とある宿の寝台。
二人はしばらく抱き合っていたが、少女の方が先に寝台から降り立った。
白磁のような肌に、長く艶やかな真っ直ぐの髪。身長はそれほど高くないため、人形のようにも見える。
その後姿を見送るエレゼンの男性は、声をかけようかどうしようか。そんな顔をしていたが、少女からは見えまい。
しゅるり、と衣擦れの音と共に、白い裸身が覆われていくのをただ見つめていただけだ。
「ね。カルヴァラン。」少し、遠慮がちな。でもしっかりした声。
「・・・なんだい?」自分でも少しこわばった声になったのが分かる。
「うん。僕ネ。今度の大戦に出るかラ。少し待っててネ。」振り返らずに。泣き出しそうな、でも決意を込めた凜とした声。
「どうしてだ?カピタンはアスタリシアの参戦は見送ったぞ?あんな提督の下で戦えるか、って!」つい声が大きくなる。
「そっカ・・。」一息。「でもネ。こう見えても、僕って神勇隊のエースなんだヨ。エース抜きでは面目たたナいでしョ。」
少し気負った声音だが、自信があるといわんばかりの声に。
「バカやろう、お前はカピタン・フィルフルの私物だろうが。グリダニアのモノじゃない。」
「そうだネ。でも。でもネ。カピタンから乗船許可が今でもでないンだ。もう捨てられたンだヨ。」
「違う!それは・・俺が。俺が、お前を助けるためにグリダニアに送り込んだからだ。
でないとお前は娼館送りか、奴隷として売られるところだった。そういう意味では、カピタンに捨てられるところだった。
ただ、それには条件としてお前の乗船は許可できないって。そう言われたんだ。許してくれ!」
「そウ、ありがとうカルヴァラン。二回も助けらレちゃったンだネ。」
涙声。だが決して顔を見せはしない。
「リッラ。」
「大丈夫だヨ。僕はエース。くたばッタりしない。約束すル。また逢って、そしテまた愛すルかラ。」
「ああ。航海に出てたらスマンな。」
「その時は、他の男と寝ル。」
「おいおい!それだけは勘弁してくれ!」
「アハハ!!!カルヴァラン、おもしろイ。」
笑い声と共に。「じゃ、行くネ。愛しい人。」
「ああ、武運を。」
「任せテ。」
ばたん。
ドアの閉まる音と同時に青年は自分も涙がこぼれていたのを知り、彼女にそれが悟られていないかが心配だった。
荒野の地、ザナラーン。実はここに来るのは2度目か3度目だったような気がする。
「アーァ。まさに地の果てだネ。」
まとわりつく風に苛立ちながら、先の指令を心中で繰り返す。
「フネラーレ。君には威力偵察の任を申し付ける。
ザナラーン北部よりモードゥナに進み、カルテノー平原にて帝国軍の侵攻を偵察してくる事。
隊員4名をつける。敵と遭遇した場合、少数なら撃破し、こちらの動向を敵本体に伝えさせるな。以上だ。」
ぶー。
「威力偵察って何サ?それと僕はそっちの地理に疎いンだ。いいノ?」
「威力偵察とは、敵を発見次第武力を行使しつつ、偵察の任務にあたる事。
今回は少数人数だから、10名程度なら屠って来い。
こちらが偵察を出している事を知られるのもマイナスだ。」
「それなラ。余計にバレるンじゃネ?偵察から音沙汰が無くなったラ。」
「そういう意味ではすでにバレているだろう。だが、何処まで進んでいるかを知られるのは困る。
そういう事だ。塹壕やバリケードもそろそろ設置にかかる。その進捗具合が筒抜けにならんようにな。他には?」
「メンバー選考ネ。回復一人、弓兵二人、剣士一人。用意しといテ。」
「わかった。準備が出来次第、行ってもらおう。それと地理はメンバーが知っているだろう。地図も渡しておく。」
「ふン、いいヨ。行ってくル。」
「ネ?君たち冒険者?」メンバーに聞く。
「はい。」「いえ、自分は不滅隊の正規軍所属です。」「俺らは神勇隊の正規っすね。」
「フウン、ご同輩、カ。」「その・・貴女は?」「僕?僕は葬儀屋サ。」「・・・・・。」
「さテ。おしゃべりはここまデだヨ。僕のカンだと渓谷を抜けたら平原だッケ?そこにいくつか居ル。」
「はい。塹壕の設置資材はほぼ運ばれていますし、護衛もそれなりに展開しているハズですよ。
ただ設置命令が出ていないので、護衛は冒険者を装っていますし、資材はカムフラージュされていると聞いてますが。」
「来ル。」「え?」
矢が数本足元に。
「まだモードゥナじゃないってのに!」「ピクニックでもしに来タつもりなラ、さっさとお帰リ。」
大きな弓を構え、立て続けに放つ。一人での応射だが、とてもそうは思えない量の矢を弾幕にして放ち終えると、一転、一本の矢をつがえて崖の上に放つ。
帝国兵が転がり落ちてくる。
「おお!」と言ってる間にもう一人。さらにもう一人。
声も無いメンバー。
「コレでここは終わりだネ。先に行くヨ?」黒い髪を風に預けながら堂々と進む小柄な黒い少女にメンバーが「貴女、何者なんですか?」と。
「サッき言っただロ。葬儀屋。暗殺稼業ダ。」ふン、おもしろくもない・・・。
さてと。これでどう出るかナ?敵がこちらに気づいて、優先度をあげてくればイイのに。
でないと任務とやらができないじゃないカ。できるだけ叩いておかないト。
軍用のパールで伝心し終え。
(カルヴァラン。生きて帰れたら・・・・)想いを胸に秘め、
囮になっていぶり出しつつ攻撃を続けていれば、やがてどうなるかは・・。
だが、今はそこじゃない。やるだけだ。
「そウ。やルだけ。」
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いやぁ、イイですな・・・
ダーク感というか、レヴィ感というかw
オフの時の儚さがなんとも言えん。
Fizz Delight (Hyperion) 2013年03月12日 10:45
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>フィズさん、ラグーンはイイですねw
任務中は冷徹で容赦がありませんが、カルヴァランと二人の時間を過ごすときだけ、年相応の少女に。
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年03月12日 14:36