グリダニアのカフェ、カーラインは今日も繁盛である。
夕暮れ前のひと時を、香茶とプチケーキやクッキーなどをお供に優雅に過ごす時間。
冒険から帰ってきた若者達や、はたまた近所の主婦の井戸端会議など、その客層は多岐にわたる。
そんな中、二人の女性客はいきなりワインを注文し、一人はあっさりと去ってしまった。
インパクトのある赤茶色の髪を後ろで束ね、きりっとしたジャケットに身を包んだ小柄な女性はにこやかに手を振りながらカフェを後にし、
残された金髪の少女は、おでこに人差し指を当てながら、なにやらメニューに悩んでいるようだ。
「イーリス、マリーさんトコ、何かオーダー追加ありそう?」
「そうね、ちょっと考え中みたいだけど・・パール持ってるから伝心中かな?と思って声かけてないのよね。」
「おお、イーリスにしては空気読んでる!」
「オーアよりはマシだと自負していますけど。」
「ふ。自分が負けると書いて自負とはこれいかに。」
「問答してるわけじゃない!」「ハイハイ、君たち。お仕事しようね?」主人のミューヌ。
「は、はい!」「はにゃっ!」
「・・・楽しんできてね。マユちゃんにもよろしく。」「ああ、じゃあな。」
一人でテーブルを独占するのもなんだし、カウンターに行こうかともおもったけど。そうなるとワインのおかわりに走りそう・・。
パールでの伝心を終えて、悩んでいた問題にケリをつけるべく。
「すみませーん。オススメケーキセットくださーい!」
ふ。やっちまったぜ。だが後悔はない。
眉間に人差し指をあて、目を瞑る。夕食は別腹よ。
「はあい!」とミコッテの少女の元気な声と共にオーダーが通る。もう引き返せない。
「あ、マリー、今からケーキセットなのかにゃ?」銀髪の白魔道士、ルー。
いきなりのLSメンバーの声に、しどろもどろに
「あ、ええと、うん。まあその。ルーは今日は暇してるの?」
「うん、ベル達は私事だって。あたしだけ用事が無いのにゃ。っと、あたしもセットにゃー!」「はあい!3番テーブルセット追加ね!」「ッケー!」
ちょこんと向かいの席に座る小柄なミコッテの少女。ルーは髪を後ろに束ね、にこにこしている。
「ところでマリーの方こそ何してるにゃ?ケーキセット食べるトコまでは解るけどにゃ。」
「ああ、その、なんていうか。ちょっと知り合いの方とお話してて。先に帰られたから、手持ち無沙汰、というか。」
「にゃーるほどにゃ。で。そのお知り合いって、イケてる男性かにゃ?」と、ニタっとした笑顔で問いかけてくる。
「ち、違うわよ。そんなんじゃないってばっ!」と、少し赤くなってしまう。
「ほほーう、少し赤くなりましたにゃ。怪しいにゃ。」さらに問い詰めてくるが、相手は「まゆり」さんだ、
赤くなることも無いのだが、そういう詮索に慣れていないからか、無意識に・・・。
「や、女性です。よ。」と念押し。
「ふうん・・・、そういうことにしておくにゃ。」と、目は疑いの色を隠せていない。
「もう・・。」と、どういう表情をすればいいかわからない。
「お待たせしましたー!」とケーキセットがやって来る。
渡りに船とはこのことか。これでなんとか場は収まるだろう。
「ねえねえ、イーリスちゃん?さっきまでマリーと居た人って、女の人かにゃ?」
な、な、なにを・・・。まあ、かえってこの方が誤解が解けるのも早いと思い、黙っておく。
「はい、そうですよ。ちょっと謎な方なんですけどね。マリーさんに限って男性と二人で同席はありえないですよね!」とにこやかに。
「はぁ、ウラがとれちゃいましたにゃ・・。」何故かつまらなそうなルー。
マテコラ。
「えーえー、そうですだよーだ。」唇を尖らせてケーキをつつく。
3層のスポンジにクリームがほどよく積み重なり、トッピングにはベリー類がたっぷりと乗ったケーキは見た目も、味も抜群で、
一口食べた時点で先の件はすぐに忘れる事ができそうだ。ついでにルーのケーキから大振りな木イチゴを拝借する。
「にゃー!」と悲鳴があがり、フォークで奪回作戦を展開するが、こっちの鉄壁の防御に涙眼で抗議しかできないルー。
「ふっ。」と勝ち誇る。
不毛なバトルの後、夕食タイム。
「あ、ベル、おかえりにゃ!」テーブルで悔し涙をぐっとこらえていたルーだが、この一瞬で華やかな笑顔になる。
「おいおい、オレには?」とルガディンのグリュック。
「おかえりー。」と、満足な笑みのマリーが迎える。
「何かあったのかい?」とヒューランのリーダー、ベル。
「なあんにも。」「にゃ。」と、女性陣はだんまり。
「ふうん。まあいいや、お腹が減ったよな?グリュック。君たちは・・ケーキ食べたのかな?何か食べるのかな?」
「もちろん。」「にゃ。」
「じゃあ、適当にセットメニューをたのむよ、オーア。あとワインを一本。」
「はあい!」
料理が運ばれ、ワインを注ぎ終えると。
「おつかれさま。」と皆で乾杯。
明日はいい事あるかなあ。美味しい夕食に舌鼓を打ちながら、マリーは想いを馳せる。