173書き物。海賊船の6

月齢でいえば新月を二日過ぎたところか。

暗い闇に薄い月が中天に差し掛かる。

ガレー船、オレッキーノは旗艦、アスタリシアの右前で露払いよろしく先行している。
今は船員を寝かせて交代で櫂を数人で、そして帆を張って航行している。
僚艦ペンデンテは旗艦の左後ろだ。


突如。

ぼん。

帆が燃え出した。甲板に居た船員達は訳が分からず、船長に聞くが船長も意味がわからない。
続いてもう一回。今度はもっと派手な炎だ。
さらに延焼は続いていく。


「何事だ?」アスタリシア号の船長が船員の報告を聞くに。
「いきなりペンデンテの帆が燃え上がりまして。」
「何をやっとるんだ。あいつらは。」
「それが、いきなりというか、襲撃かもしれないと・・」
「ほう、例の噂は本当だったか。いいだろう。相手してやれ。」
「はい。」


「ね、ちょっと!」グレイの髪の少女は少しうろたえている。
「やりすぎじゃない?」
「へ?」と、先の炎に炊きつけるべく火薬をガレー船に放り込んでいた船員に言う。
「いやまあ、いいじゃないですか。そんなことより、船を寄せますよ」
「いいのかなぁ?」
首をかしげながら、左舷後方に寄せてもらい、まずはロープつき鉤を甲板に投げあげる。
次いで、いそいで右舷後方。こっちが本命。

数メートルのロープを急いで上り詰める。ここで鉤は捨てていく。
こっそり船室側から左舷側を見ると人が多い。だが、右舷はガラガラだ。2人くらいか。
まず、この二人を後ろから海に叩き落とす。
派手な音がするが、僚艦の火事に気が向いてしまっている船員は気がつかない。

あわせて10人位だろうか。左舷の方にこっそり行く。
野太い声を自演して「どうした?」と言いながら二人ほど突き落とす。
この後、近くにあった樽に身を隠し、様子を見る。
薄暗い月明かり、そうそう見つかるものではない。

「なんだ?あいつら、見にいきすぎなんじゃねえのか?」

派手に燃え続ける僚艦だが、さすがに救助に行かないとだとか船内は慌しい。



(よしよし、作戦どーり。)
ほくそ笑む少女。
甲板からさらに人が減る。

残りは3人。これなら十分に勝てる人数。
さて。「お仕事しますか。」

「あのー・・・。」
船員はいきなりかかった女性の声に振り向く。
「お、嬢チャン、安心しな、船は大丈夫だ。」
船員は乗員と勘違いしたのだろう。
革鎧をつけた女性が船に居るはずがないのだが。

ゴスっ。

一撃。


「な!」慌てた二人もそのまま武器すら抜けずに倒される。

「さーて。船長さんにお話聞かないとね。」

そこに一人、扉から出てくる。
「これまた・・。こんなお嬢さんが来るとはね。やるじゃないか。」
坊主頭の斧使いは苦笑する。

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