で?
スウェシーナは、地面に転がったまま「魔女」を見やる。
「何かできること、って?魔女サマ?」
「できることがあるから、そう言ってるのよ。凡人。」
「なんですってえぇっ!」激昂する槍の達人。
「そう、熱くならない。スゥ。それに煽ったのあなたでしょ?」と冷静に。
「う、ソレはそうだけど。」ちょっとションボリ。
後ろ手に縛られて、なおかつ足までご丁寧に縛られている。明らかに戦闘要員だから仕方がないか。
ということは。
「おい!ネコ!」ミコッテのソーサラーを呼びつける。
「誰がって、もういいにゃぁ。好きに呼んでにゃぁ・・。」と力なく。
「コッチに来て。」
「にゃあ?????」
ミコッテのソーサラー(幻術とか抜かしてたが、どんな隠しダマがあるか知れたもんじゃない。
実は呪術師だった、とかよくあるコトだ。)は、手を後ろに縛られていたが、トコトコとやってくる。
立ち上がる際に数回コケてたが、それはファイター系の訓練を受けていない可能性を示唆している。
「どうしたにゃ?」
「後ろ向いて。」
「にゃ?」と言って後ろを向く。
「スゥ。」
「どうしたの?」「ちょっと転がって。」「は?」「いいから。ネコ。コイツ転がして。」
「はいにゃぁ」足で蹴るようにころがして、あたしの方に寄せる。「ちょっと!」抗議の声を上げるスウェシーナ。
やっぱり。
あたしら用の束縛ロープはおそらく、金属の糸が縫いこんである強化ロープだが、ネコや一般人用は安物の普通のものみたいだ。
「スゥ。あたしのベルトポーチの裏側に、チャクラムが1枚、張り付いてるの。
特殊な「にかわ」で貼り付けてあるから、横にずらすようにすればカンタンに取れる。引っ張らずに、ずらすように、よ。」
「へ?」
「ソッチに転がるから、チャクラムを持って。フチに刃が付いてるから気をつけて。」
いくらか時間が過ぎ。( 「イテ!」「後でケアルもらえ!」「コレどうやって持つの?」
「わっかの中に指通して、内側から外に力入れて固定。」「こう?ってイタ!」
「ネコ、それで手のロープ、なんとか切って。」「こうかにゃぁ?って、いたいにゃぁ!」手を切ったらしい。
「後でまとめてケアルしろ!それどころじゃないでしょ!」「「ヒドイ。(にゃぁ」」
なんだかんだで、ミコッテソーサラーの戒めが解ける。
さて。次は。
「ネコ、あたしかスゥの戒め、解ける?」
「ちょっと待ってにゃぁ。」・・・もぞもぞとやってるが、おそらくムリだろう。
硬いロープをさらに素人じゃわからないような結び方をしている。
「おい、ネコ。ムリなのはわかった。呪具はある?」
「あ、あるにゃぁ。」
やっぱり。ネコの持ってる呪具は、緑の花をつけた小枝のようなものだ。
アクセサリーとしても通じるだろう。ましてや異文化ならなおのこと。
「スゥ、ちょっとそっちに転がっていけ。」
「は?ちょっとアンタ何様?」
スゥの顔が真っ赤になってるのが暗がりでもわかる。
「ネコ、転がしといて。」気にせず指示。
そして、
「ついでに、あたしにエアロ2をかけろ。」
「「!!!!」」
「ば、バカなのにゃっ!!!」
「ロープ切るからさっさとかけろっ!バカネコっ!」
「ちょっ!!!レティ!」
「早くしなっ!」
「しらないにゃー!」呪を紡ぐ声。「あほばか、ホントに唱えてるんじゃないよ!この!」
スゥが喚くが、そんなことは気にしてる場合じゃない。気を強く持って呪に対抗する。
完成した呪が身体を切り裂くための真空を作り出す。
「!!!!!」声を上げることは許されない。味方に負担をかけるだけ。
動いてみる。だめか。だが、確実にロープに切れ目も入ってる。
「もういっかいだ、ダメネコ。」
「なんとかにつける薬ってのを薬学院に申請するにゃぁ・・。」
「そいつはまず、自分から試せよ?バカネコ。」
もう一度、真空波の嵐が来る。気を強く持って身体のダメージを減らすように魔法に対抗する。
自慢の髪やら、露出してる肌やら、そうでない肌も鎧も、切り裂かれていく。
そして、強靭なロープも。
痛みと出血で少し意識が飛びかけたが、なんとか保っている。
「コイツ、本当にバカ!」とか「やりすぎちゃったかにゃぁ?」とかが聞こえてくるが。
ほんのりと暖かい光に包まれると、なんとか目が覚めた。
力を入れる。ブチ、っと音がして戒めのロープが切れた。よし。
後は足のロープをはずし、
(船乗り、というのはいろんなロープの使い方を知っているもので、旦那から教えてもらったものだ。あとは応用だけ。今回は単純に力づくだったようだけどw)
芋虫みたいに転がってる、旧知を見下ろして。
「天魔の魔女サマですが、なにか?」と先ほどの問いに答えてみた。
もう一度自分でケアル3をかけると。
相棒のロープを解く。
じゃあ、こっからが本番。ミコッテのソーサラーに。
「杖よこせ。」
「え、だって、それは。ダメにゃあっ!」
戸惑うミコッテ。
「あー。とりころ?、こいつ、多分アンタより上手の幻術師だから。」
「とりころ・・・。もう好きにしてにゃぁ・・。」
槍を持たない槍術士からもエライいわれようだ。
だがしかし・・。
(コレは、ある意味「天魔の魔女」の真価が見れるって、ことですね。ミンフィリアさんによい手土産です!)
「さっさと寄越しな。」 あ。「はいにゃぁ」
「ネコ。」
「はいぃ。あ、にゃぁ。」
「一般人の戒め、解いといて。あたしら二人は武器を確保しに行く。どうせ近所に雑多に置いてある。」
「なんでわかるの?レティ?」
「あなたも少しは周りを見なさい。あんだけギャアギャア騒いで、何故あの見張りは動かないの?」
「そういえば・。」
「あれは人形。しばらく見てても気配も動きもない。完全にナメられてるの。」
そんなナメきった連中が、没収した装備を厳重に隠すとは思えない。
「まず、あたしが魔法で援護するから、多分近くに置いてある武具を取ってきて。
ネコ!人質解放できたら、一気に突っ走る準備しとけよっ!」
「あ、あいにゃぁ!」
「(スゥ。)」(なによ?いきなり)(二人で会話がしたかったから)(あのネコは例の「会」のお目付け役だ。)
(そりゃそうでしょ?)(目的がわからない。うかつに信用しないようにね)(・・・。)
「さて。どっからやろーっかなー!」出口にある「アマルジャ人形」から顔を出しながら。
「反撃ののろし、ってことはファイガ(魔法の範囲拡大をするときの俗称、この場合はファイア)2かー」
「あんた、マジでアホ?」