1039トリニティ。 困った殿方との接し方。

重い灰色の空、何時降るかもしれないしれない雪。
寒空の中、この国 イシュガルド正教国は粛々とした日常を送っている。
まるで、竜族の襲撃を忘れるかのように。
今でも被害の大きかった下層、更に下では寒空の中、宿どころか、毛布一枚で夜を過ごすのが精一杯、それすらも贅沢だ、など・・・

そんな中。
街の一角、ランディングからは一艘の飛空艇が帰って来た。

「はぁ。うちら、ナニしに行ったんや?」黒髪を短く刈った女性。乱雑に切ってはあるが、野性味が増して、コレはコレでいい、と自分で納得している。
「ですね。お使いなのは覚悟していましたけど。」少しおっとりした口調の女性。同じく黒髪だが、こちらは長いストーレトヘアを後ろで纏めて、尻尾が揺れるよう。

そこに。

「いやあ、冷えるよね!さっきまで緑で一杯だったのに!それに、飛空艇の寒さったらっ!」桃色の髪と尻尾、尖った耳を持つ青年が朗らかに。
「任務は完了、なんだろう?ならいいではないか。」漆黒の肌、髪。そして、双角と尻尾を持つ青年が金色の瞳で睨んでいる。

彼、彼女らは、ひょんな事からパーティを組むことになった4人。

「で、エレディタ殿?」漆黒の機工士。
「あん?」睨み返すような調子で応える野性的な彼女。
「ちょ、エリ!もう少し・・ホラ?こう。・・・・なんていうのかな?・・・同じパーティだし・・仲良く?アリアさんも睨まないで?」長い尻尾(髪)を揺らしながら二人の間を行ったり来たり。
「アイリーンさん、どうしたの?ケンカ?ケンカはよくないね。お姉はいっつも僕を叱るけど、ケンカにはならないよ。」桃色の青年が口を入れてくる。
「「エレン!それは、(アンタ)(お前)が悪いから(やろ!)(だろ!)」」
ヘンなところでカブる二人。
「ええぇぇ!なんでわかるのさ?二人共!見たことあるの?」
「・・・・自覚、あったのね。」アイリーンがため息一つ。残る二人に至っては、毒気を抜かれてもう、どうでもいいや、な空気に。

「と、とりあえず、伯爵邸まで行きましょう。」アイリーンは建設的な案を提言し、3人は、それもそうだ。と無駄口を叩きつつも伯爵邸に。

「おかえりなさいませ。」
執事が出迎えてくれる。
そして。「お早いお帰りでしたな。で、エマネラン様はどちらに?」
「え?」「へ?」「なに?」「・・・」

「せや。うちらは書簡を届けに行っただけやで。ボンボ・・・ご子息とは会うてへん。それがなんや?」
一行を代表してエレディタが。
それを聞いて、執事は絶句してから・・「ああ・・・やはり。」 
少し硬直していたのが溶けて「オノロワとも会いませんでしたか?」
「オノロワ・・?」
「エマネラン様付きの従士です。まだ未成年ながら、しっかりしたところを見込まれて側仕えしているのですが。」
「みんな、見てへんやんな?」エレディタの声に、皆が「うん。」「だれ?」「知らないな。」
「やってさ。」
ため息をついて執事が。
「実は、あなた方が出立されから、しばらくしてエマネラン様もオノロワを伴い、雲海にご出立なされたのです。」

一拍おいて。
「え!?」 とは、全員。異口同音だった。

「あんの、ボンボン・・」「エリ・・それは・・」「へぇ?そうなの。」「世話のやけるヤツだな。」
銘々の感想を、執事は黙って受け取り。
「申し訳ないが、今一度。雲海に足を運んではいただけないだろうか?エマネラン様は、武勇に秀でているわけでもありません。しかし・・」
あとは、いわずもがな。である。

「しゃあないな。一旦乗りかかった船や。ええやろ?みんな?」エレディタの声に
「いいだろう、リーダー殿。」アリアが茶化すように。
「ちょ、うん。いいよね?エレン君?」アイリーンが尋ねると、
「もちろんだよ!美人のお姉さんから言われちゃったら断る理由がドコにあるのさ!」朗らかに。

