996外伝2 前哨戦。 もう一幕。

「お姉ちゃん・・・」
少年は、目の前の戦闘(模擬)に。
「すっごーい!!」

雪の積もる中、膝をつくルガディンの「騎士。」

ドマ難民の少年、ヨウザンは握りこぶしを天に突き上げ。
走り寄ってくる。

「え?」
どうしていいのかわからない。
黒髪の女性は、無防備なまま、少年の抱擁にすき放題されて。

「まったく。こんなに強いなんて。反則ですよ。」グリーンのローブのエレゼンの青年。
「まあ、そう言わんといてや。」黒髪の女性。
「・・・」

「では、ホーリーボルダー。貴方も納得しましたね?」
エレゼンの彼は、呆れたように。
「ああ。さすがの英雄だ。俺たちも、あんたらみたいになれるように踏ん張るぜ。」
ルガディンの青年は、よろめきながらも自分の足で立ち上がり、握りこぶしを見せてくる。
「はーぁ。男ってのは、なんでこう面倒なんだろうね?」
横にいる黒髪の女性に。エレディタは困りながらも笑顔を。

「あの?エリ?」
黒髪は、雪風に流されるまま。まとめた時とは違い、少し儚げに見えるかも知れない。
でもそれは、見た目だけだ。

なにせ、目の前の巨漢の騎士を打ち倒したのは、まさに彼女なのだから。

「その・・・・?」アイリーンと名乗る彼女は。
今は、防寒用の厚手の外套に、木製の大ぶりの剣。もともと、彼女の持っていた剣はさすがに、という判断で、って、「聞いてる?」
はぁ・・
(まあいいや。話ができるようになれただけでも。)
エレディタは、目の前の女性を眺める。
少し年上、か。
本人の発言が正しければ、一回りとは行かないがかなりの年上となるが・・

「まあ、うちらはなんや。その。傭兵とかやなくてな。」
「はい・・・」二人の黒髪の女性は頭を抱えたり、お辞儀をして回ったり。

「いや。このドマの民達の希望の灯りとなさん、そんな方々が多いなか、食い扶持を求めて流浪の冒険者崩れや、傭兵なども多いのです。
ミンフィリアさんはもとより、タタルさんまで手に負えない状況。我々、有志で集った者達で、あえて皆の目に映るような勝負を挑むのです。」

「えーっと、めんどうやなあ?」
エレディタは、白い甲冑のルガディンの後ろに隠れるようなミコッテを睨みつける。
「あ。いや。その。今回はさ。ほら。」
銀髪の彼女は、尻尾を揺らせながら・・隣にいる銀髪の青年を。
(俺は関係ないぞ?)同じく視線を逸らしながら・・・
「ヤ・シュトラ?」拳聖は睨みつける。
「その。うん。あの・・・?もしかして、・・・あたし、悪いことしちゃいましたか?」
長い黒髪を風に任せながら・・

「「いや!!」」とエレディタ、ヤ、が。

(おい、コレどうすんだよ?イダ?)(サンクレッド!私に聞く?パパリモに聞いてよ)(イダ。聞こえてる。)
(あの・・俺、マジで勝つ気満々で挑んだんですよ?)(黙ってろ・・)
ルガディンの騎士に、ツッコミを入れる術士。

「あの?」
黒髪の剣士。
見た目は厚手の布鎧というか、ダルマみたい(本人いわく)に、木剣。
緊張感の解けた彼女は、むしろどこかのバザーで買い物をしている方が似合っていそう。
「リン、ちゃん?」
「はい?」
「その・・さっきのはさ。なんていうか。不幸な偶然って事で済ませて置ける?」
エレディタも、いつもの装備ではなく、寒冷地用に毛皮のコート。もちろん武装もない。



クルザスから、モードゥナのレブナンツトールまで来たところで、ちょっとした騒動に巻き込まれ。
エレディタは、ただの通りすがり。ちょっと通せ。
とばかりに、(少し)強気に衛兵に食ってかかったのだ。
普段なら、それほど問題もなく通されるハズだったのだが・・

