592外伝。コロセウム 幕間5

森の都。静謐な空気と、色濃い緑。しかし。

先の大戦の傷跡が居間尚残る中。
一人の女性は何時終わるとも知れない作業の最中に、封筒を受け取る。
「まったく・・。なんなのよ。忙しいのに。」
封筒を届けに来たのは、息子に嫁いでくれたミコッテの女性。
オレンジ色の髪の彼女は活発で、少し及び腰な息子をよくフォローしてくれている。
その彼女が。
「お義母さん、もしかすると、ですけどにゃ。イタズラだとかにゃあ?」
渡してくれた当の本人がそんなでは、確かに不安もある・・・が。
「うーん。まあ、見るだけは。大丈夫よ。持ち場に行ってちょうだい。・・あ。そうだ。この封筒はどこから?」
「ええと・・。ウルダハからの輸送物資からじゃないかにゃあ?鬼哭隊の執務室宛てに着てた、って聞いたにゃ。」
「そう、ありがとう。シャン。」
「いえいえにゃー!」元気に駆けていく。

ふむ。
改めて丸く纏められた封筒を見る。
封をしてあるのは黒い蜜蝋。印には、「Sc」
はて?こんな刻印を見た事があったかな?
字体そのものは装飾文字なので、何かのイニシャルで間違いはない、とおもうけど。
その装飾の風合いがどうにもグリダニア風な気がする。とはいえ、ウルダハから届いたのであれば、どうにも合点がいかない。

「あの、隊長!」部下が呼んでくるまで、意識はそっちに向いていたようで。
「ああ、どうした?」
「はい、お命じになった物資の搬送、および住宅街の廃物の移送、できましたので、報告にと。」
「ご苦労。少し皆に休憩を取らせてあげて。」
「は。その。隊長は?」
「わたしは、指示するだけだし疲れていないわ。気にせず各自休憩を。無理するより、確実にね。」
「はい、隊長。」(あなたが一番無理をされているのに・・・。)

もう一度。封筒を見る。そして、腰のポーチからペーパーナイフを取り出し、蜜蝋を切りとばす。
文面はいたって簡素、といってもいい。

「拝啓、鬼哭隊隊長スウェシーナ殿。貴殿をこの度、新生コロセウムにてプレステージを飾るメンバーとして、是非ともご招待申し上げたく存じます。
尚、ご観覧に御身内の方をご招待されるのであれば、どうぞご一緒に。心よりお待ちしております。主催側より。」

「う~ん・・。」イタズラ?にしては手が込んでいる・・。
パールを取り出し、旧友に伝心を。

「ね、レティ!?」
「ん”~?」
「あ、寝てた?」
「まだ昼下がりじゃない。昼寝もしたいけど・・。ターシャが寝かせてくれない・・。」
「あはは、あの子元気ね。マユちゃんソックリじゃないの?」
「マユはこの時間だと惰眠を貪ってた。ウルラ似じゃないの?これは。」
「似たり寄ったりね。」
「で?本題は?あなたは意味無く世間話に興じるほどヒマじゃないんでしょ?」
「そうだけど、世間話に興じたくなるほど現実から目を離したくもなるわよ。で、本題。あなた?この封筒出したの。」
「は?・・・ああ、ああ。コレね。もちろん、違うわよ。」
「あら、そうなると誰かしら?」
「2、3人、居そうな人物なら・・想像だけど。」
「今、軽く流したけど、レティのトコにも着てるのね?」
「うん。あたしと、ウルラ宛に。そっちは?」
「わたしだけ。神勇隊にも行ってるかな?あ、例のトコにも・・?」
「家、ね。だとすると・・やっぱり?」
「う~ん。話戻して、その心当たりって?レティ、2,3とか言ったけど。」
「ああ、うん。第一候補はコロセウムの陣頭指揮のナルディク&ヴィメリー社の社長でしょ。
次に、ファルベの黒猫、クォ・シュヴァルツ。彼は精力的にこの事業に参画してたみたいだし、発言力もね。
最後にマルス・ローウェル。彼女もアマジナ鉱山社とか先の会社とのパイプが太いから、クォ並みに発言力があるはずだけど・・。
彼女じゃなさそうかな。というのが、2,3の候補ってワケ。」
「なるほど。じゃあ、この封筒ってば、あながちジョークでもなんでもなく、まっとうな招待、でいいのね?」
「そうだけど。ただ、一文を読めばわかるかもだけど、必ずしも全員が観覧、と限った内容に取れないのがわかる?」
「あ。そういえば・・。」
「プレステージ、って。恐らく場内戦闘ね。噂に聞く、結界、とやらの術式のテストじゃないかしら?」
「物騒な・・。」
「あら、面白そうじゃない。あたしは行くけどね。」
「えええ!わたしはご遠慮しようかしら・・。」
「来いよ!ノリが悪るィな!面白いメンバーが勢ぞろいかもな!」
「うう、わかったわよ・・。ターシャちゃんにも久しぶりに逢いたいし。」
「また細かいの分れば連絡する!じゃあね!」

一方的に伝心が切られ。いや、しかけたのこっちだし。
案の定イニシアティヴ持って行かれた・・・。はふ。

シャンとネルケ、二人に任せておくか、それとも連れて行くか。
考えるのは後にしよう。夕飯のときにでも。


「隊長、休憩いただきました! これ、差し入れです!」
カーラインカフェのクッキー詰め合わせと、革の水筒には発酵乳。
「ありがとう、気が利くな。」

うん、部下たちはよくやってくれている。これなら・・
少しばかり羽根を伸ばすのも悪くは無い。


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こんにちは、最近、書店で「5分で読める、一駅ストーリー」って言うのを見つけて読んでいます。
とてもショートで本当に短い小説ですが、なかなかいい味を出しています。
「私も超ショートストーリーを書いてみようかしら」とふと思ったりする毎日です。
Queen Alutemis (Hyperion) 2013年05月23日 09:22

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>クイーンさん、ちわわw
ほほう、そういうのがあるのねwあたしも電車で通勤してた頃は小説は暇つぶしに最適でしたw
しかし、一駅しょーとかあ。むずかしいわよ?w
でも、そこに味が・・・。
是非チャレンジしてくださいなw最初は全部下書きでおいといて、加筆しながら、完成!となったら公開でw
あたしは、だ~~~~っと勢いで書いちゃう系だけどねw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月23日 09:34

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