968外伝2 かつて・・

「汝、此度の卒業認定を授け、アルダネス教会所属呪術師として認定するものとする。」
「はい。」
「では、冒険者ギルドに話は通してある。卒業生としてその名に恥じぬよう、務めるがよい。発火者よ。」
「・・はい。」

黒髪の青年は頭を下げ、恭しく長衣を拝借した。
長らく過ごした学び舎だが、感慨らしきものは意外と少ない。
見た目は重厚だが、それは十二神の中でも死を司る神を奉っているからなのか、はたまた、故郷のグリダニアの様な生命の息吹が少ないからか。
「とはいえ・・・命の誕生を・・」司っている神もまた、この街ウルダハの奉るトコロだけど、ね。
独り言の後半は埃っぽい風にかき消され、青年の皮肉は手の平にある刻印ある魔石を暖め、冷やしていく。

与えられた長衣は、漆黒にも似た紅い色。「・・・らしいかも、な。」
エレゼンの青年は、ふと後輩、そして故郷で少しだけ顔を合わせた少女の事を思う。
(あいつ達は大丈夫かね・・?)
自分の術式構成を知りたいがために、女子寮まで呼び出してきた「真面目」なはずの赤毛の少女や、師からは「会うな」とクギを刺された妹弟子。
どちらも見どころがある、とは思うが・・

「今の俺がとやかく言うことでもないか。」

今年度の卒業生は自分一人。特待生扱いでグリダニアから渡ってきたはいいが、なにせ先立つものが「師からの推薦状」しかなく、
それも破門されてもおかしくない・・・逃げ出すように飛び出してきたのだから。
何故か荷物に紛れ込んでいたこの書物一つで何とかなったのは、或いは才能ゆえかも知れないし、師の根回しかもしれない・・・
考えをいったん現実に引き戻し、まずは当面の仕事探しから始めなければならない。
そのためには、宿探しよりもギルドに顔を出し、アテを見つけなければ。でなければ、どんなに宿を見つけた所でジリ貧になる。
主席卒業だろうが、そんな威信など、学院にいればこそだ。
世の中にはとんでもない化け物が、魔物、人族を問わずゴロゴロしている。
叙事詩や、英雄譚、果ては古代遺跡や、謎の文明まで引っ張り出せば、枚挙に暇がない。
そんな思考で暇つぶしをしながら、冒険者ギルドに足を運ぶ。

がやがや・・・
わいわい・・
ざわっ

こういう表現が正しいのだろうか?「音」として認識できるのはこんなところで、彼の長い耳をもってしても、一音一句を正しくは聞き取れない。ただ、雑音としか。
予め、ギルドの方に話は付けてあるとは聞いてはいたが、この喧騒の中、本当に話ができるくらいの音量となると、
叫び声しかムリなんじゃあなかろうか?とにかくも、蒼く光るカウンターに向かって歩く。
課外授業めいたもので、一応は「扱い方」は知っているし、依頼もこなしたこともある。
「ああ、申し訳ないんだけど・・」声をできるだけ張り上げる。
「あ!?どうした?兄ちゃん。ミルクが欲しければ、ここじゃなく屋台で注文しな。」男はすぐ近くにいる冒険者にギルドからの依頼証明のカードを渡している。
何も、相手が若い女性で、かつ美人?だからとでもいうわけじゃないだろうが、景気よく送り出し。
もはや、こちらを見ようともしない。

ダンっ!
カウンターデスクを叩く。
ようやっと、こちらにちらっとだけ視線を投げかけた男は、やはり冒険者らしき男に仕事のカードを渡している。
「話がある。」自分でも、これだけ感情を出したことが無いと思えるくらいに、低く。だけど激情を添えて。
「お・・僕は、アルダネスの学院の今期卒業生だ。学院からの話は聞いていないか?」書類を見せる。
「ふうん・・・坊ちゃん。いきがるのは構わねえ。だが、順番待ちって言葉は学院じゃ習わなかったか?」
その言葉に後ろを見れば、いかつい戦士らしき男が並びながらこちらを面白そうに眺めている。
「おお。いいぜ?せっかくの初陣なんだろ?先を譲ってやるよ。」「ヴォルフ。アンタがそう言うならな。」髪を剃り上げ、
厳しいカウンターの男が、ハイランダーらしい青年に、やれやれ、と。
「じゃあ、坊主。せっかくの優先順位だ。こンくれえこなしてこい。」カードを投げ渡す。
「ああ。」カードを受け取り、目をさっと走らせ内容の確認をする。
(な・・)内心、焦る。カードの内容は単純といってもいい。ただ、街近辺の雑魚相手じゃない。
内心を表に出さず、アルフレート・ロートスは静かに懐にカードをしまい込み、ギルドが兼業している酒場で夕食のメニューを探す振りをしながら、今後の方針を練る。

(西ザナラーンの賊の討伐、ね。敵は8~10人の山賊・・及び周辺の魔物も要注意か。基本的には、偵察隊から始末してできるならば、首領の捕縛・・か。
楽じゃないな・・。首領は放置して術式の狙撃で偵察を仕留める。無力化させて、敵に投降を呼びかければ互いに損耗は減る。コレしかない・・)
「おっと。兄ちゃん。メニュー選びにしちゃあ長いな?どうした?メインデッシュで悩んでたりするのかい?優等生なんやろ?」
先ほどのハイランダーの青年。自分よりいくつか年上みたいだが・・
「メインディッシュ、です。」
「そりゃ失敬。まだ訛りがぬけんかってな。アレだろ?リムサ方面の野盗共。俺も手を焼いてるんだ。
偵察の連中なんてな、いくら片付けてもキリがねえ。メインを美味しくいただきゃ、楽になるだろうさ。」
「・・・ストレートですね?」
「あ?そうか。俺は傭兵でね。まあ、こういう仕事はよくあるんだわ。ヴォルフってんだ。
オノ振り回しては、首を刎ねて回るのが仕事でな。ヘンなあだ名まで付いちまってる。」
「ぼ・・俺は、アルフレート。学院では「発火者」と二つ名を頂戴しました。」
「ほう。ソレはたいしたもんやな。」
「・・・」
「ほんな・・じゃあ、提案だ。発火者。二人でこの依頼をやらへんか?」屈託のない笑み。
「・・・どういうメリットがありますか?」慎重に。
「お前さん、人を殺したことがないだろう?」
「・・・(確かに・・)・・はい。」
「俺はもう何人も始末してる。もちろん、罪人に相応しい最期を、だ。カタギには手を出してねえ。
そんでもって、そんなヨゴレは俺が引き受けてやる。お前さんだって、望んでヨゴレたくねえだろ?」
「・・・」
「もう一つ。コレは役割分担だ。俺が盾役を引き受ける。なに、見ての通りのガタイだ。ちょっとやそっとじゃくたばらねえ。
それに、術士のお前さんだと、剣で切りかかられたらそんでオシメエだろ?悩んでたのは、いかにそのリスクを減らすか。だろ?」
「ああ。」
「じゃあ、この仕事は二人でやろうぜ。その方が効率もいいだろ?」
「ですね。ですが・・まだ俺は貴方を信用したわけじゃないんですよ?」
「だろうな。流しの傭兵なんてのはそんなもんさ。気に食わなけりゃ、途中で逃げても、丸焼きにしてもいいぜ。発火者さん。」

その日は、ギルド併設の宿に

「ヴェテックト師・・レティ・・」少年時代の思い出が・・・

自分の役割は敵の狙撃と、周りの警戒。そして・・生きて帰ること。

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