タイミングが悪く、ちょうど東方の「ドマ」からの難民問題が上手く行っていないところに、「氷の巫女」を頭に上げる「異端者」が流入している、と、まことしやかに流言が。

「うちは、そんなんやあらへん!」
そういうエレディタに、
「では、そちらのお連れさんは?」
と、返されては、言葉に詰まる。
実際、彼女は謎の存在だったから。
自分が「拳聖」だと、言ったところで、地方の役人が知っているかは別で、尚且つ「拳聖」だから?なに?って言われてしまえばそれまでだ。
「剣聖」ほどに著名なら別だったのかもしれないけれど。(ミー、こういう時だけは、本当にうらやましいわ・・)

ふう。目配せを一応連れの女性に。

「クラウン・ザ・ジョーカー、ほどには及ばへんかもしれへんけどな。」
「は?」
硬直する衛兵。

ゴッ。

3歩先から一瞬で背後からの裏拳。もちろん、寸止め。
「わかったかい?」
にやりともせずにエレディタは、衛兵の青年に。

「こ・・・こやつをひっとらえろ!!」衛兵の青年は、至極まっとうな事を叫んだ。

あ、そりゃそうか・・?
エレディタは少しばかり頭に血が上っていたかも。と。連れの女性にぎこちない笑顔を向ける。
困りきった相手の女性は、はにかんで。少し首を傾けることしか。


「エレディタさん?」
銀髪のミコッテ、ヤ・シュトラは頭を抱えながら二人を見据え。
「んだよ、そっちが悪いんやん?」
エレディタは意に介さず。
「こちらの受け入れが悪かったのは反省する点です!」珍しく尻尾がピンと立っている。冷静な彼女からすれば、かなり今は興奮しているのかもしれない。
「まずはですね。いいですか?」
人差し指を、その名のとおり酷使する出番がやってきた、とばかりに。
「やめとけよ。」
エレディタはその指を、優しくのける。
「あの・・・あ、わたし・・・あたし。」
黒髪の女性。
指を指された女性は・・
「自己紹介が遅くなりまして、すみません。アイリーン、といいます。生まれは・・」
「いえ。こちらこそすみません。問い詰めるつもりは。ただ、少し風変わりな所がおありなようで。そのために面倒な事に。」
「いえ・・」
「エオルゼア、ではなく・・ですね?」
「はい。」
二人の会話。

「なー?ヤ・シュトラさん?聞いていいかなあ?」
「どうかしました?」
「この姉さんさ。ドコから来たん?」

アイリーンと名乗る女性は別室で休養している。

「彼女は・・・恐らく、違う位相の住人です。」
「は?うち、あたま悪いからさ?わかりやすく言ってほしいねんけど?」
「貴女が、頭が悪いとは微塵も思っていませんが、理解ができるか、納得ができるかは、別になる、と言っておきます。」
「喧嘩売ってる?」
「落ち着いて。彼女は、別の位相、世界と言い換えてもいいです。その旅人の「一人」でしょう。」
「え?今・・「一人」って?」
「はい。このハイデリンには、そういった「旅人」が何人もいる、みたいなのです。私たちシャーレアンの賢人達ですら、その総数は把握出来ていません。
「if」で言えるのでしたら、かの「魔女」もその一員なのかもしれませんが、彼女については履歴がはっきりしています。なので、「旅人」ではありません。信じられないんですけど。」
「そこまで調査してんのかい。」
「そこで。」
「んだよ?」
「彼女は、恐らく「旅人」だと思われます。」
「そらそうだろ。自分で言ってんだ。ヴァナ・・なんだっけ。」
「ヴァナ・ディール、です。」
「詳しいんだな?」
「ええ・・・かの世界の最高と言われる術士がわざわざ出向いてきましたし。」
「あー。なんかララフェルのやけにデカイ人形使ってたんだっけか。思い出したわ。」
「それだけではありません。どういった世界かはわかりかねますが、女性が流民同然に。」
「あー。あったな。消えては出てきて、って。」
「はい。」
「んで?うちに何が言いたいんや?」

