591外伝。コロセウム 幕間4

緑生茂り、新たな芽吹きを喜びとし、朽ち行く生命に感謝の念を捧げる街。

その一角。
「地図に載らない」区画。

関係者は、「家」とだけ。
いくつかあるはずの「家」だが、その一軒。

銀髪の青年はあいもかわらず、不景気な顔というか。不健康かもしれないが・・。
「家」に入り、いつものように居間に通じるドアをノックする。
「いいヨ。」
と、鈴の鳴るような声。
(は~。今日はどういう趣向を凝らしてペイアップするのかね?)
青年は事あるごとに、この相手から給料アップのための小細工を・・・とはいえ。
透き通るような白磁のごとき裸体を惜しげもなく晒して、目の保養の代金と言われれば。
ヘタな踊り子などより、よほど払いたくなるもなる、というか。男の性とはかように切ないモノだと・・・。
自覚はあるが、払う以上しっかり見ないと、と思い、後でなんだか少し負けた気がする。
という、葛藤がありもするが、開けない訳にもいかない。
「失礼するよ。」

案の定。
目の前には。
もはや、少女、というより、大人の女性として凜とした美しさも纏う彼女は。
肩もあらわな、そして胸元のふくらみを強調させた黒のドレスを纏っていた。
スカート部分は前髪と同じく、左側がロングで、流れるように右側のタイトなシルエットのミニからフレアのように広がっている。
「どウ?キーファー?」
髪はアップにまとめられ、それでも前髪は常の通り。髪飾りはシルバー?いや、プラチナか。白銀の小さなティアラはどこかの姫君のようだ。
絶句するしかない装いに、硬直は続く。
「キーさん、どうよ?わっちの新作だよ!」
「・・・・。」無言で首を縦に振る。握りこぶしは親指を立てて、震えている。
「フネラーレ、ものすごく似合っていますよ。」と黒い肌のエレゼンの女性、ベッキィ。
うんうん。と満場一致で成果を称えていると。
「あ。」と一人。現実に引き戻され。
じつは。
ああ、でも、もう少し見ていたい・・いや、後ろ姿とか、横も・・・左右非対称(アシンメトリ)ゆえ、4方向、いや360度からすべて見たい・・・。
「じつは。」やっと誘惑から脱し、(あきらめたわけではない。)
「こういうものが。」と封筒を。
「内容に関しましては、申し訳ありませんが先に確認させていただきました。」
「なニ勝手に読ンでんダ?」
いえ、その姿でスゴまれても・・とは言えず、このアングルと表情を記憶にとどめておかねばと・・。
「まあまあ、フネラーレ。キーさんだって、ちょっとくらいは理解してるとおもうよ。」
「何ガ?」
「お嬢様。それは・・。」
「いいじゃない、ベッキィ。キーさんだって、この蜜蝋の事知ってて開封したんだから。蜜蝋に封がしてあった「印」、兄さまのでしょ?」
「・・・はい。クォ・シュバルツ氏のもの、ですね。やはりわかりますか?蜜蝋はこそぎ落としたはずなんですが。」
「あはは、キーさんもここまでは知らなかったか~。」
「お嬢様!なりません!」
「いいじゃん。兄さまだって、此処に送る以上、そのくらい解かってやってるでしょ。」
「あのさァ。話、見えないンだけド。」フネラーレは不機嫌のまま。
「じゃあ、キーさん、内容を。」
「ええ。コロセウム建設の件はご存知ですよね?それがようやく完成にこぎつけた、とかで。
そして、こけら落としの前に、名だたる人物を招待してコロセウムで試合を。プレオープン、とでもいいますか。
その招待状として、この封筒が届いた、ということです。おそらく、鬼哭隊隊長や、神勇隊隊長辺りにも行ってるのでは?と思います。
そして、名指しでフネラーレ。あなたに参加要請ですね。ベッキィ、ショコラは観覧とありますが。ベッキィに関しては、参戦も有り、とのことです。」
「キーさんは?」
「はい、僕は名前がありませんしね。留守番、ですかね。」
「忘れられているとか?」「存在自体が知られていないのでしょうか?」「雑魚だシ?」
「あなた達、ヒドイ言いようですね・・・・。」さめざめ・・・
「まあ、来ルなら来いヨ。交通費は自己負担だロ。どうセ。」
「まあ・・そうですね。高額でなければ・・・。」

しかし。あの蜜蝋。剥がしたはず、だけどなあ。なんでわかったのか・・・  !
そうか。
普段、完全に剥がすことなどしない。何故完全に剥がしたか?その理由が答え、というわけか。
ソコには兄妹、いや、一家のみの符丁があるのかもしれない。
もう一度、こっそりと蜜蝋のあった場所を見る。
なるほど。
蜜蝋は黒い染料だった。そしてその色は紙に色濃く移っている。その真ん中。一本の金糸が縫い付けてある。
そう、黒い目に縦長の金色の瞳孔。黒猫クォ。全て剥がさなければ見えない符丁。
なるほどね。
実物に是非とも会ってみたいな。

「キーファー?どうカしたか?」
黒髪の美女が覗き込んでくる。
「いや、僕も観覧したくなってきた、よ。」
「そウか!それはイイ!これは、楽しめそうダしナ。」

(兄さま、どういうつもりかしら・・?)小首を傾げるショコラ。

(クォ様。とりあえずは思惑通り、ではありますが。一体?)表情には出さず、疑問符だけが残る給仕姿の女性。




「ま、順調だね。そう思わないかい?アドルフォ。」
「そうでございますね。クォ様。しかし、お嬢様もお呼びいたしましてよろしかったのですか?お父上と、その・・・。」
「皆まで言うな。わかっている。妹がどういうつもりか知らないが、来るというなら、拒む必要もあるまい。」
「しかし・・。」
「くどいな。アドルフォ。余興として、お前も楽しめ。」暗にこれ以上の言動をするな、ということで、察した秘書は「はい。」とだけ。


----------コメント----------

やれやれだぜ
Rapu Taro (Hyperion) 2013年05月21日 15:59

----------------------------

・・・b
Fizz Delight (Hyperion) 2013年05月21日 16:53

----------------------------

>ラプさん、丞太郎・・・(゜д゜)
あにゃ、しまったコレ以上返しがデキナイィィィィィィ!!
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月21日 23:26

----------------------------

>フィズさん。ソレも微妙w
サムズアップ?なの?音楽記号の♭じゃないよね?
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年05月21日 23:27

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