どれだけをここで費やしたんだろ。遮る物のない砂丘をひたすら走るワタシは・・・
「ん?」あれ。
うーん。おかしいな。
見たこともない景色だったけれど。
やけに、生々しい。
夢の中の光景だった・・・んだけど。
黒衣森で生まれ育って、ひょんな事から砂漠の中にそびえ建つ都、ウルダハに来た。
それは間違っていない・・・
ウルダハ近郊で、海といえばリムサ・ロミンサに往く船の町、ベスパーベイしかないし。
まあ、最近では色々と「水辺」は開拓されているが、あんな「砂丘」いや、砂浜?
は。無かったし、逆に。
リムサから行ける、コスタ・デル・ソルめいた町で、ゴブリンに襲撃されるなんてありえない。
まあ、アレだ。
どっかで、その手の本か、小話でも聞いたのだろう。
それが、無意識で夢に繋がった。
そういうこと。
ただ・・。
少しばかり。
生々しい記憶が。
「バルクルム・エンペラー」
その砂丘の名は、「バルクルム砂丘」そして、その「皇帝」
夢の中だけじゃあ済まされない気もしてきて。
でも。
(オカシイよね?リーナさん?)かつて、自分の保護者になってくれた、エレゼンの女性に想いを馳せる。
あのとき・・「猟犬」を名乗る男に付いて行って・・・ソコから先は、記憶にある通り。
少女時代から、今に至るまで意識を失った事も無いし・・・。
ましてや、放浪なんかしていない。
でも。
「ヘンだ。」
(皇帝羽虫の髪飾り。 いつになれば、ワタシに?)という、欲求が芽生え。
夢の中の出来事だけれど。
その「髪飾り」や、「エンペラー?」というモンスターは、現状では確認できない。
「髪飾り」に関しては、鍛冶屋と彫金にも知り合いは多いが、大抵「知りませんよ。エフェメラさん。どこかの地方にあるんじゃ?」とか「寝言?」と。
そう言われてしまえば、確かに「寝言」なんだけど・・。
「エンペラー?帝国にケンカ売るなら今は準備中だ。」と、某国の密偵をしている「魔女」が冗談混じりに言ってきている。
コレは、やはり。
少し、自意識過剰なんだろう。
あまり思い詰めずに、日々を過ごして「夢ネタ」として、話題作りをして、顧客の関心を引いた方がいいのかもしれない。
だって「妄想癖のある鍛冶屋の武器に、マトモな値段が付けれるか?コレは、何処そこで最高だったんだ!って言われて、破格の値段って言われて、信じるか?」となれば、
コレは死活問題。
「うう。」
そうなのかもしれないし、なんだか不思議な夢も否定したくない。
ただ・・
しばらくは、信頼できても、この話題を真剣にするべきじゃない。
とは、思った。
そういう意味では「魔女の一言」は、たしなめるための言葉だったのかもしれない。
よくわからないが、とりあえずは胸の中だけに。
そして、商売に励む。「はいはい!いい武器と、調整、修理は、ワタシに任せておいて!」
エフェメラの商売は、ここからだ。
「あの?」
某社屋、一室。
「件の、な。」
「御意。」
二人のミコッテは・・・
カウルと言われる「頭ごとすっぽり」なローブを身につけ。
装飾の詳細や、色彩はおいておいて。
むしろ、こだわるのはソコではない。
「司教。」との声に。
「うん。」と軽い男性の声。
「もう少し・・威厳のあるようにして頂けませんか?司教。」
教主の横に寄り添う、カウルに身を包んだ女性。尻尾が出ているので、ミコッテなのは間違いない。
「よい。」
ただ・・「司教。お前は少し黙っていろ。」
「えー、お姉!ヒドイって。それ!」ピンクの尻尾だけがカウルからはみ出して、フルフルと。
「猊下。洗礼は?」
「ああ。そう。そうだった。ええと。そのだ。ええい。せねっち。どうしよう?」
「黙ってろ、猊下。」
「それは・・・いいの?」
「いいから、ダマレ。」
うーん。
なんだか、資料が、書類が溜まって・・・。
うつらうつらと、したところで、起こされて・・・
何かを口走った気はする・・。
そして・・
「いいから、黙れ。」と、筆頭秘書に「お叱り」を受けて、目が・・・覚めて・・。
「ああ。もう。この量、なんとかしてよ・・。」
との言葉に。
「ご実弟、エレン氏が仕事の数割を増やしているのは確定です。」
「ああああああああああああ!」社長はひたすら面倒そうな・・が、やっぱりかあっ!な悲鳴。
「ただ、突飛もない発想で、問題解決を即座にこなす能力は否定すべき案件ではありません。その能力を十分以上に発揮していただければいいのですが。」
セネリオは、こめかみを押さえつつも、長年に渡りそうな案件を、その「発想」でもって瞬時に解決した「迷探偵」ぶりに、素直に頭を下げるのは難しいが、要は「結果」なので・・・
「ま、いいんじゃないんです? 責任者は、私では無いですし。管理は社長任せ、ないしはエリス辺りで。」
「それを、正面から言えるんだね・・。」
「はい。それが責務を実行する身、とわきまえております。」
「ああ・・・・(そうだね、そうだよね・・・)」
趣味のカウルを「布教」している「夢」の中だと、忠実なんだけどなあ・・
弟は・・・夢だろうが、現実だろうが、あんまり変わらないのは、付き合いの長さなのか、深さなのか。
その辺りは、言ってもしょうがない。
「夢は夢」か。そりゃそうだ。
でも。
「夢は、もう一つの現実。今、起きているのが現実だと、誰が証明してくれる?」と言われては。
そういう発想もあるじゃないか。
とは思える。
「ま、まずは目の前の書類を片付けて、晩御飯の献立を考えるか、どこかに外食か・・」
マルス社長は、甘美な夢は置いておいて、ペンを手に。