452書き物。それからの・・4

港の都市、リムサ・ロミンサ。
その街は出会いの場であり、別れの場である、とは誰かが言っていた。
そして、その「出会い」とは常に騒動を巻き起こし「別れ」とは常に永の別れを意味する。

「なあ。おい坊主、ぶっちゃけた話にしよう。」
グレイの髪を後ろにまとめ、少女のような外見の女性は、見た目通りの年齢ではあるまい。
魔女。
正確には「天魔の魔女(ウィッチケイオス)」数多の術式を操り、
その上で格闘の技術も超が付くほどの一級品、加えてそれらを混ぜ合わせる技術。なるほど、これなら。
坊主呼ばわりされた青年、ファーネは舌を巻くしかない。確かに自分は「坊主」だ。
例え屋敷では「お坊ちゃま」と呼ばれていて、腹を立てながらも。この女性にかかれば「坊主」だ。本当に。

この時、この場。酒場「溺れた海豚亭」は謁見の場となり。
女王にして魔女、レティシア・ヴィルトカッツェにかしずき、一人の青年は願いを請うた。
「貴女を探していました。」

チッ・・舌打ちの後、魔女は一つの条件を出しそれを受けることに。
「3日間、護衛をしてくれ。」と。この依頼に付く条件は、魔女の家族達、
正確には娘には一切の危害と、今回の契約を知られないこと。
おそらくカンのいい娘の夫は気が付くだろうが、彼はそういう事には聡い。
素知らぬ顔で娘の身を案じつつ、今回の依頼を影でサポートしに来るだろう。
もちろん邪魔ならその時はその時だが。

苦虫を噛み潰しながら、目の前の青年の依頼を引き受け、
果たして苦虫って何匹いるのだろう?とつまらない設問を思いつき、
この依頼が終われば隊長に聞いて見よう、と。
さらに。

「では。」こげ茶色の髪の青年。
呆れ顔で魔女が問う。
「んで?何処に潜伏するのかな?」
こちらは愉快な、なんともいえない笑顔で。
「とりあえずは市街、だね。」

はぁ?セオリーを完全に無視している。市街、だと?
たったの3日、身を隠すだけのことに。
かつて、森の国の密偵として「天魔の魔女」の名を冠するまでに至った女性は、一瞬で思いついた作戦を数十。破棄した。
青年の顔を見る。屈託の無い笑顔だ。
「お前、正気か?」
出てきて当然の答え。
「一応・・。顔をアチコチにだすのも作戦なんだ。」
まったく・・。作戦を練り直す。
「はいはい、いいですよ。っと。言い訳を考えるコッチの身にもなれ。まったく。」
この危ない橋を娘たちに悟られる事無く、どうやって言い訳したものか。
「それはすみません。素敵な言い訳をよろしく、です。」頭を下げる青年。
「アホか。」
やれやれ、ね。
決めた以上はやらねばならない。

「バデロン、後はよろしく。ペイはそこのガキにな。」
「おうよ。」


で、だ・・・。市街で宿、か。3日。追っ手がいる。しかもかなりの手練。
そしておそらくこの坊主は全てを明かしていない。まずはどうにか「今」の宿が要る。
数十の「手」を瞬時に思いつき、使えそうなもの以外を排除していく。
「じゃあ、まずここ。」
ミズンマストではなく。
調理師ギルド。ビスマルクの厨房。

「え?」さすがにコレには驚いたのであろう、青年の顔には疑問符がいくつも。(あればペンで書かれていたであろう。)
「ココだと寝れて、丁度いいだろ?」にっこり笑う魔女に声もない。
「は?」青年の顔はもはや笑えるレベルで驚く、という表情を体現している。
「いいから寝ろよ。」そして「大将!ここ借りるわよ!」「いいぜ!」
まずは仮眠、そして対策、か。朝飯は目の前だし、まずは眼を閉じる。

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