997外伝2 開戦の前。

「聞いてくれ。」
少年とも取れる「彼」が高らかに。
「ここに、我々はクリスタルブレイブの設立を宣言する。」


北方の街。
吹雪が時折荒れるクルザスとは違い、常に冷気に侵食されている。
「妖霧」と言われるそれは、いつの間にか心に降り積もると言われている・・・

レブナンツトール。

有力な三国から離れたこの街は、冒険者達の溜まり場でもあり、蛮族の中でも凶悪な種が闊歩する地域でもある。
故に、過去の大戦の戦場に選ばれたのかもしれないが・・

「アルフィノ・・?」
傍らに立つ女性は、年の離れた弟を見るような、心配げな視線を。

「ああ。大丈夫だ。ミンフィリア。心配に及ばない。」銀髪の少年は、突き上げた腕をそのままに。



わずか、半月ほど前の話。

「へ?」
声を上げたのは、グレイの髪の女性。
「あ、その。確かに不躾である、とはおもっている。レティシア殿。」

確かに唐突すぎる訪問の上に、内容もどう考えても詰め込みすぎだろう。
ただ、目の前のエレゼンの少年?は、その年齢以上の風格と、覚悟を纏っている事は十分にわかる。
「で、さ。なんで、あたし?」
もっともな話。
なんせ、シャーレアンの賢者の中でも「賢者」として名を馳せたルイゾワ老の孫である。
ちょっとした国賓どころか、「賢者」亡き今、後継者として十分な国賓。
とはいえ、相手の肩書きで「評価」をしない魔女は、驚き半分、冷めた気持ち。

「いえ。今、とても重要な時期、だと判断をしました。」
「へえ?」
「十二跡調査会と、我々シャーレアンの賢者が手を組み、蛮神の討伐、ないしは滅する事を旨とする、「暁の血盟」を動かしてきました。」
「・・・で?」
「しかし、シャーレアン本国との連絡ができなくなり、本部たる島も・・「消された」という報告もあります。」
「らしいね。」
「このままでは・・・このハイデリン、いや、エオルゼアの窮地をなんとかしなければ・・・滅日を迎えてしまうかもしれません。」
「だから、なんであたし?」
「いえ・・本当の事をいえば。帝国と虚しい攻防を繰り返し、自ら破滅に、もしくは、帝国を破滅に至らんとするエオルゼアの思想には、吐き気がしていました。」
「ほう?」
「ですが、祖父ルイゾワは、そんな世界にあって尚、救済の手を。自らの命を使ってでも。そう、覚悟した上での・・」胸に手を当てるアルフィノ。
「そっか。そんじゃしょうがないね。あたしもあの爺さんには借りがあるから。」
「それでは!」表情が輝くアルフィノ。
「何を要望するのかわかんないけど。できる範囲で、ね?」ウインクを一つ。
「ありがとうございます。貴女の力添えがあれば、何でもできそうですよ!」
「そりゃまた・・(期待されすぎてもなぁ・・)。」
「では、今はまだ構想の段階だったのですが、各国をまとめたグランドカンパニーの実現を想定し、そのモデルケースとなる「組織」を作ろうと思っています。「暁」とは別の。」

・・・はて・・そんな大それた話は、各国首脳でもまずムリだろう。まず、他国が滅ばされようが、なんだろうが、自国の繁栄や、最低限でも死守する。
防備がままならない「他国」に、自国が体力を落として身代わり同然に朽ち果てるなど、治める側からすれば、愚の骨頂だ。
冷たいかもしれないが、為政者の権利の代償として、その責務は必然でもある。
「本気?」
かつて、故郷が帝国に蹂躙された時に、どこの国が援軍を寄越した?

