856セブンス。とある冒険者の日常・・・みたいなもの。

潮風も涼やかな明け方。
港の街、リムサ・ロミンサの埠頭で。
「どうです、釣れますか?」
薄桃色に脱色した髪のミコッテの青年。
釣竿を持って。
「うむ~なかなかなのじゃよ~。」
目の前には、カボチャ頭のかぶりもの、そして下着一丁のララフェル。
埠頭に座り込み、釣り糸を垂れている。

そして

周りには・・・

「錆びたバケツ」が3つ。いや、頭に乗っかった物を入れれば4つか。
誰がこんなもの捨てるのかよくわからないが、それを釣り上げ続けるのも、それはそれでちょっとしたスキルなのかもしれない。
「おうさま、なんだってそんなものを頭に?」
青年、リガルドが。
「うむ。ワシは王様ゆえな~。王冠がいるのじゃよ~。」
振り返ると、バケツがズレそうになって、慌てて手で止める。

そりゃ、よほどのバランスがないと落ちるだろ・・・なんて思いながら・・・
リガルドが隣に。
「じゃあ、俺も釣りを。」
「おお、挑戦は受けるのじゃよ~。」
「いや、その(バケツ対決するつもりはないですけどね・・)」
「このバケツは、釣った魚用なのじゃよ~。ワシの意気込みなのじゃよ~。」
「そーですか。」
(そういえば埠頭だと、船乗りが浸水用に準備したバケツを捨ててもおかしくないな)なんて思いながら、バケツは釣らないようにしないとな、なんて。

「ん?」
「どうかしたんじゃろか~?」
「いえ、多分かかりましたね。」
「バケツじゃろ~。」
「・・・・っと!」
竿をあげる青年。
小ぶりだが、オイル漬けにすると美味しいロミンサアンチョビ。
ひょいっと竿を振ると、「剣王」の頭の上のバケツに。
「な、なんじゃと~。」
「いえ、せっかくご用意されたんですし。」エサを付け直し、また竿を振る。


新しくバケツを釣り上げた剣王と、すでに爆釣といってもいい釣果の青年。すでに剣王の頭の上はアンチョビでいっぱいだ。
「そろそろバケツ替えますか?」
「うむ。許す。」
そろそろバケツの重みで倒れそうなララフェルの頭からバケツを取り・・

「あ。その・・・。」
女性の声に思わずバケツを取り落とす。

どすん。
ララフェルが大量の魚が入ったバケツを頭に落下させられ、倒れてしまう。
「あ、君・・ミー?どうして?」
青年が少し驚いた表情で。
「あ、あの・・」
顔を真っ赤にしたエレゼンの女性は、普段着ではなく、少しは気を使ったのだろう、というのがわかる服装。
「こ、あの。これ。」
バスケットを。
「ありがとう。どうしたの?今日は相棒の子は?」
「うぇ!?エリ?エリのほうがいいの!?」
「何を?」
「あ。わたし、何を・・」
「まあ、落ち着いて。ああ、焼きたてのパンだね。もしかして?」
「ああああ、うん・・わたしが・・」母仕込みの。
「ありがとう。朝食にいただくよ。」にっこり。
「そ、それと。これ。」水筒には果実を搾ったジュース。
「じゃあ、遅くなったけど。おはよう、ミー。ありがとう。」一礼。
「ああああ、そうだった、おはようそのりがうどさん。」

「若者はいいんじゃな~。」横倒れになり、ぴちぴちと跳ねる魚まみれの剣王。

(うっわあああああどうしよう!?エリったら、パン焼けっていうから朝一で焼いたのに、どっか行っちゃうし。メモにはここ、って書いてあったから来たけれど・・・)
顔は真っ赤にになっているのがわかる・・・

「お礼に抱きしめてもいいかな?」
返事の前に、ギュっと。
「あ。」

ボンっ!
ミーランの頭の中で何かが暴発した。
「あ、急で悪かったよ。ミーがこんなに魅力的だと改めて知っただけ。」
「・・・・・・ぼふ!」
倒れそうになった彼女を改めて抱きしめ、くちづけを。
「いいかな?俺の恋人になってほしい。」真摯な目で。
「・・・・・・・・・うん。」うなづく。

「いいのお、若者は~。」剣王は魚をバケツに入れながら。

明け方の朝日の射す中、カップルができるのを見守る剣王。

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