692セブンス。師弟なような。

グリダニアは森の中、というか、森との共生をしている街。
自然との融合を目的とした街ではあるが。
それでも、暗部、というか。
どこにでもある、といえばそれまでだが。
「家」と呼ばれるメンバーたちが居る。
そのなかの一人、「黒衣」
年齢不詳、かつ性別すら一見では分りかねて。
トレードマークは黒い帽子。
とんがり帽子に、黒いローブ。
白い面に、皮肉な口調。
その彼が。
「僕としたことが。」と。
珍しく「家」を出る。




「ここ、ですね。」
真っ赤な給仕服、白銀の髪を少しだけ黒く染めた少女は、郊外にある半ば焼け落ちた屋敷の前にいた。
「それでは参ります。」と、杖を持ち歩みを進める。
玄関の前に立ち、ドアノブをひねろうとした瞬間。
ドアは勝手に開き、少女をそのアギトの中へ誘った。
「な!」一瞬の出来事に戸惑い。
ご主人様と普段呼んでいる、いや、崇拝している黒衣の男性に問いかけようとして、居ないことを思い出す。
「こ・・これは・・・?」
ヒューランの少女は、真っ暗な半壊した、いや、半分焼け落ちた屋敷の中を見渡すが、暗くて何も見えない。
それ以前に、先ほどのドアは?一体何がなんだか分らない。
とりあえず、もってきたランタンに火を灯そうとして。
火棒を靴底にこすり付ける。
そこに。
「おねえちゃん。火はダメだよ。」
と声が聞こえ、火棒は消える。
「ひっ!」
後ずさるが、後ろには閉まったドア。
慌ててドアノブを掴もうとして
なにか、違うものを握ってしまった。
「あ?」
乾いた、いや、枯れたような。
そんな、かさかさ、とした感触。
枯れ枝のような、何かに掴み。
そして。
掴み返された。
「おかえり。クラリ。」
「ひっ!」
どこかで聞いた、いや、知っている。これは。母の声だ。
さっきの声は妹・・・・
「いやあああああああっっ!」
クラリオンは絶叫を上げ、抜けてしまった腰をなんとか。
這いずりながら逃げ場所を探す。

当時。
気が付けば、目の前には黒衣の天使がいた。
全身が痛んだが、彼の言葉はそれを癒してくれた。
あの日。
一家団欒で過ごしていた。
妹はじゃれ付き、母は夕食の準備。父は卓についてワインを。
自分は、食事の前に湯浴みを、と。席を離れて。じゃれ付いてくる妹から逃げる方便でもあった。
が。
湯浴みの最中、いきなりの轟音。
何事かと思う暇も無く。
意識を失った。
後から聞けば、湯浴みをしていたためにこの程度の火傷だったと。
それでも致命傷になりかねない火傷。
それを癒してくれた黒衣の。

そして今。
思い出し始めた過去の亡霊が。

たすけて・・・。
黒衣の天使に。



「失せろ。」
凜とした声。
え?

「無粋な奴等だな。ちゃんと弔ったはずだが?」
黒衣の男は術式を展開する。

「だてええええ!!!!おんんねえええちゃああんがあああああ!!!!!」
走り寄って来る白骨に。
「お前は妹じゃないだろう?無駄な事をするな。」
「んなあああにいいいおおおお!!!」
「いいから失せろ。」術式を開放。
床を貫いて石柱が何本も。
その一点目掛けて突き刺さる。

あらためて師とあおぐ黒衣の男から目が離せない少女。

粉々に砕けた白骨を見たもう一体が。
「よくもおおおおおをををををを!!!!」

「もう一度死ね。」
先ほど石柱だった石達が、粉々となり襲い来る白骨を一瞬で白い粉にまですりつぶす。

「立てるか?小娘。」
「は、はい・・ご主人様。」
「クラ、お前はもう帰って夕飯の準備をしろ。」
「・・・・・はい。」
ふらふらと・・・・


「ここからは僕の仕事、か。」
まだこの館の「主人」は出てきていない。

「そろそろ出番だぞ?かりそめの主人。」
暗闇に。

「おっままえええええっ!!!」
焼け爛れた骨に。
「つまらん茶番は終わりだよ。家族ごっこがしたかったのか。気の毒だが、もう「終わった」話しだ。
それに、僕が弔った家族のマネをして、あの子にあんな目を合わせたお前達に、僕は容赦などしない。」

「くってやるうううううっ!」
「食えれば、な。」
「喰うっ!!!!!」
「終わり。」
パチン。指を弾く。
緻密で膨大な構成が呪と共に収束していき、光となって霧散する。

「やれやれ。小娘の尻拭い・・っと、僕が差し向けたのだっけ。困ったものだ。」
陰気、いや、妖気を纏った屋敷は今や只の屋敷になって。

さて。
「どんな夕食でもてなしてくれるのかな?」
黒衣を翻し、「家」に帰る彼。

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