726セブンス。裏側。

「なあ、キーファー?」
「家」のリビング。そこには、黒髪の美女。前髪を不自然に斜めにカットして、左眼が見えない。
その女性が、目の前の銀髪の青年相手に不平をたれている。
「フネラーレ、これは依頼ですから!ぼくに当たられたって、仕方ないんですよ!」
「だけどナあ。僕にもプライドってモンがあル。」

グリダニアの暗部。通称「家」
おおやけにできない仕事が回ってくるのは常の通りだが。

ばさっと髪を振る。
すると、金色に輝く左眼と、一房の銀髪も。
「だーかーラ。ちゃンと事情いえヨ。」
銀髪の青年に詰め寄る。
ちなみに今は下着だけだ。
いつも「ペイアップ(給料上げ)」と称して、露出をしているわけだが。
今回はそこにいつもとは違う「迫力」が加味されている。
理由としてはこうだ。
最近台頭してきた政治家の暗殺。
こんな案件は、かつてイヤというほどやってきた。
ハッキリ言えば、楽な仕事だ。
だが、その家庭の事情を知るや、暗澹たる気分にならざるを得ない。
その政治家は、汚職に手を染めてきて、それがこのグリダニア復興事業と関連があった。
しかしながら、復興には確かに貢献してきたわけで、これは認めるしかない。

だが、彼女が気を揉むのが。
彼の妻が病に倒れ、その医療費にどうしても大金が要るから、だ。
そのため彼は汚職に手を着け、そしてライバルにあたる政治家から告発を受けようとしている。
そのライバルも、聞けば色々としているらしいが。
「ソッチかラ殺りゃいいのニ。」
「ええ、それはその通りなんです。ですが、「上」からは、二人とも処分したい、という事でして。ただ、順番、というのがありまして、こういう運びなんです。」
不機嫌な顔の葬儀屋。
「デ?その、病気の嫁とかって、どうなンのサ?」
「はい、こちらは瞑想窟の方で保護、回復、ないしは、ウルダハにある施療院での治療を。」
「ち。」(手回しのいい事だ・・。)
「じゃア、僕はこのオッサンの始末でいいんだナ?」
「はい。もう一人は、新規の「家」の住人の初仕事、という事で準備をしています。」
「お前ラ、ほんとよくやるナ。」
「まあ、仕事ですし。」
過去に密偵だと判明した、幼馴染の妻を始末した、いや、してくれた相手に。
キーファーはあの時に名前を捨て、心も捨てた。
どんな案件でも心が痛む事はもう無い。
へらへらした笑顔で「では、よろしく。今日の午後にはもう一人と仕事の話しになりますし。あ、「家」の案内もしますからね。地図と似顔絵、置いていきます。では。」

ぱたん。

「アイツ・・・。」
なんとも微妙な空気。
こういう時に茶色のミコッテ、ショコラがいればまた違うのだろうが、生憎彼女は昼飯の調達に赴いている。なんだか持ち帰りができる「オイシイ」物を見つけたらしい。
彼女は情報屋だが、どちらかといえば、グルメ系だな、と皆は思っている。
そして、もう一人の住人、エレゼンの給仕、ベッキィもそれについていっているので、一人でこの空気を満喫する事に・・・・
「どれどれ・・。」仕方が無い。仕事は仕事だ。先の彼の妻を暗殺したのも自分なのだから。
「ふうン。」
思考を変え、作戦を練る。意外と成金だけあって護衛もつけているようだ。
「そうカ・・。」


「ふう。議会の連中もいい加減俺の言い分を分ってもらえただろう。カヌ・エ様も、一考する、とおっしゃってくださった。これは大きな一歩だ。」
「そうですね。」
「ああ、3国の同盟などより、まずは経済だよ!」
「はい。」
護衛二人に付き添われ、男は家路に向かう。
家には病に伏している妻が居て、帰りを待っている。家政婦に任せているが、やはり自分が顔を見せないと。

夕暮れ時に黒い影が見えた気がした。
「ん?」
ひゅん。

どさ。隣にいた護衛の眉間に矢が。
「何だ!」もう一人の護衛。「どうした?」
「暗殺者(スタッバー)かもしれません!」
「ぐ、なんとかしろ!」
「はい、ですが・・・」眉間に矢。
「な、なんだとお!?」
腕を合わせて、額を護る。
正面から黒いチュニック、黒髪の美女が。
「お、おまえ・・。」
「ん?僕に見覚エが?」
「お前が暗殺者か?」
「ソうだヨ。よくできましタ。」
ダガーで喉笛に一撃。
がふっ!
「奥さンは責任もっテ面倒みルから、安心して逝っテね。」
「・・・・・。」

弓を使わずというのは、この言葉だけは伝えたかった。それだけ。
「はあア。カルヴァランに逢いたいヨ。」


「家」に帰れば、ショコラとベッキィがぶーぶー言いながら、冷めてしまった食事をどうするか悩んでいるだろう。

「家」に帰るか・・・。
黒髪を翻し、女性は帰路に着く。

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