「レティシア殿。貴女の故郷、アラミゴの事もある。それに、今回は、私の故郷であるシャーレアンも・・・どうなったかはわからない。今はその情報を集めているだけだ。」
「・・・」
「だが、各国は己が国益だけを重視して動こうとしない。そして・・故郷は、おそらく・・。」
俯き・・・何かに耐えている。
「で?」とりあえず、ニュートラルな声で。レティシアは表情を表に出さない。
「負け犬のままでは終わっていられない。」少年らしい、激情も要り混ぜながら。
「その感情が悪いとは言わない。」 でもね。「激情に駆られれば、その身も焼き尽くすよ?」
できるだけ、優しく。
「その意見はもっともだ。だから、提案を持ちかけてきたんだ。」爽やかな表情で。
「どんなの?」天魔の魔女は、やんわりと。
「私は・・自分の軍として立ち上げる。それも、相手は蛮族や、その神の問題に特化した軍だ。」
「・・・」ひゅー♪ 軽い口笛。
「だから、暁のメンバーとは、今まで通りとはいかない。その甘えがあれば、たちまちに崩れてしまうだろう。だから。私は、自分の手駒を揃えなくてはならない。」
「そんで?」
「その手伝いをして欲しい。」
「その組織に、あたしが入るかどうかは別なんだけど?」
「もちろん、それには配慮をするよ。強制になんて言わない。ただ、少しばかり手伝って欲しい。だめかな?」
はぁ。
「そんな目で見つめられちゃったら、蹴ったりできないじゃない?」微笑む。
「あ、いや!そんなつもりでは!」うろたえる少年総帥。

「ま、任せておきな。」魔女は、その名に見合った笑みを浮かべる。


「えー。母さん。そういうのって、あたしに任せるわけ?」
「文句言うな。傭兵とは少し違うんだ。もうちょい、上?」
「は?それって、どういう勧誘すれば?」
「いいから、知り合いを呼んどきゃいいんだよ。」
「えー・・・。」無茶だろう・・・とりあえず、夫にも事の詳細を話して・・それに、あのハイランダーの姉妹も声をかけておくべきだろうか?
マリー達には、なるべく最後くらいがいいだろう・・
マユは、夕飯に何を作るか考えていた頭を、違う方に・・・
「ママー」と子供達。「今日のご飯は何にしようかな?」取り合えず、街に・・


「あのさ。レティ?」
グリダニアでは。
「んじゃ、よろしく!」
「おい!」
さっさと移動術式の光の中に消えていく親友。またの名を「迷惑来訪者」
鬼哭隊を統べる彼女は、呆れたような。
「ええと。コレって、センナ様に報告してからの方がいいんだろうけど・・」
もし、そうなら、あの親友は直談判をしただろう。
ということは、コッチ経由で人手がいる、ということか。
公私混同になりかねない問題だが、断る理由がない。
「まったく!本当に!」
パールを取り出し(ネルケ!)(はい?)(今から、特別に指令だ。シャンにも伝えておいて)
(え!?)(いいから、言われた通りにしろ!)

パールからは、何やら伝心の余韻、それも不満があったよう。
「はぁ。確かに、あの時の恩人の頼みとあらば、か。」
スウェシーナは、さっきまで目の前にいた親友の場所に。
目を。
「困った話ばっかり持ってきやがって・・」



「おいおい?ちょっと魔女サン?」
ヒゲの店主は「溺れた海豚亭」のカウンター越しの相手に。
そろそろ、陽も暮れてきた。
「なんだよ?」
「いや・・そりゃ、な?わかんだろ?」
確かに、無理な注文なくせに、必須とも言える。しかも。
「あ、俺が居たらマズいのか?坊主。」
髪を短く刈り込んだ偉丈夫。
「いや、大将。久しぶりに会ったら、これまた・・」

アレッサンドロは、特に威圧をしたわけではないが・・
居るだけで、周りの空気が・・・。

視界の隅で、大男に一礼をして、そのままキッチンに消えていく女性。
(ウルスリ・・・)
ヒゲの主人はどこにも助けが無いのが分かり・・
「・・わかりやしたよ。大将。久しぶりの頼みとあったら、断る理由が見つかりませんや。」
「そうか。」大男は、ラムを飲みつつ。「レティ?他には?」と、横に居る細君に。
(細君、なんて表現が通じる、というか・・見た目だけはな・・)バデロンはラムをグラスに注ぎながら。
「んじゃ、よろしくー!」と、無邪気で少女のような「人災」を。
「へいよ。」 とりあえず、カルヴァランあたりに頼んでおくか。アイツの頼みなら、オッドアイ(呪眼)も断れんだろ・・

キッチンに消えていたウルスリが、チーズと魚介のカルパッチョを持ってきて、「どうぞ!」と。
(いいタイミングだなあ、おい。)バデロンは、このタイミングで料理を、なパートナーを見ながら。



