オレンジ色の髪を陽光にさらしながら、小柄なエレゼンの女騎士、ミーランは。
ちょっと、これはミスったかも?なんて。
「ミー?」
黒髪のヒューランの相棒、エレディタがジト目で見てくる。
「いや、あの。エリ?これは・・・。その・・・。」
森の中にある集落を訪れたのだが、これがなんとも。
「バスカロン」という名の男が酒場を切り盛りしていて、と。
そこまでは問題が無い。
その彼の名を持つこの集落は、実は山賊、盗賊あがりばっかり。
当のバスカロンも眼帯なんかしていて、雰囲気バツグンだ。
滲み出る威圧感は相当、と言える。
そしてそんな集落に来てしまった理由としては、単に疲れたからお昼ご飯にしよう、あ、こんなところに集落があるんだって。そこで食べよう。
と。気軽にマップを見ながらミーランが提案したからだ。
そして、入ってみるとやたらと人相が悪い連中ばかり。
一軒の酒場らしきところに入れば、これまた人相の悪いマスターに出くわして。
もしかして、ここって、賊のアジト?
みたいな空気に。
そして、相棒がジト目で睨んできた、という次第なのだが。
恐る恐る声をかけてみると。
「おう。お嬢ちゃん達。冒険者かい?いらっしゃい。」
と、意外と気さくに声をかけられ・・・「???」
(エリ、大丈夫じゃない?)(ミー、甘い。こいつは悪人ヅラだ。)
小声のやり取りが聞こえたわけでもないだろうが、緊張している二人に。
「ああ、そうだな。俺はバスカロンってんだ。この集落の代表、ってんでいい。」
「あ、わたしはミーランです。」「うちは、エレディタや。」
「そんなに緊張しなくってもいい。まあ、俺も見た目が悪いだろ?お嬢ちゃんみたいな若い女の子なら仕方ないさ。それに・・。なんていうか、元盗賊団だしな。」
「げ!?」
「いや、今じゃあ足を洗って、まっとうにやってる。昔に「魔女」って呼ばれてるとんでもないやつにコテンパンにされてね。
団は解散、くたばったヤツはいねえが、みんなカタギになっちまったよ。あんなのがまた来れば、とんでもねえってな。」
「・・・・・・・・魔女・・・?」
「ああ、なんだったか、グレイの髪を後ろで束ねたガキみたいな女でなあ。最初は軽く遊んでやるつもりだったんだが、とんでもねえ。
10人いた団全員がたった一人の娘っこにボロボロさ。それで、まあ、こんなところで酒場なんてしてるのさ。」
「へー・・・(レティシアさんだ・・・)」
「で?こんな昼間っから酒でもねえだろ?メシか?」
「ああ、ええ。」「うん(毒見はうちがするさかい、それまでは食べなや?)」
「それと、この集落のヤツら、人相悪いだろ?こいつらも元盗賊や山賊でな。足を洗いたいって連中が、ここの噂を耳にして住み着いちまって。
見た目は悪いが、気のいい奴等だ。ま、怖がらなくっていいぜ。」
「はぁ・・。」
そこに。
「ちょっと、バスカロン!」と女性の声。
「おう?」
ドアの向こう、おそらくは勝手口。
「ちょっと来て!」
「すまん!今、来客なんだ!ヨエヌ!」
「もう!」
「はは、すまんな。裏の畑で作物の世話してるやつでな。」
「いえ・・・。」
「まあ、とりあえずメシ作るから、ちょっとその間に話しを聞いてくれないか?」
顔を見合し。
「ミー、いっといで。うちできたら呼びにいくわ。(毒盛られへんか、見てる。)」
「うん。」
「あのー・・。」
そろり、と顔を出すと。
大人なしめの服のエレゼンの女性が。「あれ?あなたは?」
「あ、その。たまたま立ち寄って。その、昼食をいただきに。」
「あら、そう?見たところ冒険者の方ね?」
革鎧の上から鎖帷子、背中には盾、腰に剣とくれば、大抵そう見える。
「ええ、そうなんです。」
「バスカロン、彼、凄く人相悪いでしょ?」
「あ、ええ、まあ。その・・?」
「気にしなくっていいわ、そのまんまだし。それに私も実は元盗賊でね。彼の人柄に打たれて、改心したの。今ではこの生活がとても好きなの。」
「はぁ。あ。それと、さっきのは?」
「ああ、ごめんなさいね。実は、ローズレット、っていう草の魔物がいるんだけど、そいつの落すのが肥料にとってもいいのよ。
あ、そうだわ。冒険者さんだったらわりと簡単に刈れるでしょ?」
「え?まあ。大丈夫だと・・・。」
「お願いしちゃってもいい?4,5匹分でいいから。」
「あ、わかりました。任せてください。」
「エリ、ねえ。実は・・・。」
ごち。
「いたひ・・・」
「だーかーらー、なんでやねん!」
「だってぇ・・・いい人みたいだもん・・・。」
「まったく・・・。」
「お、ヨエヌが何か頼んだか。悪いな。なんせ盗賊を廃業してからは武器なんて振り回す事なんてないからな。
現役に任せるのがいいと思ったんだろ。じゃあ、このメシはサービスしとくから、よろしく頼むぜ。」
「はい!」
「・・・・。」
店を出て。
「以外とウマかったね。」
「ほんま、あんたのお人好しぶりにはビックリするわ。」
「でもいいじゃない。」気楽に笑顔で返してくる。
こんな相棒は、危なっかしいけど。
そこが好きだし、世話を焼きたくなる。
「しょうがあらへんなあ・・。」
エレディタは相棒の笑顔が大好きだし、ついつい乗ってしまう。