアな食材を彼に食べさせたい、が。捌き方が今ひとつ、しかもどういう食べ方がいいのか・・。
これは仕方ない。魔女に協力頂こう。なにせ、ここで過ごしていたのだから。

ノック。
そして、ドアが開く。
「おじゃましまーす。」
横手から来る丸太をさらりとかわし、マユは挨拶を。
「流石に避けたか。」魔女。
「え、こんなの余裕じゃん。内開きなのも蝶番でわかるし。」
ごつ。
説明中、「振り子」な丸太が娘を殴打する。
「あーあ。やっぱりな。」レティシアが呆れかえる。
「振り子が一回で済むワケないだろー?」
「いたた・・・なんてワナしかけてるのよ・・・」
「避ければもう2,3回来るのわかるでしょうが。避けたらさっさと入る。」
「で、また別のトラップが仕掛けてあるんでしょ?」
「あったりまえ。」
「こんな家、住んでたら自分の命が危ういわ。」
「バカねえ、トラップは全部「自分で」発動なの。でないと面倒でしょ?」
「よーやるわ・・」
「さて、レアな食材を堪能しよう!」レティシアが意気込む。
「・・・ターシャやアクィラも連れてくれば・・」
「そんなに量ないから。彼女達と合わせて4人ならちょうどくらいかな。お昼だし。」

「あ、いらっしゃい。天魔の魔女レティシア、そして魔女の後継マユ。」
「どう?元気?」「どうも。初めまして、じゃないけど。よろしく。」
「なんかレアな魚と、小魚も釣れたから。小魚の方は、もう調理しちゃったけど。大物がね。」黒雪は困り顔。
「ああ、それなら・・」「母さんは黙ってて。どうせワイルド、野趣溢れる料理しかできないんだから!」
「マユ・・」「そっか、マユさんの方ができるんだね。」「まあね。母さんにさせたら、どんなレア食材でもバケツで煮込んでおしまいよ。」「・・・マユ、ひどい・・」

「このお魚はね・・・」と「ほう。」

近い年頃の娘達が料理談義で盛り上がる中。
「お前、とんでもない娘に惚れたな。」にやり。
「え?いや。その。」茶色い髪をかきながら・・・
「お前たち、とんでもない剣を揃えてやがるな・・」
「え?わかりますか?」
「当然だろ。天の叢雲に、村正、か。ああ、発音が少し違うのはクセだ。」
「彼女に・・皆伝者を名乗れ、と。奥義を全て受け継げって言われて。正直、まだ三之太刀までしか。先は長いです。僕が出会った時にはまだ20になってたかどうか。
その時にはすでに奥義をマスターしていて、本当に・・・彼女は・・・」(僕が殺して、よかったのだろうか?)
「いや、お前は正解だ。」
「え?」
「あいつを止めるためには殺すしかない。そして、殺してなお、活かしたんだ。もう少し自信を持て。
そして、奥義の練習相手なら、あたしが請け負ってやる。あんな物騒な刀相手だとしんどいだろう?」
「ありがとうございます。天魔の魔女。」


「でね、この魚はさ、ちょっと骨のつき方がオロボンに似てるんだけど・・」
「ほうほう。」

できたよー
小魚の刺身に、レア魚の薄味煮込み。
かなりの贅沢だ。そして、土鍋で炊き上げた白米とくれば、もう止まらない。
「ウマッ!」「美味しいね」「これ、なんていうんですか?」「知らん。」

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