「そうですね・・。お嬢様でしたら・・。」
なにやら大きなつづら、とでもいうのか。何処からか取り出した衣装箱の中を検分している。
漆黒のエレゼンの給仕は、ああでもない、こうでもない、と。
(てかサ。予め用意してンなら、似合うのだけもってこいヨ・・。)とは言い出せず。
来る時に子供がしている露店で買ったクッキーを袋から取り出し、ぽいっと放り投げては、ぱくっとクチに受けて、にんまりとしながら。
「ヲイ、まだかよ?」と。
長い黒髪をかき上げながら、ぽりぽりとクッキーをすでに6枚は食べている。
「コレで太ったら、ショコラのせいだからナ。」
「フネラーレ様。お嬢様のせいでは決してありません。ワタクシの優柔不断さ、そして、貴女様の飽くなき食欲がそうさせているのです。」
真顔で応えるエレゼンの給仕。
「ほぉ。ベリキート。言うじゃねェか。僕ンとこで一番食費がかかるのはダレだと、この場で公表してやろうじゃないカ。」
「はぃ・・・。」
おとなしく手を挙げるショコラ。
「お嬢様!そんな!決して、あれほどのパイや、シチューを軽くたいらげるなど!
お屋敷では見た事がありません!それほどまでにお仕事が多忙なのですね!」
ベリキートの涙腺からは、滂沱の滝とでもいわんかぎりの涙が溢れる。
「うゼー。買い食いの情報収集だらけだロうが。」
「立派なお仕事でございます。」
「どうでもいいけどヨォ。ティータイムとやらが終わるんじゃねェ?そろそろ。」
「あ!では、お嬢様。16番目に試着していただいた、このオレンジ色のワンピースが今この時間では一番かと思われます。さっそく!」
結局、夕暮れ時になりティータイム、というよりは、アペリティフ(食前酒)を愉しむ時間に。
こうなると、店選びも変ってくる。
「んー。」
オレンジ色のワンピースに身を包み、姿見越しではなかなかイケてるんじゃない?わっちも!とか思ってはいないが・・。やっぱりちょっとだけ、思ってみる。
陽も落ち、遊歩道には、ぽつぽつと膝の高さくらいの灯篭が灯り、
気まぐれな精霊たちが仄かな明りを煌めかせながら飛び交い、陰りつつある森の夜を華やかに彩り始める。
「こっちね。」と、自慢の情報網を披露しつつ。
残る二人を見て、クスクスと笑みがどうしようもなく広がる。
「どうされました?お嬢様。」
「ほっとケよ。いつもの発作だロ。」
「ふふん。」
(フネラーレは、いつもの黒い短衣(チュニック)にハイブーツ。色気がないわね!)
(そして、ベッキィはいわずもがな。メイド服。わっちが最強!)んふふ。
目の前には、少し小奇麗、とは言いかねるお店。
「へー。グリダニアにもこんなのあるんダ。」
「お嬢様。お店選びはもう少し慎重にされたほうが・・・。」
「ヘイヘイ!ココはわっちの中では、イケてるランキング上位ナノダゼー!」
変なテンションだが・・。
だがしかし。
珍妙な三人組の女性達は、店からは大好評だった。
「なァ。ショコラ。なんで場末の酒場っぽいのに、出てくるのが野菜ジュースってノはどうしてダ?」
「ああ、農園管轄だからですよお。かの<カラミティ>が経営してますからねえ。」
「あァ、あの・・桃色ミコッテか・・。」美麗な顔をしかめて。
「裏でエグイ事してやがっタ後を継いだ、って話だガ。この分だと眉唾カ?」
「さて・・。わっちの網にはかかりませんねえ。彼女自身は悪事には全く手を染めていない、コレは確実と、言いたい、というところですねえ。」
「お嬢様。そう言う事でしたら、ワタクシめに。」
「あーアー、もう、いいヤ。仕事の話は、あのボンクラ任せダ。次行こうゼ。」
「そうですねえ。そろそろ、かなあ。」
「あらまあ。ショコラちゃん!おひさしぶりっ!」
エレゼンの婦人はにこやかに3人を出迎える。
「えへへ、ミーもいるよ!」と小柄なエレゼンの少女も。
「こら、ミーラン。ちゃんとご挨拶しなさい。」「はあい。ミーランです。よろしくね。」
「みーたん、背のびたねえー。わっち、負けそう。」「えええ、そんなあ。」
「ヨロシク。ネ。」「どうも。お嬢様がいつもおせ・・ぶ。」フネラーレから、わき腹への肘撃ち。
「空気ヨメよ、てめェ。」「こ・。この・・。」
にらみ合う二人を隠すようにショコラは、にこにこしながら焼きたてのパンを受け取る。
「じゃあ、アルフレートさんにもよろしくねえ。またお願いしまーす。」
と、この場を取り繕い、広場まで。
「ベッキィ、そりゃショコラが逃げ出すのも解らなくなイね。もうちょいっと、カタ苦しいの、ナンとかしろヨ。」
「ああ、フネラーレ、もういいよお・・。私、・・わっちが悪いんだから。」
高級レストランでもかくや、という焼きたてのパンを食べ切り。
「悪さの品評会してンじゃねえンだ。コイツはこのまま給仕で居続けるなラ、少なからず、僕達の足を引っ張る。
そして煮えキラねェのが、あのキーファーだ。なんだってこんなノ呼びつけタ?」
「・・。それは・・。」エレゼンの給仕は言葉に詰まる。
「それは・・。俺から説明させてもらうよ。」暗がりから銀髪の青年が出てくる。
「キーさん!」
「やっとお出ましカ。」
「ああ、傷も癒えたし・・。」思いふける・・。
「早すぎじゃネ?」「ですよねえ、キーさんキモい。」「どういうおつもりですか?」
「どうもこうもねえ。ネタバラシさ。このベリキート女史は、名誉のために言っておくが、一線級の諜報員だよ。
過去の謂われも、ショコラ、フュ・グリューン嬢の実家に匿われた、これも事実だ。
その後、ショコラはグリダニアに逃げ込んだわけだが、そんなコトは当に知れていた。
が、あえて、知らないフリで各地で情報収拾を「お嬢様の足がかり」として、ね。
だが、フネラーレとの接触などがあり、かなり危険を伴う場面が出てきた。
この時点ですでに俺は、ベリキート女史とは顔見知りなんだよ。」
「欺瞞、か。」苦い表情のフネラーレ。
「ああ、そうだ。そして彼女は当主の意向を告げてきた。遠からず娘を無事に帰して欲しい、とな。」
「はい。御当主様はそのように仰せです。そしてキーファー殿。内密の話を暴露した以上、お覚悟を。」
「ヲイ、ヲイ。なんだかユカイな展開じゃないカ。なァ、ベッキィ。僕も排除対象なのかイ?」
「はい。残念ながら。むしろ貴女が最優先なのです。フネラーレ。葬儀屋、黒衣の天使、呪眼、背徳のリッラ。」
「てめェ。」白い面貌がさらに白く。
「数多の呼び名を持つ「英雄」と一戦交えるのは心震えるものですね。では。参ります。」眼鏡をかける。
「おい!フネラーレ!お前の弓と矢だ!コレで対等だろ!」投げ渡し、しっかりと受け取る少女。
「いいでしょう。」
「いいゼ。かかってこいヨ。狩ってやル。」