赤銅の肌を持つルガディンの青年は森の精霊達に豊穣を得れたことを感謝しながら、意気揚々と我が家へと帰路に就く。
陽はもうしばらくすると山際の稜線にかかるだろうか?
「姉ちゃん、よろこんでくれたらいいなあ。」
足取りは軽い。
彼はローエンガルデ族の青年。ユパ・ボレーズ。狩人を生業としているが、どちらかと言えば、この部族はシャーマニズムから発展していく幻術も盛んだ。
ただ、この青年はどうも身体を動かすのが好きなようで、狩人を営んでいる。
だが両親は共に「火渡り」と呼ばれる修練を重ねており、術式を編む腕前が集落でも5本の指に入るとも言われているため、息子の体力勝負にはいつも苦言ばかり。
そんな家庭ではあったが、姉モニカだけはいつもかばってくれた。
そしてある時、冒険者と呼ばれる職(そういうものがある、とはこの時知った)の青年が行き倒れていた。
おなじくローエンガルデの青年エテ(と名乗った)は、とりあえず見つけた姉が家まで連れて行こう、と。
姉を手伝い、青年を家に入れるとやはり、というか両親はいい顔をしなかったが、姉は気にせず看病を始めた。
かいがいしい看病(姉は術式が使えない)のおかげで青年はなんとか回復し、集落を出ようとしたのだが、この時姉の心はすでにこの青年と共にあったのかもしれない。
そして、大ゲンカの末、勘当を言い渡され、青年と二人、集落の端に追いやられた。
ボロい小屋が一つあったので、そこを改修すればなんとか。
そこで「おいらの出番だな。」狩人なんぞをしていると、こういう作業も意外とすることがある。
数日森に篭る時、簡易の小屋を木の上に作って獲物を待ち伏せしたり、夜間に獣に襲われないために必須といってもいい。
幸い、エテという青年も気さくで、「冒険者も似たようなものかな。」と言って手伝ってくれる。
なんとか丸一日で形にはなった。その頃には話を聞きつけた集落の皆が心配して色々と差し入れや、余っている家財なんかを持ち寄ってくれた。
「モニカちゃんには、よくしてもらったからねえ。おい!色男!モニカちゃんを泣かしたら承知せんぞ!」とか。
二人は泣き笑いしながら、お礼をあちこちに。
そして、間をおかず、二人は婚姻し、今に至る。
「陽が翳るのも早くなったきたな・・・そろそろ雨季か・・・。」
雨の中、獲物を探すのは正直キツい。視界は悪いわ、寒くて体温が下がるわ、陽の出ている時間も短くなるし・・・イイトコロと言えば、
ちょっとくらいなら物音を立てても獲物に気づかれない、程度か。それでも慎重に越したことは無い。いやいや。雑念を振り払う。
今は姉夫婦の家にこの獲物を届けるのが最重要だ。できれば、赤子も見てみたい。
そう思うと担いだボアの巨体なんて、むしろ大歓迎な重量だ。
そして目指す小屋までたどり着く。
すると、義兄が玄関口で所在無げに腰を降ろしている。
「どうしたんだい?エテ義兄さん?」
顔を上げるエテ。
「やあ、ユパくん。出産時に男は立ち入り禁止だそうだ。アシエばあさんに任せておけ、だそうだ。」肩をすくめる。
「ま、そうでしょうね。おいらもじゃあここで待ちがてら、処理だけでもしておこうかな。」
「お、大猟、というか、大量だね。ボアか。美味しそうだ。モニカも喜ぶだろう。よし、ちょっとその辺の石を集めてかまどでも作っておくよ。」
「それじゃあお願いします。」
「任せておくれ。冒険者時代は野宿なんていつものことだったからね。最近はモニカの手料理が馴染んで、もうあの食生活に戻れるかどうか。ハハハ。」
「姉ちゃん、家事全般なんでもしますからね。居なくなってよくわかりましたよ。両親がいかに家事に疎いのか。姉ちゃんはどうやって身につけたんだろう?」
「ああ、近所のおばさん達と交流があったみたいで、コツを教えてもらってたんだって。君の言うとおり、両親の家事の、ね?にウンザリだった、てさ。」
「なるほど。おいらは、狩人やってるから獲物を捌くのだけはできるけどなあ。後は串を打って塩と香辛料の類ふりかけるくらいかな?」