コレには、言われた当人以外の二人も(コイツは危険だ。)という共通認識が構築されつつ・・

「ま、あれや。行ってくるわ。とりあえずは雲海はそれほど危険やないし。」
その声に。
「いえ!そんなはずはっ!」うろたえる執事。
「どうしたの?」黒髪を揺らす女性。
「北にはバヌバヌ族という蛮族が居ます。そして、アインハルト家の斥候がこれと接触し、トラブルに発展しかねない、との報告もあるのです!・・・あの、小娘・・。」

「まあ、落ち着きたまえ。要はご子息を無事連れ戻せばいいのだろう?」冷静なアウラの青年。
「そう・・そうだ。急ぎ、ランディングに赴いてくれ。船は手配をしておく。」少し落ち着いたのか、侍従を呼んで手配させる。そして、このことは「お館様」にはくれぐれも内密に、と。

一行は急かされてランディングへ・・・・


その途中。


「お、なんや。あんたらまたお仕事か?儲かるやんけ?」ヤブ睨みの長いブロンドの女性。
「うちらは、仕事のオマケに色々したんやでー。」長身の割には愛嬌のある女性が続ける。
「ユーリ。イラん事言わんでええ。」頭ひとつ分、背の高い妹を睨む。
「お姉ちゃん、ごめんやで~。」女性にしては長身で引き締まった体の彼女は消え入るように謝り始める。

「ユーニか。うちらは、アレや。後始末、ていうんかいな?儲けにならん。」
「ほうか。うちらは屋敷でゆっくりしてくるさかい、せいぜいおきばりや。」
「せやな。」軽く手を振って・・

姉妹と別れ、ランディングに向かいながら・・・
「ねえ、エリ。エマネランさん、何しに行ったのかしら?」
「大方、かの女性にアピールする何かがあったんだろうよ。」アイリーンの問を遮るようにアリア。
「せやなあ。他には考えにくわなあ・・」エレディタもこれには同意。
「ねえねえ、またあそこに行けるって、いいよね!」エレンの声に。
「・・・」皆は無言だが・・・
(どうせ、ロクでもない事にクビ突っ込んでるんやろなあ・・)
(あの人、大丈夫かしら?・・・大事になる前になんとかしないと!)
(探索範囲が広がるのはいいことだ。この際、せいぜい泳いでもらわないと、な。)
思惑は別々のよう・・・

一行は船内で一泊して。


時間は少し遡り。

緑生い茂る浮島、その一角にある監視哨「ローズハウス」
そこに・・・
「やあ、ラニエットはいるかい?」 
朗らかな男性の声。
衛視は「エマネラン卿!」敬礼。「今、団長殿は来客中で。少しばかりお待ちいただけますか?」
「ああ、そうなのかい。わかった。久しぶりに監視台を見てくるよ。」
踵を返すと、巨木を元にした監視哨に登っていく。
「お待ち下さい!エマネラン様!危のうございます!」
エレゼンの少年従士、オノロワが引き止めるも、「いいじゃないか。ラニエットの負担を減らせたいんだ。」
「ですが・・・」食い下がるにも、そう言われては押しが強く出れない。
二人、監視台で雲海を眺める。

「飽きた。」ほんの数刻、どころか、半刻も経たないうちに。
「ラニエットに来客って、一体誰なんだ?」青年貴族は、剣呑な雰囲気で・・
「エマネラン様。来客の詮索など、それこそ詮ない事。ご自重くださいませ。」
「オノロワ?もしかしてだ。ヘンな男が色目を使っていたらどうするんだ?」
「・・・よろしいですか?仮にそうであったとして。ラニエット様がそんな輩になびくはずもございません。」(内心、主に対しての忠告も含めて、なのだが・・)
「そうか。そうだな。少しでも疑った俺が悪かった。うん。そうだな。」
ご満悦、らしい。従士は、気づかれぬように浅くため息。(ラニエット様も、心痛がおありの中、更に問題は避けたいでしょうに・・)
年若いながらも、よく出来た従士。