銀髪のミコッテは少し考えながら。
「移ろうこの世界の「観察者」として、あなたの腕を買ってもいいでしょうか?」
「意味がわからへんわ。」
「そうですね・・突然ですし。」
「あのさ。」
「はい。」
「期待の裏にはな、虚しいつーかあ。やってらんねーって。あんだよ?わかるかい?」
「それを私に言います?か?」ヤ・シュトラは蒼い瞳に力を込めて。
「ルイゾワ師は!」拳を握り、叩きつけようと・・・

「ああ。わかってる。よ。そうクサんないで。」
振り上げられた拳を握りながら。

「もう!」涙目のミコッテ。優しく視線で返す。
「うちもさ。そういう事があったんや。わからんほど、鈍感やない。」
「・・・拳聖。」
「まあ、仲直り?はこれでええやろ?」にっこり。
「問題は、何が起きてるんや?」
「あ、」
正直、この問題が一番だったのに・・
「裏切り者がいるんです。」
「ありゃまあ。こりゃまた面倒に足つっこんじゃうんかな?」
「そうなってしまいますね。あ、謝りませんよ?」
「うちはいいよ。謝るんやったら、あの姉さんにな。」
「彼女には・・」
「ええよ。うちが面倒みる。」
「それは・・」
「拾ったもんが、面倒みる。それがうちらの「しきたり」や。それでも文句があるんやったら、提督に喧嘩売って来い?」
「・・は?」
「そんだけの覚悟あらへんかったら・・こんなんやってへん。」
「は、参った。拳聖。」
「やろ?」「そうね。」

二人の女性は、軽く拳を打ち付け合い・・

「またな。」「ええ。近いうちに。」

「縁起でもねえ。」



ドアを閉め、新しい相棒の元に。

「またせな。」「いえ。」
「やらんことがありそうなんや。いけるか?」
「へ?ああ。はい。彼女に会えるなら。」
「それは、保証できひんけどな。」
「それでも。」うなづき「ええ。大丈夫です。」
背中に背負った剣。
「なあ、その剣な。業物やろ?」
「あ、わかります?」
「そらそうや。」
「アスカロン、って云うんです。」
「へー。」
「冥途の川の、渡し守の。」
「そりゃ、おっかねー。困った人や。」
「前は、大きい鎌を使ってたんですよ。」
「はぁ?」
「あ、その。ええと。」
「ええわ。そんなん。」

(オブデス「死への・・」)をするために、死神の鎌を振るい続けてた、とは言いにくいよね・・やっぱり。
アイリーンは髪に手を伸ばし、長い黒髪を束ねる。



「で?」

「いや。まだ。」

「そんな事でこのまま話が進むとでも?」

「落ち着け。」

「どうして落ち着いてられるのか聞かせてよっ!」

「すまねえ。確かに俺の落ち度だ。」

「それは。」

「それは、言ってはダメ。それは「彼」の落ち度じゃない。」

「この先、どうするの?」

「それも含めて、求めるしかないのかもれない。」

「・・・・」

「結局、他力本願、か。」

「・・・」




「そう、悲観するものでもない、とだけ言っておこう。まあ、他力本願には違いないが。」

「!」

「ムーンブレダっ!」
「はは、イダ。そんなに抱きつくな。」
「あんまりビックリさせてくれるな。確か、砂の家に来てくれ、と打診はしたが。」
「アンタがこっちにいるんなら、この方がてっとり早いだろう?」
「そ、それはそうかもしれんが・・」
「ミンフィリア、あの坊やはまだかい?」
「ええ。」
「そうか。ま、少しオマケな話もあり、かね?」
「思わせぶりね?」
「ああ。今の段階では、まだ使い物にはならないけど試作品ができたんだ。その報告にね。」
「じゃあ!」
「ああ。アシエンだっけ?あいつらに対抗できるかもって。あくまでまだ試作。」
「それでも・・・」
「ちゃんと対抗するには、もう少し色々試行錯誤しないとさ。今日は息抜きに、ね。」
「な・・なんだ・・ムーン・・。」
「お、その呼び名は忘れてないんだね?」
「え?」

