ちゃぽん。
「ふん。」
釣り糸を垂らす。
明け方のグリダニア。まだ陽は昇っていないが、明るみが射している。
黒い髪は伸ばしたまま、昨夜の情事で乱れてはいるものの、絹のような髪はおとなしく。
「大物くるか・・・小物が来るか・・・。」
釣りには「まずめ時」というのがある。
朝夕の陽が昇るか、落ちるか。この時に魚が活発になってエサを追い求める。
この「魔女の家」を使うときに魔女本人から聞いた教訓だ。
確かに真昼間に釣り糸を垂れるより、朝夕のこの時間の方が圧倒的に釣れる。
眠たいが。
恋人は未だ寝台で夢の中、か。
「お気楽な事だな。」
独り言で寂しさを紛らわしながら・・・
「お。デカイ、な。」
ぐ・・ぐぐぐぐぐ・・・・
「おい、なんだこの重さ・・・」
ついグチが出るほどの。
張り詰めた糸が切れるかと思いきや、タイミングを取り引っこ抜くように。
びちゃ、っと揚がったのは、オロボンみたいな魚だった。
「なんだこれ?」
つい、パールで連絡する。
魔女のパールをもらったのは、この「家」をもらってからだが。
何かと分からない時に活用している・・・
(ああ、魔女?)
(なによ、朝っぱらから。)
(魚、釣れた。)
(良かったわね。)
(いや、悪かった。その、言い方が。)
(あ?)
(ヘンな魚・・・オロボンみたいなやつ。)
(マヂか!)
ヘンなテンションの天魔の魔女。
(あたしでも2回しか釣った事ないんだ!そいつ、ナマズってやつだ!生ではたぶん難しいが、鍋とか、焼くと最高だ!おい!スゥ!あの家に行くぞ!・・・・返事しろ!)
「あの・・魔女?」つい声が。
(ああ、レアな食材だからな。食べに行く。)きっぱり。
うわ・・マズイな・・・ミッターとの関係はすでにバレているが・・・二人の時間が減るのは惜しい。
しかしながら、このレアな食材を彼に食べさせたい、が。捌き方が今ひとつ、しかもどういう食べ方がいいのか・・。
これは仕方ない。魔女に協力頂こう。なにせ、ここで過ごしていたのだから。
ノック。
そして、ドアが開く。
「おじゃましまーす。」
横手から来る丸太をさらりとかわし、マユは挨拶を。
「流石に避けたか。」魔女。
「え、こんなの余裕じゃん。内開きなのも蝶番でわかるし。」
ごつ。
説明中、「振り子」な丸太が娘を殴打する。
「あーあ。やっぱりな。」レティシアが呆れかえる。
「振り子が一回で済むワケないだろー?」
「いたた・・・なんてワナしかけてるのよ・・・」
「避ければもう2,3回来るのわかるでしょうが。避けたらさっさと入る。」
「で、また別のトラップが仕掛けてあるんでしょ?」
「あったりまえ。」
「こんな家、住んでたら自分の命が危ういわ。」
「バカねえ、トラップは全部「自分で」発動なの。でないと面倒でしょ?」
「よーやるわ・・」
「さて、レアな食材を堪能しよう!」レティシアが意気込む。
「・・・ターシャやアクィラも連れてくれば・・」
「そんなに量ないから。彼女達と合わせて4人ならちょうどくらいかな。お昼だし。」
「あ、いらっしゃい。天魔の魔女レティシア、そして魔女の後継マユ。」
「どう?元気?」「どうも。初めまして、じゃないけど。よろしく。」
「なんかレアな魚と、小魚も釣れたから。小魚の方は、もう調理しちゃったけど。大物がね。」黒雪は困り顔。
「ああ、それなら・・」「母さんは黙ってて。どうせワイルド、野趣溢れる料理しかできないんだから!」
「マユ・・」「そっか、マユさんの方ができるんだね。」「まあね。母さんにさせたら、どんなレア食材でもバケツで煮込んでおしまいよ。」「・・・マユ、ひどい・・」
「このお魚はね・・・」と「ほう。」
近い年頃の娘達が料理談義で盛り上がる中。
「お前、とんでもない娘に惚れたな。」にやり。
「え?いや。その。」茶色い髪をかきながら・・・
「お前たち、とんでもない剣を揃えてやがるな・・」
「え?わかりますか?」
「当然だろ。天の叢雲に、村正、か。ああ、発音が少し違うのはクセだ。」
「彼女に・・皆伝者を名乗れ、と。奥義を全て受け継げって言われて。正直、まだ三之太刀までしか。先は長いです。僕が出会った時にはまだ20になってたかどうか。
その時にはすでに奥義をマスターしていて、本当に・・・彼女は・・・」(僕が殺して、よかったのだろうか?)
「いや、お前は正解だ。」
「え?」
「あいつを止めるためには殺すしかない。そして、殺してなお、活かしたんだ。もう少し自信を持て。
そして、奥義の練習相手なら、あたしが請け負ってやる。あんな物騒な刀相手だとしんどいだろう?」
「ありがとうございます。天魔の魔女。」
「でね、この魚はさ、ちょっと骨のつき方がオロボンに似てるんだけど・・」
「ほうほう。」
できたよー
小魚の刺身に、レア魚の薄味煮込み。
かなりの贅沢だ。そして、土鍋で炊き上げた白米とくれば、もう止まらない。
「ウマッ!」「美味しいね」「これ、なんていうんですか?」「知らん。」