う~ん。 ドコで間違えたかナ?
現状を鑑みて。
振り返って。
やっぱり、こんなヤツに雇われたのがミスだったのか。
現状は・・・
雲海と呼ばれる地域の「浮島」の一角、草原と水辺のある場所。
なんとかここまで、ほうほうの体とまではいかないものの・・・
かなりスリリングな展開でやってきた。
正直、移動術式でさっさと帰ればよかったのだが、いかんせん仕事の都合上、ここに荷物を隠さないとダメだったワケで、
しかもただの日用品ならそのままゴミでもよかったのだが、愛用の弓まで隠してあった。
コレばっかりは命と引き換えにしてでも守らなければ。
そして、ようやっと隠し場所までやってきて荷物の無事を確認。
パールで恋人に連絡をしたところ。
そしたら。
「まだ航海の最中なんだ・・」だって。
僕は航海に一緒に出られないのに。なんてヤツだ。
仕方がないから、森(グリダニア)の「家」にでも帰るか・・・
土産話もあることだし。
そう、土産話。
振り返って・・・
坊ちゃん貴族に雇われ、先行偵察を買って出て(なので荷物をここに隠しておいた)バヌバヌとやらいう蛮族と接触し、
あらかたの戦力を確認、「囚われた者」を演じ、戻ってみると見事に坊ちゃん達が捕まっていた。
さもありなん。 やっぱり僕がいないと。こういう連中は。
ちょっとした細工?もしたので、冒険者が来るのがわかっているし、ここは内外から叩く、という判断かナ?
少し甘いかもしれないが、これ以外に手はない。まあ、敵も大したことナイのはわかってるので、拳聖やら、黒いのが来るし。なんとか。
さて。
問題は「神官」とやらが居なかった事だ。どうやら行き違い?になっていたのか。な?
まあ、居たところで見分けがついたかどうか?
今更だけどね。
そして、騒動を起こし始めた冒険者達と合流して・・・・
ココでミスったんだよネ・・・
トリ族め。
最後尾にいた少し?飾り気の多いバヌバヌがなんだかわめきながら踊り始めたのだ。
もうちょっと、分かりやすくしてよ。
と思っても後の祭り。
目の前で踊り始める神官の声に熱がこもり始める。
そして、それに呼応するかのように周りのバヌバヌ達も踊り始める。
なんだかマッズイね?コレ。
ダガーを抜き放ち、背後から首筋に刃を滑り込ませ・・・
がづっ。
チっ!
羽根の付け根が邪魔して一撃で致命傷とはいかない。せいぜい皮の下がいいところだろう。
くっそ!鳥の捌き方って、羽根むしってからしか知らないヨッ!
右手一本じゃなく、左手も添えてこのまま刃を突き込もうとするも・・・
「来たりませ、来たりませ。泡立つ雲の神に捧げなければならなり!」
くっそ!
「白き神!!!!!」
ぶしゅ。 刃が太い血管を貫く手ごたえ。だけど・・・
遠雷と共に、強烈な圧迫感が襲ってくる。
ダガーをひねりながら抜き放つ。が、鮮血を噴き出しながらも踊り続ける神官。
まさか。
これがテンパード(魂に焼き印をを刻まれた信者)、というやつか。
即死レベルの傷だろうが、現に踊っているのを見ると、寒気がする。
バヌバヌの神官の断末魔と共に、崖際に雷雲が現れ始める。
薄青い空と、たなびくような綿毛みたいな雲の隙間から、溢れ出るように濃く、密度を伴って。
雷雲が具現化していく。
「蛮神!」誰かが喚く。
つい、反射的にそちらを見てしまい・・・絶句する。
ガレー船に匹敵する、いや、さらに大きいか?
雷雲は膨張を続け、雷が紫の光を放ちながら解き放たれ、その中に「なにか」がいる。
生物に見えなくもないが、すべてを晒したワケではないのに、この威圧感。
「!」
反射的に左目を覆う。
そして、眼帯をしていたことを思い出し、安堵。
こんなモノを「呪眼」で覗いてしまえば、魂を焼かれるかもしれない。トンでもない存在感。
「・・おお、おお。我が願い・・・・」
神官の最期の言葉を聞く前に、その体を横に投げ打ち。
拳聖始め、冒険者達と目が合う。
「まずいネ。」
「フネラーレ!お前の仕業だろう!?」拳聖が鋭くツッコミを入れてくるが、正直狙いどころが完全に違うところに行ってしまっている。
「人聞き悪いネ??」
まったく、僕は悪い事をしたつもりはないんだけど。
兎にも角にも、バヌバヌ族と蛮神が居てどうやって逃げ出そうか?なんて考え中のところに・・
「おい!こっちだ!!!」響く青年の声。
そっちを見ると、岸壁の際に飛空艇。そして、一人の青年騎士。
ふうん。
どうやら、お助け部隊?が到着したワケだ。貴族サマサマ、ってね。
じゃあ、僕はこの辺で・・・・・・
できるだけ岸壁を見ないようにしながら、こっそりと戦闘の範囲から抜け出していく。
まったく、空飛ぶ島に、鳥蛮族、さらには蛮神ときたもんだ。
そういえば、話には聞いてたけど初めて見たナ・・・
冒険者連中、よくあんなのと好き好んで戦り合うよな・・
泉が幾つも重なり合った場所にようやっと戻ってきて、一息。
魔物の類はいるが、うかつな事をしなければ見つかることもないだろう。
「さテと。」
荷物を回収して、移動術式で帰還すればいいだけ。
報告をいくつかしなければならないけど、それは明日でもいいだろう。
そろそろ、陽も傾いてきている。
なにより、恋人は「お仕事中」なので、することと言えば、「家」に戻ってぐっすりと寝ることくらいか。
まあ、ひとつやり残した、ということがあれば、かの女隊長に事の顛末を報告していない事だが、所詮は上っ面だけの関係なので、この際気にしない。
「よし。」
愛弓と、なぜだかクチが少し開いていた荷袋を締め直し、肩にかけると目を瞑り、移動術式を発動させる。
ん?
