693セブンス。術式。

「その。ご主人様。」
「どうした?」
とある「家」にて、簡単な講義を少女に。
なんというか、暇つぶしの一環ではある。
グリダニアという、魔法都市国家としての側面を持つ、瞑想窟。
そこでの鍛錬が基本ではあるが。

講義は続く。
「いいか。基本はイメージだ。」
「はい。」
この「術式」というやつは、構成を編みこんで、展開をして、呪となるキーワード、いわゆる呪文を唱えて初めて対象に影響をあたえる。
それが、致命的な攻撃であったり、致命傷すら癒すようなものであったり。
詰まるところ、構成が何なのか?が分らなければ意味が無い。
術士としては、サポートのために杖を持ち、威力の底上げをするわけだが、知識があれば別に剣士であっても使える。さらに言えば上級剣士「騎士」には必須な技能でもある。
癒す事を目的とした幻術と違い、攻撃に特化した呪術、というものもあるが。
基本的には同じ。
構成を編みこみ、魔紋を刻む。そしてその術式に魔力を注ぐ。
ただ。
この魔紋の構成はやはり、実力しかない。
そして、魔紋が理解できるためには、同じくこの学術を基本的に知っていないとだめだ。
結果として、最上位にあたる術式の構成が理解できる、ということは、同じくその構成が編めなければできない、ということでもある。
逆に言えば。
そういった知識を少しでも知っていれば、展開された構成を理解できない時点で勝負がつく。
そして、同じく。術士ならば。
展開された構成の緻密さ、が。
その、正確さ、密度、威力、と、ある程度分ってしまう。
ただ、これはある程度修行すれば身には付く。
才能もあるだろうが。
それにしても。
この講師にしてご主人様の構成展開は、意味が分ってしまった今、とんでもない物だと。
幼い頃、数式は習った。
だが。
そんなもの、がオモチャに思える。
それでも彼は「基本だ。」とだけ。
数式を3次元に展開して密度を圧縮して一人に対して数億単位の数式。
それだけで膨大な時間と思考が必要なはずだが。
たった一瞬でその構成を組み上げる。
そして、必要な魔力を注ぐための呪すら、恐ろしく短い。
たったの一言。
それだけで終わらせてしまう。
幾度と無く練習はしてみたが、到底できるものではない。
構成を編み、展開するだけで時間がかかり、魔力を注ぐ「呪」も、何かのキーワードを入れないととてもではないが、把握できない。
一言「あ」だけで、あらゆる術式を展開してしまうのだから。
ただ。
以前に一度だけ聞いたのだが。
「ご主人様。このような構成、どなたか身につけられたのですか?」と。
「ああ。いたな。ハイランダーの娘でな。父親からの依頼でね。」
「それは・・」
「ああ。天才、か。まだガキだったが、ちゃんと理解して実践してたなあ。ユーニ、だったか。お前も生き残りたいなら、理解しろよ。」
「はい。」






「凍えろ。」
姉の術式で敵の半数が氷に足を。
そこに斧で斬りかかり。
「砕けろ。」
足元の氷が全身に広がり、ガシャ。カシャン。と砕け散っていく。
「うちの出番ないやんか。」
「ほう。ほんなら次はお前一人でやりいや。うちは寝取るさけ。報酬も一人で使こたらええ。」
「え?ちょっと!お姉ちゃん!それだけは堪忍や!」

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