848セブンス。妖刀 参

「ヨルくん?ちゃんかな?」
黒髪の女性。見た目通り清楚な感じだが、先日辻斬り騒動を起こしてしまった。
その事実を突きつけられ、正直立ち直れるか、わからない。
だが、目の前のクァールの子とじゃれあっていると、少しだが癒される。
「夕鶴、買い出し頼むぞ。」声がかかる。
この家の主、黒雪。
東方の本国では、双子の妹と親友だった事もあり、面識も。
それゆえ、こうやって「魔女の家」に匿ってもらっている。
凶行に及んだのは確かだが、ひと振りの妖刀が招いた殺人行為。
それを容赦してくれるという・・・・

にゃあん。ヨルがじゃれついてくる。

「はい、何がいいですか?」
「そうだな、最近は魚ばっかりだからな。肉!」
「はい。」

この、黒雪も実は暗殺稼業をしていて、かつ「消された」という事になっているので、あんまり街には出歩けない。
だが、この夕鶴は、未だ犯人がバレていない、ということでちょっとはマシに買い物ができる。
妹に頼んでもいいが、商家に嫁いだ彼女は何かと忙しいので、なんでもかんでも頼みごと、ともいかない。
まあ、匿うついでにメシの一つでもやらせようと。

あと二日。

その日に魔女が手配した便で故国に帰る事ができる。
彼女が罪の重さに耐えかねて、出頭するというのなら、それもやむなしだが。
それについても、温情を加えてもらえるよう、手配するとまで。

「では、行ってきます。」出て行く夕鶴。
「ああ。」

まだ明け方過ぎ。この街の朝は遅いが、街に着く頃にはいい時間だろう。
(しっかし、あいつ、剣術なんて学んでたっけ?)確か記憶にあるのは、彼女は商家の一人娘だったはずだ。刀を振り回すとか、考えられない。
(いや、だから、妖刀に魅せられたのか。)
自分も妖刀「村正」を佩いている。だが、この呪いは自分で制御できている。
「刀の主(ソードマスター)」としての、いや。元、か。少し皮肉る。まあ、そのくらいには扱える。

「何が食べれるかな?ヨル?お前もお肉がいいだろ?」
にゃ!すり寄ってくる

しばらく子クァールと戯れながら待つことしばし。
ココン コン コン! この符丁は夕鶴か。
玄関に。
しかし、ノックする調子が強い。
ドアにある隙間から外を覗く。この家はからくり屋敷みたいなもので、色んな仕掛けが。
まず、夕鶴が見える。そして、その後ろに。
「入れ!」ドアを開ける。「着けられたな?」後ろの連中を見る。
「すみません・・・・」荷物を床に置きながら女性は倒れるかのように家に。
相手を見る。
冒険者、のようだが、どうにもタチが悪いような表情ばかり。
(まいったね・・・この家も知られてしまった、か。)
殺るしかない、か。
「おい!そこの女ども!お前ら例の辻斬りじゃねえのか?」
男が。残り二人は黙っているが、妙にニヤけている。
「そいつには賞金がかかってる。もちろん、かばってるヤツがいるなら追加の賞金だ。それに、こんな場所に隠れ家なんて。完全にお前らだな?」
「不語。(かたらず)」
「へへ、一晩中俺らと遊んでくれるなら、黙ってやってもいいぜ?なかなかの美人だしな。」
「下衆め。」ドアから出る。柄に手を。「村正」の試し切りには丁度いい。
「はん?やんのか?」連中が剣や槍、杖を。
「かかってこい。」黒雪が凄む。
「あ、黒雪さん!」夕鶴は見つめるしかできない。
「このアマっ!死なねえ程度にいたぶってから、楽しんでやるぜ!」
「不笑」
剣が繰り出され、彼女を襲う。
が。
「ふん。」刹那の抜刀。ちん。
「あ?」手首ごと剣を持って行かれ、男は何が起きたのかわからない。
他の二人も、勢いよく突っ込みをかけ、構成を。少しまずい展開と言える。
そこに。
「やあ。君たち。この森で悪さはやめてくれないかな。」ひとつの影。
黒いとんがり帽子に、黒いローブ。帽子からは流れるような黒髪と、女性みたいな面貌。
「誰!?」黒雪は。
「ああ、お初にお目にかかる、かな。俺はマミヤ、でいいよ。この森でのやっかい事を引き受けてるんだ。そして女性の味方でもある。」にっこり。
「あんだ!?てめえ!」3人がそろって。
「俺の領内で好き放題されてもね。そろそろお帰り。」
ポカンとした3人。そのまま帰っていく。
「な!?何?今の?」術式を使ったようにも見えない。ついでに切り飛ばされたはずの手ももとに。
「レディに対して不埒な奴にはお仕置きも必要だね。ああ、安心していいよ。ここでの記憶は無くしておいたから。」
「へ?」
「じゃあ、俺はお暇するよ。そして、黒雪嬢。妖刀でも不殺ってのがいいね。どうか、そのままに、ね。じゃあ。」
「あ、ああ・・・ありがと・・・」
影に消えていく黒衣を呆然と。
「なにあれ?」

後日、夕鶴を帰らせた後、魔女に聞いてみた。「ああ、アイツな。ただの「もののけ」だよ。」と。

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