784セブンス。幕間(somewhere

少年は。
裕福な家庭に生れ育ち。
何不自由なく過ごしてきた。

どうして?

簡単な理由。
答え。

「育ちがいいからだよ。」

こんな答えを同い年の学友に自慢してきた。
でも。

同じ台詞を他人から浴びせられたら、これほど屈辱的な言葉もあったもんではない。

初めて。か。
地面の香りを嗅いだのは。
土の匂いとは、こういうものだ。そう実感できた。

右手には木でできた剣。
左手は・・・。
口元に。
倒れた、いや、倒された時にひどく頬を打ったらしく、痛みが尋常ではない。
「くろ・・・雪!」
立ち上がるが、足元が・・・ふらふら・・と・・・

少年は、叔母を名乗る少女にもう一度。木剣を向ける。

「来い。」黒髪。肌もあらわな衣服。冴える眼光の。

全力で立ち向かい、渾身の一撃を。少年は。

それを軽くいなし、木剣の腹で頬をぶつ少女。
「立て。」とだけ・・・・

今日。初めての「稽古」に、ミッタークは。
「明日!」
土の匂いに、鉄の香りが混じる中、そう口にし。去っていく少女に訴える。
「来い。」
その声を聞きながら、意識が・・・


「ミッター?」
意識が・・・
「・・・ク・・・ねえちゃん・・・?」
白い髪は長く、結い上げられて。目元には涙すら浮かんでいる。
その目元のホクロがとても似合っていて、美人だなあ、と。
先ほど?打ち負かされてしまった少女と、それ以外は瓜二つなのに。
頬に冷たいタオルをあてがいながら、白髪の少女は「もう、姉さんったら。」とこぼしている。

「うん。大丈夫。ハク姉ちゃん。」
なんとかそれだけ言うと、ミッタークは心地いい時間を過ごす。


「家」と呼ばれる場所。
その「家」に自分が来て、理解するまでに1年以上・・・必要、というか、理解はできないのかも。
ただ、「自分の居場所」が必要で、そのためにこの二人がいる。

黒い雪と、白い雪。

後に知った事だが、彼女達は東方の生まれで、二人をして「乱れ雪」と。


暗殺者。
今でこそ・・・。
自分もその道に入ってしまった。
理由は・・シンプルだ。
育ててくれたのは、彼女達だから。
でも、知ってしまった事実もある。
父を殺害したのは、他でもない。

彼女。

「許さない・・・・。」


ある日。
その事を知らされた時。
「・・・ごめん。」とだけ。

白髪の彼女は。
「姉さんは。・・・私のために。わかって、とは言わない。」そう言い、布に包まれたものを。
これは・・・
「これ・・?」
「そう。子狐丸。私の分身。それで私を斬って。」
「ハク姉ちゃん!」
「・・・・・」



「ああ!そこのお姉ちゃん!そう!あんた!ええと、白い子って知ってる?」
ん?
「あ?」返事もそこそこに、八百屋の女性をあしらう。
「いやねえ、そっくりだったものだからさー。」と言われ
言われてみれば、双子なのだから当然だが・・・買い物担当は妹に任せっきりか。
「そうか。で?」
「あのねえ、その。アナタ。こう言うと失礼なんだけど・・あの子にね。いい人が・・・」
「は?」
「いやね、姉妹じゃないかなあ、なんて思ってたんだけど・・。片方にだけいい話を振るってのもねえ。よければ、どうかしらー?なんて?」
「・・・ああ。言っておく。」
「よろしくねー、黒雪さーん!」


ん?
首をかしげ、歩いていく。



「よくできました。おばさん。これは報酬です。」革袋を渡し、銀髪の青年が去っていく。
振り返った時に。
目の前に矢が刺さる。
果実を射抜いた矢には、「振り返るな」とだけ記されたメモが。


「だルい仕事だナ、ボンクラ?」
「上等じゃないですか?」
「そうカ?」
「ええ。今回の件では、ひいふうみい・・・両手で数えない切れない方達の幸せが詰まっています。」
「デ?」
「それだけの件ですし。オファーとして十分じゃないですか。」
こんこん、ノックの後。

「にゃあ!今回は景気のいい仕事だったって!?キーさん、奢り?」
茶色いミコッテが転がり込んでくる。
「僕は・・リンゴ一個、仕留めたダケ。」と、黒髪の美女はそっけなく。
「こっちは大収穫ですからね。ショコラ。もうひと月くらい先ですが、食べ放題の恩恵に。」
「まじっすか?キーさん、それ、まじっすか?」
「日程は・・・まだなんとも。ですけど。」
「キーさん、ださーい!」
「お前ラ、黙ってロ。」



「その・・。姉さん。」一通の書簡。
「なんだ?白。」
姉妹は二人だけで。

「これを。そして・・・ミッターク。彼には全てを話しました。これ以上、私の心の中で留めておくには・・・。」
「ああ。そうだな。私が悪かった。」
書簡には目もくれず。
妹を抱きしめる。
「姉さん・・。」
「アイツもそろそろ使い物になってきたからな。」
「・・・。」
「そんなとこだろうって、思ってたよ。」
「気づいて?」
「ああ。お前は幸せになれ。」
「姉さん!」
「悪いが、この身の上だ。正面きって祝ってやれるのは、この場だけだし。」

はい・・・。

涙と共に・・・。ごめんなさい・・・裏切る私を・・・。許しを請うことは今しか・・でも許されない・・・
ミッタークの願いを・・・受け止めてしまったから。最初で最後の依頼をします。

「・・・俺は・・・仇を取りたい。」

この願いを・・・。



「ハク姉ちゃんって、何着ても似合うなあ・・・」
少年は、婚儀で礼讃を・・・
「私には似合わないって?」
「え?そんな事!」

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