結果、新規勧誘としては、グリダニアで二人、ウルダハで一人、リムサ・ロミンサで一人と、少なかったが、他にも熟練の人材も。

「さて。」
レブナンツトールで、総帥を名乗ることになったアルフィノ。その傍らには、金髪の女性、ミンフィリア。

透き通るような、少年の声は少し緊張を帯びてくる。
「我々の考えに賛同してくれた、諸君らに感謝の意と、そして一歩間違えれば命を落としかねない責を得て。私は、改めてこの場を誇らしく思う。」

「いいっすよ。この世界のため、ってんでしょ?」「私も、そこに共感しました。」・・・・
男女達が、口々に。

「それでは、この制服を配ってまいります。」
銀髪を刈り込んだ褐色の肌のヒューラン。
蒼いコートは、エーテライトにも似た色合いで。

中には・・「僕ハ、そんな目立つの、やめとク。」とか。
「ちょっと・・うーん。似合うかなあ?妻の趣味じゃないかも?」とか。
「うちは、かまわへんで。」厚底のブーツを履いた女性。「お姉ちゃん・・」
「ほうか、以外やったわ。」と、ナックルを装備した女性。
「こんな・・いえ、その・・。少し・・」普段は、重装備な女性が・・。

「それでは、我々の、クリスタルブレイブの、初めての仕事をしたいと思います。」
アルフィノが声高く。
「おう!」と、あちこちから。
「今、このレブナンツトールにほど近い、ホワイトブリムからの情報です。」
ざわ・・
「氷の巫女、と呼ばれる女性が、蛮神信仰の対象であること。そして、その信者達。彼らは、蛮族ではありません。もちろん、「巫女」本人もエレゼンである、という証言も聞けました。」
ざわつきが・・
「蛮神対策が本来の仕事である、暁の血盟から独立した我々は、エオルゼアのために、この問題を国境を越えて対策すべき、と考えています。
言い換えれば、今まで小規模にならざるをえなかった、暁に対処できない問題を解決するための。」
「おう!」
「暁の血盟とは、今まで通りの関係と、情報力という点を担っていただき、対等な関係を。
そして、武力は我々、クリスタルブレイブが担う、ということで、彼女。ミンフィリアとも共通の見解を得ました。」
「はい。よろしくお願いします。」金髪の女性が頭を下げる。

「まずは、この氷の巫女を追う。情報は先の通り、暁のメンバーに任せ、我らは各国に頼らずに結果を上げる」
 
いくつかの質問にも迅速に、的確に答えていくアルフィノ。
もはや、見た目が「少年」では、文句が言えないくらいの堂々とした。

「では、諸君。氷の巫女、そして、氷の女王シヴァを、なんとしても突き止め、顕現を許さないように努めよう!」
 おうっ!!!!


「お姉ちゃん?」
「なんや?」
「お姉ちゃん、もしかして?」
「アホか。巫女はエレゼンやろうが。それとも、今ここで氷柱にしたろうか?」
「ごめん~かんにんや~」

「やれやれ、だな。まずは情報待ちか。」
「おイ。血まみれ。」
「やあ。」
「僕の情報も教えテやるがナ。」
「ほう。」
「ちょっと、面倒ナ事になりそうダ。」
「おいおい・・・」


「あ、リトリーさん。」
「レティシアさん!」
「色々あったけど。頑張りすぎないように、ね。」
「難しいですね・・」
「そりゃあね?」
「じゃ。これにて。」
「はい。」


「りんちゃん。」
「はい?エリ。」
「ええか?なんていうか、成り行きやけど。」
「はい。」
「ちゃんと、目的の相手を見つけられたらええな。」
「そうですね。・・・」
「どないしたんや?」
「いえ。家名を名乗ることがなかったものですし。」
「はあ。それはうちもな。」
「こういうのは、いかがですか?」
「ふうん?」
「デッドロック(行き止まり)バースト(を壊すもの)と。」
「・・・えらい、かっこええの思いついたなあ・・。」
「お揃いで、名乗りません?」
「ええな。それでいこう。」
「じゃあ。」(オブデス、の家名はしばらく封印です・・。)
アイリーンは黒い髪をまとめながら、ニッコリと。

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