「はは、野趣あふれる豪快なメニューじゃないか。うまそうだ。」
「そうですね、」
ほぎゃああああああああ
「あ。」
「産まれた!!!!」
ガチャリ。ドアがきぃと軋みながら開き、老婆が顔を出す。「聞いてのとおり、産まれたよ。元気な女の子さ。
モニカも疲れちゃいるが、大事ないさ。そんじゃ、あたいはここまでさ。わかんないことがあれば何時でもアシエばあさんを訪ねるといいさ。じゃあね。」
「ありがとうございました!」頭を下げるエテ。続いてユパも。
後ろ手を振りながら去っていく老婆を見送ると、居てもたっても居られなくなり、二人は中に。
「あら、ユパ。おかえり。あなた、元気な子よ。」にっこり。
「よくやった、モニカ。」抱きしめる。
「もう、ユパが見てるでしょっ」「いいんだ。幸せを抱きしめて誰にはばかることがある。」
「うん。」
おもわず顔をそらしてしまうユパだが・・・・
(いいなあ。幸せそうでおいらも幸せだなあ。)
「あ、姉ちゃん。デカイ獲物獲って来たんだ。すぐにメシにしよう!」
「あら。ありがとう。」「ああ、ユパくんの今回の獲物はかなりボリュームあるからな、体力つくぞ。」「ははは。」照れ笑い。
「そうそう、あなた。名前はねもう考えてあるの。」「ほう?」「タリアって言うの。どうかな?」うつむき加減で訊ねる妻に「いい名前じゃないか。よし、今からお前はタリアだ。」
すると布にくるまってぐずっていた娘はぱぁっと笑顔になってきゃっきゃと笑い出した。
「はは、気に入ったみたいだぞ?モニカ。」「ええ、嬉しい。」
「ああ、これでおいらもオジサンかあ。」「なによ、問題あるの?ユパ。」
「いや、この瞬間だけはおいらは世界一幸せなオジサンになった、と自負するよ。」
「言うじゃないか、ユパくん。」「クチだけは達者ね、ホント。」「そういうない。」
あははは・・・・・談笑は続く。
そして年月は過ぎ、タリアも5歳になった頃には、ユパにも懐いて「おじ様?どうかしたのでしゅか?」と。
いや・・・・
「どうして?」
「おかおがちょっとこわいでしゅ。」
聡いな、この姪っ子は。実は近所に盗賊団が出る、という話が隣の集落から噂として流れている。
この子の家は、事情により集落でも端っこだ。つまり、被害に遭うとすれば一番にやられる可能性が高い。
義兄は元冒険者で剣術をたしなんでいたようだが、現役から離れて久しい。
姉に関しては、武術の類は無論の事、術式も使えない。有事の際には自分の弓術しか戦力としてはアテにならない、
というのが現状だ。万が一にもを考えると、山を降りてウルダハに引っ越すのもいいとは思うのだが・・・あの街も治安がいいとはいえない。
いっそ、グリダニアに居を移すのいいかと思う。黒衣森までは通い慣れた道ではある。
そして、キャラバンの類が定期的にグリダニア、ウルダハ間を行き来しているのも知っている。中には顔見知りも居るから頼んでみるか・・・。
車輪は廻りだす・・・・・・・・・・・ギチギチと。悲鳴のように。
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前半の幸福感が一転して
続きを読むのが怖い感じに、、
心の予防線を張っておきます(^_^;)ドキドキ
Yupa Boleaz (Ragnarok) 2013年11月07日 22:01
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>ユパ様、起承転結ですよ。
今回は「承」つまり、起点の続き、そして「転」へ至るつなぎ目。
次回からが目を離せなくなる展開に・・・・・
話変わって、エリの元カレなんかも描けれたらおもしろそーだけどw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年11月08日 00:36