「じゃアね。ラニエット。」長い黒髪をアップにまとめた女性。
「ああ、リン殿。」薔薇騎兵団長が送り出す。
「北の、バヌバヌ?だッけ?」
「ああ。彼らとは、上手くやっていきたいのだ。が、どうにも誤解が生じているみたいで、事態の収束を出来るだけ穏便に済ませたい。」
「役に立てルかは、わかン無いけド。見てくるヨ。」
「助かる。」

そこに・・・・

「ああ、ラニエット!やっと会えた!」貴族らしからぬ軽い挨拶と共に、監視台から飛び降りんばかりにやってくる。
「エマネラン卿。」苦虫を噛み潰した表情のラニエット。
「文は読んでくれたかい!」
「いや、まだ受け取ったばかりで、内容はわからない。まさか卿、自らお越しになるとは思っていなかったゆえ。」(見るまでもなく捨てた、とは・・・)
「いや、いいんだ。こうやって僕が此処にいる。役に立てることなら、なんでもするよ。」
「エマネラン様!」オノロワは、気が気ではない。
「では、此処におられる冒険者殿と一緒に、雲海の北、ヴール・シアンシランまで偵察に赴いてもらえるだろうか?」
「ラニエット卿!」オノロワが声を激しく。
「いや、いい。オノロワ。どうだろう?冒険者殿。」
・・・・・・(いいカ。使えるモノは使ウ。)
「いいヨ。僕はリン。見てのとおりの弓使いダ。」フネラーレはできるだけ左目の「呪眼」を隠しながら。
「よし。リン殿。それでは参ろう。オノロワ、近衛を呼んでこい。」「は。」

かくして、エマネラン率いる近衛兵3人、リン、ことフネラーレ、オノロワのパーティが雲海の北を目指して行く。


「大丈夫かなあ?」今更だが、あのボンボンには少しばかり痛い目と、それが惨事にならないよう、矛盾した感情で。
「大丈夫、だろう・・・」
先ほどの冒険者を名乗る女性。
端々に、隙がない。こちらがいきなり抜刀して斬りかかっても、おそらく返り討ちになりそうな、そんな空気があった。
冒険者、というより。
もっと、昏い世界の住人、だと直感した。
なので、彼を任せた。逆説的だが。


そんな中。

「団長!」
部下の声に。「どうした?」
「例の冒険者の方々が。」
「ん?」
「事情を聞きたい、とのことですが。」
そろそろ夕暮れも近いが、取って返してきたのだろう、彼らは。
そういえば勢いでこんな時間に追い出したエマネラン一行は、はて?大丈夫だろうか?少しばかり無責任な気がしてきた。

日も暮れかけて・・・
「いいところに来てくれた。」ラニエットは申し訳なさげに・・・
「実は・・・」

「あちゃあ。ほんならアレか?ボンボンは、その女冒険者と一緒に北に行ったんやな?」
「ああ。」
「その・・・その女性はどんな方でしたか?」アイリーンの問いに。
「ああ、貴女と同じく長い黒髪を纏めていて、リン、と名乗っていた。」
「へ?」これにはアイリーンは絶句しかない。
「りんちゃん?」エレディタも事情が掴みかねている。
「とりあえず、追うしか無いのだろう?地図を見せてもらおうか。」漆黒の青年。
「だよね~。あ、星空も綺麗だといいよね!」一人、朗らか。

いい加減、慣れてきた3人は。
「チョコボはいないのか?」「せや。追いつくにしても、情報が欲しいわ。」「ですね。」

チョコボは貸出できない、地図は供出できる、そのポイントも記して。

「分かった。なるだけ早く見つけに行くさかい。」
「ええ。任せて下さい!」
「別料金、だな。」
「ええ!観光じゃないの?」

そんなわけ、ねーだろ!とは、誰も言わない・・・・


銀髪の騎士が、邸宅から出てきて。
「エマネラン卿。無茶をしてくれるな。」
騎鳥に飛び乗り、雲海に単身向かう。

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