なんだか、違和感を背中に覚えたが・・・
浮遊感と共に、消えていく。
んん?
ふわり。
清々しい森の空気が肺を充たす。
清涼な風と、冒険者達の声。
物売りの呼び掛け、走り回る子ども達の喚声。
(着いたか。ふう。なんともこの空気は何時になっても馴染めないナ。)
取り敢えず冒険者っぽい服装にしたので、自分で思うほど浮いてる訳はないはずなのに、何だむず痒い。
とまれ、「家」に帰ろう。そして惰眠を貪る。ああ、メシだ。
パールを取り出し、食事担当のミコッテ、ショコラを呼び出す。
が
「ごめーん、今ね出先。悪いけど、何処かで食べてきて~」
あん?珍しい。最近じゃ、当然のように買い出ししてきては、お代とおこぼれ、というか一人分以上食べて、更に寝転がってからお出掛けという、寄宿。
もとい、寄生ライフを送っていたのに。
まあ、それはいい。元より一人暮らしだし。
適当に出店で料理を見繕って、残りは包んでもらい夜食に。
「う~~ん!」
リビングに入るなりで大きな伸び。
奇怪?な土地だったからか、はたまた蛮神なんてモノに遭遇したせいか、なんとも肩が凝るけど。
荷物を放り出し、愛弓を壁に掛ける。眼帯を外し、ゴミ箱に。
ついでに現地で貰ったパールも投げ込み、椅子に腰を落とす。
さて、後は着替えと荷物。
そう言えば…あの違和感は何だったのか?
取り敢えず、汗と土汚れの着いた衣類は纏めてゴミ箱の横に。
下着だけになると、裏手の小川に出向く。
桶に水を汲み、下着を脱いで放り込み、汗を落として洗濯。
ついで、濡れタオルで身体中を拭い、髪を洗っていると。
「な~ぉ」と鳴き声。
ん?
川岸に黒い猫。
「ああ、ヨル?どうしタ?」
手を振り、下流に住んでいる女剣士を思い出す。
初めてこの猫が此処に来たときに、素っ裸に抜き身の刀を持った女性が来たモノだから、大いに焦ったものだ。
猫を追いかけて此所まで来ただけでもびっくりだが、まさかのいでだち。
迷い猫を渡して、その後しっかりと宴会をしたのはもうかなり前の事だったように思う。
その時に、それなりになついてくれたので彼は時々こうやって出張してくるのだ。
しかして、今は。
「フー!」と、毛を逆立てて威嚇している。
「ヨル?」
よく見れば、どうやら僕の後を見ている?
ハッと振り替える。
其処には。
「…」
「…。」
「フー!」
「何ダこれ?」
茶色くて、子供が遊ぶような蹴毬を引き伸ばしたかのような胴体?に、明らかに大き過ぎる眼。取って着けた感のある細い四肢。
だが、きちんと立っているし、勿論アルイテハド来たのだろう。
何処から?
「あン?」半ば呆気にとられて見ていたら、黒猫がソレに襲いかかり、押し倒してしまった。
「あ。」
慌てて、猫を引き剥がそうと…
「ふみゃあ!」
?
何故だか、襲いかかったはずなのに、前肢でソレをコロコロと転がして遊び始めた。ついでに抱きついて、一緒になって転げ回っているし。
気に入った?
兎に角、乾いたタオルで身体を拭き、2匹?を部屋に招き入れる。万が一、ヨルに何かあれば、あの剣士は黙っていないだろう。
危害が無くてもかじりついて腹でも壊されたら堪らない。
が、どうにも杞憂だったよう。
「何だかネ~。」
すっかり打ち解けた?2匹はまだまだじゃれあっているようなので、餌になりそうな物を見繕いにリビングに。
ここではたと気付いた事が二つ。
1つは、荷物袋が開いてた事。どうやら、あの違和感はつまりそう言うことだったらしい。
なんとも厄介な…
どうしようかと気になるが、もう1つ。
テーブルの横に置いてあったケース。上には手紙が添えられていて。
取り敢えず、封を切る。
中の便箋には「近くまで行ったんだ。次に会う時に着て来て欲しい。 カルヴァラン」
慌ててケースを開ける。中には、レモンイエローの豪奢なドレス。
「サベネアンドレスっ♪!」東部地方の有名な民族衣装をベースに、綺麗な装飾であつらえた名品。
下着一枚、なんて頭からすっ飛ぶような満足感。
「やるじゃン。」
もう一度、ドレスを抱き締めると名残惜しそうに綺麗に畳んでケースにし舞い込む。もしあの猫達がこれを見つけたら!
恐ろしい未来を見せつける事になるだろう。
そういう意味では、あの得体の知れない何かは、十分以上にもてなしてやってもいいかもしれない。
兎に角、ヨルには早々にお帰り頂き、試着をすぐにでもしなければ!
そう言えば。
ゴミ箱に目をやる。捨てたパールであの女騎士の隊長にアレは一体何なのか聞いてみなければ。
二匹は相変わらず、ゴロゴロとじゃれあっているし、餌用意だ。
何だか、今日は忙しい。