平凡な酒場、というのはどこにでもある。
それは、あくまで一般的、で。
この海辺の尖塔にある酒場も平凡な酒場だった。
ただし、海賊達にとって。
近頃は冒険者等も増えてきて、それすらも平凡になってきたわけだが。
今回は少しだけ、空気が違う。
やって来たのは二人の女性と一人の少女。
「ねぇ、れてぃ!」女性の一人は完全に声が上ずっている。
声をかけられた方は。
「なんだよ、スゥ?今更だろ?」グレイの髪を後ろにまとめた女性は振り返りもせず、酒場に足を踏み入れる。
「まあ、あきらめたラ?」最後に一番後ろから、黒髪と白磁の肌の少女。
スゥ、ことスウェシーナは諦めという言葉の意味を噛みしめた。
他の二人は、堂々としたものだが。
自分の格好は略式とはいえ、グリダニアの礼服で。
一人だけ浮きまくったこの格好、しかもリムサ・ロミンサという、外国で。
コレ以上の浮きっぷりは、かつて無い。
「はぅ・・。」
声にならないため息めいたものが出てくる。
対して、グレイの髪の女性はというと、白の大きく胸元の開いたラフなシャツ、短めのトラウザ。
これで眼帯などしていれば、物語に出てくる海賊かもしれない。
最後に黒髪の少女は、真っ黒なチュニック。白い素足が見える膝上の真っ黒のブーツ。
3人がカウンターに座ると、周りがざわざわ・・・、と。
「おい、アレお嬢じゃないのか?」「それに天魔の魔女だぞ?」
「それにグリダニアの礼服だと?」「どうなってるんだ?この組み合わせ?」「さあ?」
「なんつーか。な。いっつもいっつも、面白い組み合わせだな?御三方。」
ヒゲの店主バデロン。表情は引きつったような、複雑なものだ。
「まあ、そういうな。珍しいだろ?」と魔女。
「・・・・。」
「僕は久方振りだネ?そういえば。」
「どういうリアクションが欲しいんですかい?」
「そうだな、まずは上々じゃないか?」
「・・・・・・・・。」
「こっちはムリヤリつき合わされたンだ。せいぜい古巣で楽しむヨ。」
「そうかい、そいつは何よりだ。じゃあ、とりあえずはラムだな。」
「ああ、それよりスゥのやつ、観てやってくれ。」
「・・・・・!!!!!!」
「たしかに珍しいな。リムサに他国の礼服なんざ着てくるってのは。」
「だろう?実はやっと隊長サマになったんだぜ。」
「ほお!そいつは目出度い!ああ、それでお祝いってワケか。」
「まあな。」
「で、僕はどの立ち居地なのかナ?神勇隊?元海賊かい?」
「そいつはお前、この街なら海賊だろ?元、じゃなく。」
魔女がニヤリ。
「ふうン。」
「まあ、何はともあれ乾杯といこう。ウルスリ、5杯用意してくれ、お前も飲めよ。」
「マスター、私は・・。」
「いいじゃない、ウルスリ。せっかくだし一杯くらい。」
「レティさん。」
「いいじゃねえか。な。」「はい、マスター。それでは・・。」
「おし、スウェシーナ新隊長どのに乾杯っ!」
しばらく酒宴は続き・・。
「ところでサ、魔女サン。どうして僕の矢が中らないのサ?」
「んー、そりゃ避けてるからだろ。」
酔ってきたのか、少女の眼はとろん、としている。
「どうやったラあんなに避けれるか?って聞いてるンだよ。」
「構えがデカイ分、わかりやすいのさ。矢だって何もクネクネ曲がって飛んでくるわけじゃないし。
来る方向さえ分かれば、あとは猿でも避ける。」
「あンだと?」
「そういうこった。わかったかい?お嬢サマ。」
「表、出ルか?おばはん?」
「殴り合いであたしに勝つ気があるなら、ハナからそうしな。」
「おもしれェ。」
「すとーーーーーっぷっ!!!」新隊長。
「なんだよ、スゥ。」
「邪魔すンじゃねぇヨ。」
「あんたら、アホか。何しにココに来たのよ?ほんと。」
「・・・・ナマイキなお嬢サマに世間の荒波ってヤツを。」
「・・、そっくりそのまンま返してやるゼ。おばはん。」
「私のお祝い、とか言ってなかった?」
「そういうのはアレだ。常に変化するのが世の中だろ?」
「もともとムリヤリだったしナ。」
「バデロンさん?なんとかして?」
「隊長、そいつぁムリってもんだ。まあ、一つ手は打ったけどな。間に合えばいいんだが。」
「助かります・・・・」
「ちと遅い・・お。着たな。」
「フネラーレ!」凜とした男性の声。それに反応して、少女がビクンと背筋を伸ばす。
ゆっくりと振り返る。すると蒼いジャケットのエレゼンの男性。
「カ・・・カルヴァラン?」
言うや、いきなり席から飛び出し男性に抱きつく。
「おいおい・・・・。」すっかり毒気を抜かれたレティシアは、バデロンを睨む。
「まあ、いいじゃねえか。せっかくリムサまで来てるんだしな。」
「ち、あいつ酔っ払ってるから、ココがドコでだれの目に留まってるか分かってねぇんだろうな・・。」
「まあな・・。カルヴァランに借りつくっちまったなあ。」
「まあ、いいじゃない。レティ。飲みなおそう。」
「バデロン、コイツが騒がしたようで、大変申し訳ない。このまま連れて帰ります。」
一礼する海賊。
「いやいや、気にすんなって。また来いよ。」
「さーて、周りの連中は明日どんな話をするんだろうな?」
「レティ、趣味わる・・。」
「あたしのせいじゃないさ。だろ?まあ、あらためて乾杯。」
「乾杯。」
(あーあ、やっぱりロクでもない結果に・・・。ウルスリ、俺らも飲もうぜ。)
(はい、マスター。)