月齢でいえば新月を二日過ぎたところか。
暗い闇に薄い月が中天に差し掛かる。
ガレー船、オレッキーノは旗艦、アスタリシアの右前で露払いよろしく先行している。
今は船員を寝かせて交代で櫂を数人で、そして帆を張って航行している。
僚艦ペンデンテは旗艦の左後ろだ。
突如。
ぼん。
帆が燃え出した。甲板に居た船員達は訳が分からず、船長に聞くが船長も意味がわからない。
続いてもう一回。今度はもっと派手な炎だ。
さらに延焼は続いていく。
「何事だ?」アスタリシア号の船長が船員の報告を聞くに。
「いきなりペンデンテの帆が燃え上がりまして。」
「何をやっとるんだ。あいつらは。」
「それが、いきなりというか、襲撃かもしれないと・・」
「ほう、例の噂は本当だったか。いいだろう。相手してやれ。」
「はい。」
「ね、ちょっと!」グレイの髪の少女は少しうろたえている。
「やりすぎじゃない?」
「へ?」と、先の炎に炊きつけるべく火薬をガレー船に放り込んでいた船員に言う。
「いやまあ、いいじゃないですか。そんなことより、船を寄せますよ」
「いいのかなぁ?」
首をかしげながら、左舷後方に寄せてもらい、まずはロープつき鉤を甲板に投げあげる。
次いで、いそいで右舷後方。こっちが本命。
数メートルのロープを急いで上り詰める。ここで鉤は捨てていく。
こっそり船室側から左舷側を見ると人が多い。だが、右舷はガラガラだ。2人くらいか。
まず、この二人を後ろから海に叩き落とす。
派手な音がするが、僚艦の火事に気が向いてしまっている船員は気がつかない。
あわせて10人位だろうか。左舷の方にこっそり行く。
野太い声を自演して「どうした?」と言いながら二人ほど突き落とす。
この後、近くにあった樽に身を隠し、様子を見る。
薄暗い月明かり、そうそう見つかるものではない。
「なんだ?あいつら、見にいきすぎなんじゃねえのか?」
派手に燃え続ける僚艦だが、さすがに救助に行かないとだとか船内は慌しい。
(よしよし、作戦どーり。)
ほくそ笑む少女。
甲板からさらに人が減る。
残りは3人。これなら十分に勝てる人数。
さて。「お仕事しますか。」
「あのー・・・。」
船員はいきなりかかった女性の声に振り向く。
「お、嬢チャン、安心しな、船は大丈夫だ。」
船員は乗員と勘違いしたのだろう。
革鎧をつけた女性が船に居るはずがないのだが。
ゴスっ。
一撃。
「な!」慌てた二人もそのまま武器すら抜けずに倒される。
「さーて。船長さんにお話聞かないとね。」
そこに一人、扉から出てくる。
「これまた・・。こんなお嬢さんが来るとはね。やるじゃないか。」
坊主頭の斧使いは苦笑する。