1009外伝2 ある女性の回顧録・・みたいなもの。添えるもの。

どれだけをここで費やしたんだろ。遮る物のない砂丘をひたすら走るワタシは・・・

「ん?」あれ。

うーん。おかしいな。
見たこともない景色だったけれど。
やけに、生々しい。

夢の中の光景だった・・・んだけど。

黒衣森で生まれ育って、ひょんな事から砂漠の中にそびえ建つ都、ウルダハに来た。
それは間違っていない・・・
ウルダハ近郊で、海といえばリムサ・ロミンサに往く船の町、ベスパーベイしかないし。
まあ、最近では色々と「水辺」は開拓されているが、あんな「砂丘」いや、砂浜?
は。無かったし、逆に。
リムサから行ける、コスタ・デル・ソルめいた町で、ゴブリンに襲撃されるなんてありえない。
まあ、アレだ。
どっかで、その手の本か、小話でも聞いたのだろう。
それが、無意識で夢に繋がった。

そういうこと。

ただ・・。
少しばかり。

生々しい記憶が。

「バルクルム・エンペラー」
その砂丘の名は、「バルクルム砂丘」そして、その「皇帝」

夢の中だけじゃあ済まされない気もしてきて。
でも。

(オカシイよね?リーナさん?)かつて、自分の保護者になってくれた、エレゼンの女性に想いを馳せる。
あのとき・・「猟犬」を名乗る男に付いて行って・・・ソコから先は、記憶にある通り。
少女時代から、今に至るまで意識を失った事も無いし・・・。
ましてや、放浪なんかしていない。

でも。
「ヘンだ。」

(皇帝羽虫の髪飾り。    いつになれば、ワタシに?)という、欲求が芽生え。
夢の中の出来事だけれど。

その「髪飾り」や、「エンペラー?」というモンスターは、現状では確認できない。
「髪飾り」に関しては、鍛冶屋と彫金にも知り合いは多いが、大抵「知りませんよ。エフェメラさん。どこかの地方にあるんじゃ?」とか「寝言?」と。
そう言われてしまえば、確かに「寝言」なんだけど・・。

「エンペラー?帝国にケンカ売るなら今は準備中だ。」と、某国の密偵をしている「魔女」が冗談混じりに言ってきている。


コレは、やはり。

少し、自意識過剰なんだろう。
あまり思い詰めずに、日々を過ごして「夢ネタ」として、話題作りをして、顧客の関心を引いた方がいいのかもしれない。
だって「妄想癖のある鍛冶屋の武器に、マトモな値段が付けれるか?コレは、何処そこで最高だったんだ!って言われて、破格の値段って言われて、信じるか?」となれば、
コレは死活問題。

「うう。」

そうなのかもしれないし、なんだか不思議な夢も否定したくない。
ただ・・

しばらくは、信頼できても、この話題を真剣にするべきじゃない。
とは、思った。

そういう意味では「魔女の一言」は、たしなめるための言葉だったのかもしれない。

よくわからないが、とりあえずは胸の中だけに。

そして、商売に励む。「はいはい!いい武器と、調整、修理は、ワタシに任せておいて!」

エフェメラの商売は、ここからだ。



「あの?」

某社屋、一室。

「件の、な。」

「御意。」

二人のミコッテは・・・


カウルと言われる「頭ごとすっぽり」なローブを身につけ。

装飾の詳細や、色彩はおいておいて。
むしろ、こだわるのはソコではない。

「司教。」との声に。
「うん。」と軽い男性の声。
「もう少し・・威厳のあるようにして頂けませんか?司教。」
教主の横に寄り添う、カウルに身を包んだ女性。尻尾が出ているので、ミコッテなのは間違いない。

「よい。」
ただ・・「司教。お前は少し黙っていろ。」
「えー、お姉!ヒドイって。それ!」ピンクの尻尾だけがカウルからはみ出して、フルフルと。
「猊下。洗礼は?」
「ああ。そう。そうだった。ええと。そのだ。ええい。せねっち。どうしよう?」
「黙ってろ、猊下。」
「それは・・・いいの?」
「いいから、ダマレ。」




うーん。
なんだか、資料が、書類が溜まって・・・。
うつらうつらと、したところで、起こされて・・・
何かを口走った気はする・・。
そして・・

「いいから、黙れ。」と、筆頭秘書に「お叱り」を受けて、目が・・・覚めて・・。
「ああ。もう。この量、なんとかしてよ・・。」
との言葉に。
「ご実弟、エレン氏が仕事の数割を増やしているのは確定です。」

「ああああああああああああ!」社長はひたすら面倒そうな・・が、やっぱりかあっ!な悲鳴。

「ただ、突飛もない発想で、問題解決を即座にこなす能力は否定すべき案件ではありません。その能力を十分以上に発揮していただければいいのですが。」
セネリオは、こめかみを押さえつつも、長年に渡りそうな案件を、その「発想」でもって瞬時に解決した「迷探偵」ぶりに、素直に頭を下げるのは難しいが、要は「結果」なので・・・

「ま、いいんじゃないんです? 責任者は、私では無いですし。管理は社長任せ、ないしはエリス辺りで。」

「それを、正面から言えるんだね・・。」
「はい。それが責務を実行する身、とわきまえております。」
「ああ・・・・(そうだね、そうだよね・・・)」

趣味のカウルを「布教」している「夢」の中だと、忠実なんだけどなあ・・
弟は・・・夢だろうが、現実だろうが、あんまり変わらないのは、付き合いの長さなのか、深さなのか。
その辺りは、言ってもしょうがない。
「夢は夢」か。そりゃそうだ。

でも。

「夢は、もう一つの現実。今、起きているのが現実だと、誰が証明してくれる?」と言われては。
そういう発想もあるじゃないか。
とは思える。

「ま、まずは目の前の書類を片付けて、晩御飯の献立を考えるか、どこかに外食か・・」

マルス社長は、甘美な夢は置いておいて、ペンを手に。

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