「あー。ウリエンジェさん?後はおねがい?」
「え!?いや、待ってくれ。私はそんな。」
「ツレねー事いってんじゃねー。」

(これは全て彼に任せよう。)
同志は一斉に部屋から駆け出す。

「あ、ミンフィリア。今日のご飯は?」
ミコッテの女性が声をかけてくるが、「今日はゴメン。帰って来れるかわかんない!」
と言い残し。
石の家の主要メンバーが走り去っていく。
ある意味、ありそうで、あったら困る光景ながら。
「はぁ。あの子ったら。」
ミコッテの女性はカウンターの中で少しションボリ。

「大丈夫でっす!ちょっと色々あるかもですが。大丈夫でっす!」
ララフェルの彼女の応援は、何かと嬉しい。
「そうね。」
気を取り直す。

そう、ここでちゃんと待ってる人が居るって、わかってくれてるから。



で。さ。
「んだよ?これはよ。」
「ええと。その?」
「黙れよ。拳聖。」
「そうだよー?」
「ああ、お前らが黙れ。なんだって、黒と戦がいるんだよ。」
「氷の巫女、だろ?うちにケンカうってるやんか?」
「せやせや。お姉ちゃんに勝てるわけあらへんのにな。」
「こりゃ・・いい見もの、でええんかな・・?」
「あの?」
「そういや、こっちの姉さんは?」
「あ。申し遅れました。あたし、アイリーンです。よろしく・・」
「ほっとけ、リン。こいつらはただの傭兵や。」
「いうてくれるやんけ?」
「せやで?」
「だったら、金の分だけ仕事せえや。」
「うっさいわ。」

黒髪の拳聖と、ブロンドの少女?が真っ向からにらみ合っている。
「あの?」と、とりあえず・・
「・・・・」「・・・・」「」「「「」」「」」」・・・

なんだか会話になっていない・・ぽいが、知らない仲でもなさそうで・・。
「あの。」と、背の高い妹?さんに
「へ、なんかあった?」
え?
この状況で。
「ああ。うちのお姉ちゃん、あの拳聖とは仲ええねん。せやさかいほっといてるんやけど?」
と。
「えええ?」
どう見てもケンカをしてるとしか・・・
「仲が悪かったり、タチの悪いヤツやったら、お姉ちゃんは瞬殺するからなあ。」
「へ?」
「え?いや、ガチで殺すよ?うちらは。」
「え?」
「そういう商売やからなあ。」
「ああ・・そう・・。」アイリーンは少し青ざめながら。(まゆりちゃんだったら・・絶対やらないよね・・)
「まあ、今はまだヒマ、やさかい・・」
「その?」
「ああ、うちは体張ってナンボやさかい。作戦はお姉ちゃん任せやねん。」
「へえ・・」うなづくしか。
「せやけど、あの拳聖はな。」
「あ、はい。」
「結構、芸達者やで?作戦とか、術式とか。お姉ちゃんとおんなじくらいに考えてるし。」
「そうなんですか?」
「せや。今もボンクラが動いてるやろ?」衛兵達を指さしながら。
「あの二人はその10倍くらいは動いてるんちゃうか?」
「えー、それは・・」確かに言い過ぎか・・?
「せやさかい、あんたはそのデカイ剣を言われるままに振り回せばええと思うで。」
「へ・・」さすがに、そこまで考えず、はなかった・・けど。

「一旦、退避や。」二人揃って。同じ事を。
「もう少し、様子を」「泳がす」

「はーい。」とブロンドの戦士。
「あの・・」
長剣の戦士は・・
「りんちゃん、な。引き際も重要なんや。ほんま、困る。」
「はい。」
「じゃあ、いこか。」

「はい。」

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