294書き物。少年と少女の始点。1

昼も過ぎ、森の中のような街、グリダニアの中を歩いていく。

「しばらくはこの空気ともお別れか。」

宿代わりに使わせてもらっているエレゼンのソーサラーの家から出て、しばらく。
金髪の少年は、先ほど食べた昼食を思い返していた。
「いつも通り、って言ったハズだが・・。」

実際には、いつも通りのメニュー。
しかし、それが多岐に渡ると、とんでもない種類と量になる。
一週間と表現するなら、3品X7皿、21品のメニュー。
しかも自家製パンがこれでもか、というくらいある。夫人の料理の冴えがここに見える。
ついでにいえば、保存食含め、夕食用のサンドなど、カバンに入るかどうか?という。
そして。
「え?お兄ちゃん。出て行っちゃうの?」
と、泣き出してしまう一家の一人娘にまで・・・。
(妹はもう一人いるんだけどな・・。放ったらかしだが・・。)
「まあ、また帰ってくるさ。」などと、適当になだめすかし。
「そうだな。」と一家の主。


思い出しながらも、自分の居場所があるのだ。とも思う。
キャンプにも帰らねばならない。が、アラミゴ自体にも帰還せねばなるまい。
そして、この家庭にも。

その想いは、ウソではない。
「おれも、なんだか妹みたいな一本気なところが出てきたか?」
独りごちたところで、幻術師ギルドに着く。

「レーゲン師は、おられるか?」と声を出す。大声だとウルサクない程度に叱られる。
「ああ。あちらに・・。」
なにやら、面倒だ、と言わんばかりの声にそちらを向く。


ピンク色の髪の悩ましげなミコッテが、大柄の赤銅色のルガディンの腰にしがみついている。
「おじさまー、どこに?」
「ああ、ラン。お願いだから納品の度に絡みつくのは勘弁してくれ・・。」

幻術師、導師レーゲン。そして、グリダニア中にその名を馳せる「グレートローム小農場群」その中でも、
一番の営業実績を誇るミコッテの女性。ラン・マーレ。
一部では、「災厄の子(カラミティ)」と呼ばれてはいるが・・。


「何やってんです?」金髪の少年は、もう呆れ顔を通り越して阿呆面に進化しようとしていた。
「いや・・。ウルラ。これは・・。」
「おじさまー。今日のカボチャは最ッ高に美味しいんです。煮込んでヨシ、焼いてヨシ、パイなんかにも抜群なんです!」

「いい家、紹介してやるよ・・・。」阿呆面のまま、口だけがそう動く。

しばらくして落ち着いてから、実はその家はお得意様だったということが分かった。

「で、ウルラ。お前は、幻術の道はどうするのかね?」
レーゲン。先ほどの雰囲気とは違い、己を見据える眼には力がこもっている。
「もちろん。やりとげますとも。」
真摯とも、不敵とも取れる言葉と表情。
「そうか。」
赤銅色のルガディンは、大きく頷いた。

「まあ、まずは。」剣を引き抜く。
「こっちから、ですかね。」業物の剣を腰の鞘に収めると、師ににやりと笑みを。
「ふん。好きにしろ。」
「はい。戻りましたら、よろしくお願いします。」一礼。
「ああ。」
二人の対話は終わり、少年は足を進める。





リムサ・ロミンサのレストラン。「ビスマルク」
潮騒が耳を優しく責める中、二人の女性は言葉少なく。
むしろ、潮騒に混じるように会話を進める。

「ンで?」
長い黒髪、白い地肌の女性。整った顔立ちに、不自然な髪型。
前髪だけが斜めに切りそろえられている。サラサラするような髪ゆえに、時々前髪が風に遊ばれる。
すると、右の黒い瞳とは別に、左の金色の瞳。そして、銀色の一房の髪。
「ネール、ってやつは用心深い。でも、これだけ見かけられてる以上、何か意図がある。その辺を踏まえて・・。クルザス。かしら。」
少女とは対象的に、浅黒い肌のエレゼンの女性。ウルスリ。

「おいおい。いい加減ナ情報だけじゃ、僕は動かないぜ?それと、コレだ。」
と親指と一指し指で輪を作る。
「報酬。」
「そうねえ。掛け合ってみるけど。時間が無いから。明日イチでよろしくね。」
「チッ。」
「ここのお代くらいは出しておくわ。」
「ッたりめーだろ。」
「フネラーレ。その名に期待しているわ。」
「ああ、自分の棺桶に足つッこみゃあ、誰だろうとぶっ殺シてやるさ。」

白磁のような白い肌と、夜のような髪を持つ少女はそのまま席を立ち、どこえとも無く去っていった。

「カルヴァランも、物好きねー。」と、残されたウルスリ。

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