「ふむ。」
陽光の中。淡い金色にも見える薄桃いろのかみは短く。
呼吸を乱す事無く。
リズムよく身体が踊る。
「快調!快調!」
少女は尻尾を振りながら、軽い服装で楽しむように・・・剣を振り回している。
蒼い刀身の片刃の剣「ジュワユース」は、まるで帯のように、空の蒼さを写したように、揺れ、惑い、流れる。
そして、傍らには赤銅の肌の青年。彼は肩で息をし、ぜいはあ、と。両手に剣を持ちながらも、その体格からすれば・・・少女の倍はあろうかというのに。
師弟は、まだ出会って3月ほど。
ハウンドと呼ばれる青年のとりなしで、この関係にあるが。
どうしようもなく・・。この青年には果たすべくして、果たさないとならない使命を己に架し、ひたすらに剣を振るう。
が、少女は気が向いたとき。その時だけ。
剣を指導する。
「師匠・・。」ルガディンの青年は、目の前の少女を見て。
「ワタシの事は、剣聖と呼んで。」とすまし顔。
「はい・・。アイ殿。」
「剣聖。でしょ?」ミコッテの少女はそれでも怒るでもなく、むしろ笑いながら弟子である青年に声を。
剣聖。
数多あるふたつ名の一つ、と呼べる者。
過去には、ナイト・オブ・ラウンズ、チェック・メイカー、クラウン・ザ・ジョーカーなど。
そして、サン・スパーダ。剣聖。
目の前の無邪気な少女が、その名を馳せる。
「決して沈まない艦艇」「不敵の賢者」「切り札」「剣聖」
豊かな表情で踊る彼女が、その一角であるとは。
「ねえ。」
といきなり話を振られ。
「はい?」
「ヴィーは教え方ウマイでしょ?ワタシと違って。」
「ええと・・。」
彼は。ユパは師匠と呼ぶ相手が実はもうひとり。
ハイランダーのヒューランで、歳は・・ミコッテの師匠より少し上か。自身と同じくらい。
ただ、二つ名があるわけじゃないが、強力な剣士で闘技場でも有数の腕前らしい。
この二人は親友らしく、二人がかりで自分を教えてくれている。
ただ・・・目の前のミコッテは、楽しんでいるだけにしか見えないけれど。
「ほれ。正直に言え。」尻尾を逆立てる彼女は、疲れ果てた自分をからかっているようにしか・・。
「そうですね・・。剣聖は・・。おいらをどうしたいんです?」
本当に正直な感想。
「剣聖にふさわしい漢に育てる。」真顔で。
「へ?」
「基礎的な所はヴィーがやってるでしょ?ワタシは、剣技の「妙」を教える。」
「妙・・ですか?」
「ワタシは二つの刃を同時に操れる。アンタは?」
「いえ・・。」
「なら、それを学べ?」
「・・・はい。」
「姪を取り戻すんでしょ?」
「はい!」
ぽん。と。彼女の右腰に収まっていた剣、ソードブレイカー。
目の前に放り出されて。
「2本の剣。コレ。同時に抜くとどうなる?」
「え?両手に剣、ですよね?」
「バカ。それをすれば、左手首が落ちる。」
え?
左手が?
「右手の剣が長い。抜刀時間も長い。同時に抜けば、左手が落ちる。」
「ああ・・・。」先に・・
「左手から抜刀。が、同時に見せかけねば、脅しにならない。」
「でも・・。」
「大きく使う動作は、小さい動作を隠す。左手はあくまで俊敏に、右手は大きく時間をつくる。」
・・・
「両腰の剣を同時に抜刀、というのは、そういうこと。」
「錯覚、ですか。」
「そうだよ。できるようになれ。」
「そんな・・」
「できなけりゃ、違う手を考えろ。」
「・・・はい。」
じゃ。
「今日はここまで。ワタシは美味しいお店に行く。じゃあね。」
・・
奔放な彼女は、月に数度しか鍛錬に付き合ってはくれないが・・。
「剣聖、か。」
天賦の才、とはいえ・・この年頃で。恋多き少女は何を想うのか。
「はぁ。ワタシにもうちょっと時間があればなあ・・。」尻尾を振り、耳をピンと立てながら、もう一度耳を寝し・・・「こんな役回り、かぁ・・。出ておいで。愉快な連中。」
彼女は路地裏で「愉快」な連中を叩き伏せ、露店に向かう。
「アイ、容赦しすぎねえ。」
美丈夫な女性。
「ヴィーがやれば、磔クラス。」
「素手であれだけやれば、もう来ないんじゃないの?」
「いやいや。多いんだわ。」微笑。
「無理はしないようにね。」
親友の声に。
「無理は出来るうちにする。それがワタシの生きる時間だから。」
「そう。じゃあ。いいお店見つけたんだ。そっち行こう!」
「ヴィー、期待してる。」
「ウルダハじゃ珍しい、海産物なんだ!」
「そりゃ、行くしかない!」