ごぼ。黒髪の少女は。
フェイントの拳を避けようとしてしまい、次いで来る前蹴りをまともに胸に浴びる。さらに蹴り抜いた足を軸に、後ろ回し蹴り。
「がっ!」
右わき腹から、ミシっという嫌な音が。
「っ痛・・・・。」
華麗な足裁きに、スカートがついて来る様にふわりと宙を踊る。
漆黒のエレゼンの女性と、白磁の少女との決闘。
だが、お互いの目的と、決闘の結果。
大した意味もなく、相手を屠るというカタルシスだけが残される事を双方が理解しながら。
それしかない、と、そう信じようとした。
地面に転がりながら、弓からは手を離さず・・、トドメの蹴りを見舞うべく、回し蹴りの後のモーションに移るベッキィを見ながら。
(へ、ざまあみろ・・。)
フネラーレの大弓「コフィンメイカー」から、倒れざまの一撃が放たれる。
ショートボウならともかく、ロングボウの接射など中らないどころか、ダメージにもならない。が。
彼女の弓は強弓。些細な距離であろうが、その威力は十分。
引き絞れる100%などいらない。2,30%あれば接射では十分に敵を射抜く。
金色の瞳に誘導され、矢は狙いあたわず銀髪の給仕の蹴り軸足にしている太股に吸い込まれる。
が。
ギャりッ!という音ともに矢がはじかれる。
「てんめェ。鎖(チェーンメイル)仕込ンでやがるナ。」
「嗜み、でございます。」
最後の抵抗を軽くいなし、黒髪の少女に馬乗り(マウントポジション)になる。
「コレで終わり、ですね。フネラーレ。」
ナックルを顔面に叩き込む。
華奢な少女の顔が左右に跳ねる。
「命までは取りません。ですが、これ以上の抵抗をされるなら、お覚悟を。」
「・・・。」
右手は動く。左手も。なら。
「ばーカ。」
「仕方ありません。本当にワタクシは貴女と・・いえ。・・・あっ!!」
右ふくらはぎに鈍痛が。
「矢、ってのはサ。弓が無けりゃ使えない、なンて誰が決めタんだヨ?」
「こ、この・・・。」
突然の痛みのあまりに、体で押し込んだ体勢が緩む。
その隙に。
ざすッ。
腰に熱い衝撃が走る。「ア!」
鎖帷子、というのは斬撃に対し「斬られない」のが目的の防具で。
刺突、には弱い。特に細いものには。
「こりゃ、応用編、ってワケだナ。」
ベッキィはたまらず離れ、距離を取る。そして矢を抜き、治癒の術式を・・
「ふン。さっきの僕が有利になった点を教えてやるヨ。」
コフィンメイカーを構える。
「な、なにを・・・。」焦りと知りたい気持ちからか、術式が途絶える。
「お前、生きたいって思ってるだロ?」
「そ、そんな。当然です!」
「だよなア。超一級の諜報員てなア、そこが限度サ。僕はスタッバー(暗殺者)。
そこらのスナイパー(狙撃手)と一緒にしてほしくないネ。僕自身が武器で、使い捨てもアリなんだヨ。」
弓を引き絞り。
「もう、ヤメてえええ!」絶叫する。
茶色の髪、褐色の肌のミコッテ。
彼女は二人の間に割り込むように。
「ショコラ。どケ。」
「いや。」
「じゃあ、死ネ。」
「おう、殺せよ!・・ころしてみろよ・・・」
体を「大」の字に踏ん張るミコッテの少女。
そして、そのオレンジ色のワンピースに次々と矢を放つフネラーレ。
「は・・うあ・・。」
声にならない。
「この程度にしといてあげルわ。興ざめしタ。」
服のいたるところに矢が突き刺さり、そして何処にも怪我は無い。
「そこの給仕も同じようになりたいかイ?もちろん、痛いゼ?」
「いえ・・。ご勘弁願います。ワタクシはこれで引かせていただきます。」
「ベッキィ!」
「お嬢様。ワタクシの不徳、さらに未熟ゆえこのようなことに。
では、またお遭いできる時まで、しばしお時間をいただきとうございます。それでは。」
「ベッキィ・・」
「なんとか・・ケリ、はついたか・・。」銀髪の青年。
「うるっせェ!このクソボケ野郎が。全部テメエの責任ダ!色々後始末つけてもらうゼ。」