240書き物。ようこそグリダニア10

喧騒。(騒がしいこと。大声が飛び交う賑やかな様)

海賊や、荒くれ、冒険者、それこそ静寂には程遠い連中が集まるリムサ・ロミンサの酒場。「溺れた海豚亭」
まさにその喧騒の只中、少女のような見た目の女性はカウンターの席でグラスを傾けている。
グレイの長いストレートの髪を、紐で後ろにまとめて縛っているが、外見からすればその紐だけが浮ついて見える。
細い荒縄、それもかなり年季が入ってる。
女性の服が普段着らしいとはいえ、せっかくのバランスが台無しだ。
そのくらい、女性は整った顔立ちとスタイルをしている。
隣りに座るエレゼンの男性は、黒髪、少し焼けた顔だが、船乗りではなさそうだ。
まず、着ている物がぞろりとした貫頭衣(チュニック)、半そでの服からは、到底ロープなど結べそうにない細腕。
彼もまた、グラスを片手にしているが、中身はいうほど減ってはいない。
そして、誰も居ないはずのカウンター席にはもう一つ、グラスが。

女性の横の席にはラムで満たされたグラスと、魚料理の一品が置かれているが、手をつける者は居ないようだ。

喧騒。

この一言を、先ほどから酒場は失くしている。

少し時間を遡り・・・


「お、こりゃマスター。どうも。」と、いかにも海賊らしい風体の男。
「あ、ああ。今日はテーブルで飲ってくんな。先客だ。」マスターはいつになく、ぞんざいだが、
男は気にした風も無く、いきなり女性の横の席に座ると、置いてあるグラスに手をつけようとして。
「あ!おい!バカやろう!」マスターの制止は間に合わず。
「え?ダメなのかよ?誰もいねえじゃねえか。綺麗なお嬢チャンもいるんだし、いいじゃねえか。」
次の瞬間、喧騒という言葉が静寂に変わる。
「だったらあたしが奢ってやるよ。」「え?」ぐしゃん。
横にいた女性の右手には幅広のグラス。
海賊の男の鼻から上あごまで、グラスが砕けながらめり込む。もちろん鼻と前歯も砕けて。
「バデロン、すまん。グラス代は別で頼む。」
「ああ。(しっかし、相変わらずえげつないねえ。)」
「・・・・。」エレゼンのソーサラーは声もない。
悶絶している男には目もくれないで、「あ、おかわり。」とエレゼンの女性に。

「(マスター。レティさんて分かってれば、彼も病院と監獄同時送り、ってのにはならなかったんでしょうか?)」グラスに新しい酒を注ぎながら小声で。
「(見ちまった時点で、不幸つーか、不運確定かもな・・。)」聞こえていないことを祈りつつ。

「おい、姉ちゃん。そいつ、おれっちの知り合いなんだけどな?」ともう一人。
無言で振り向いた女性の顔を見て、「いやあ、コイツが一杯奢ってもらって、ありがとうございます。
では、酔っ払ったみたいなのでコイツは連れて行きますね。」
(どうしたんです?兄貴。)(バカ野郎。知らねえのか?)(ただの小娘じゃねえですかい?)
(アレが「天魔の魔女」だ。)(え!?)(若けえ野郎は・・。おれっちは昔、アスタリシアに乗ったことがある。そん時に見たんだよ。アレを。)



「あーぁ。トンだ邪魔がはいちゃったわ。お師さん、今の見たら笑うかしら?」
「それは・・。俺に質問、ということなら答えはわかりきっているが。」
「あー、そこのあんちゃん。多分、だが、おそらくこの人にそれが言えるのは、アンタだけだろうぜ。」
「そうなのか?」
「少なくとも、バデロンが言えば、ね?」
「レティさん。できるだけ被害は抑えたいところです。マスターは頭の中に最近、チョコボの卵を飼いだしていまして。孵化するまでは少し加減を・・。」
「バデロン?ウルスリにヘンな事を教育とかしてないだろうね?」
「まさか!いつもの暴言だ!」
「ははは!」耐えかねた様にエレゼンのソーサラー、アルフレートが吹き出す。
「レティ、なるほど。これなら師も笑うしかないだろう。予想通り、というか、ね。」
「む・・。」口を尖らせる表情は、少女時代にもよく見た気がする。
「いい環境、とは言えないかもしれないが、楽しい環境だな。そう。
俺も冒険者になってみて、その違いくらいは分かるようにはなったつもりだ。」
「アル、じゃあ、あたしの代わりにそこのヒゲに一発かましてちょうだい。」
「だってさ。マスター。それじゃあ・・・。我等が尊敬する師と、かわいい妹弟子、そして、楽しい酒場に乾杯だ。
マスター、そしてそこのお嬢さんも一杯付き合ってくれ。乾杯!」
「乾杯!」4人が杯を合わせ・・。

「ん?」皆が杯を下ろすと。

「ち、やっぱり来てたのかー、あの・・お師さん・・。」

隣りのグラスは空だった。

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