1035トリニティ。 浮遊島。 続々、その裏で。

潮風が心地よい夜の酒場。
ウルスリは、珍しい来客に「あら、お久しぶり。」と微笑む。
男は答えて「あぁ、久しぶりに悪友に会いにね。」
「そうなの?まあ、ごゆっくり。なら、カウンターじゃないほうがいいわね。あちらのテーブルに。」
「ああ。すまない、が、バデロンの親父にもひと声かけとくよ。」
「どうぞ。」

明るめの茶色い髪、青い目の好青年。薄いシャツ一枚の下には、鍛えられた肉体が収まっている。
細く見えるが、ヤワではなく、細くても千切れることのない船の縄のよう。
青年は、飄々とした態度でカウンターに近づき、ヒゲのマスターに。
「やあ、親父。ちょっと来てやったぜ。」
「来るなよ。それに、誰が親父だ。そこまで年は食ってねえ。」
「まあまあ。今日は騒ぎにきたんじゃねぇ。ちっと、馴染みに誘われてね。」
「ああ、アイツか。自分チでやればいいだろ?お前ら。」
「そうとも言えないんだよ、近頃またぞろ黄色いオチビちゃんがうるさくってね。」
「ミリララ嬢ちゃん、ね。あの娘も、もうちぃっと気を抜けばカワイイんだが。」
「行く先々で待ってました!とばかりに出てくるんだが、それがたま~に、なんだよな。なので却って疲れるよ。」
「はっはっは!向こうからすれば、全部お見通しのつもりなんだなあ。カワイイじゃねえか。」
「そろそろ、貸しが溜まってきたんで、此処でパーティーでも奢らせよう。」
「あんまり、意地悪してやんなよ。ジャック・ラドロ(盗賊)。」
言われながら、すっとカウンターから入り口に視線を移し・・
「まあ、その辺はな。っと、お連れが来たようだ。流石に時間通りだなアイツは。」
褐色の肌の長身のエレゼンの青年。蒼いジャケットがトレードマークだが、今は目立ちたくないのだろう、ダークグレーのシャツ。 が。
(おい、アイツのセンスって、誰が面倒見てるんだ?)
ジャックの囁きに(さあな?お嬢が居る時は、任せっぱなしって聞いたことはある。)
(あの娘にそんなセンスあったか?)
(知らん。まあ、似たり寄ったりかもしれん。) ボソボソ

ウルスリから、卓の案内を受けて着席した青年がこちらに視線をむけてくる。
「なんだ、先にいたのか。」と手を振って呼んでいる。

「ごゆっくり。」と、ラムのボトルと、ハムやチーズの盛り合わせを置いて去っていくウルスリ。
(あんまし、ゆっくりも困るんだが。)

ジャックは、目の前の悪友、カルヴァランを見つめて。
「アンタから呼び出しってな、珍しいな?あー、カール。」
「ジャッ・・ジャン。いやまあ。そのなんだ。ただのグチかもしれんが、情報としては悪くはないぞ?」
「そりゃあ、大物二人が酒場でクダ巻いてるんだ。何も無くてもコレだけで「黄色」が飛んでくる。」
「ああ、アレか。こちらには公認免状があるから、表立っては横ヤリできないからな。」
「その分、こっちに負担があるんだ。だから、今回はお前のオゴリだな。」
「・・・・仕方あるまい。呼んだのも俺だからな。」
「OK!取引成立だ。ビジネスはスマートに限る。」
「で?グチとやらが、情報になりうるんだ?」
「ソレがな。」


夜も少し更けてきて。
「オマエさ、ソレ言ってもいいの?」
「オマエくらいにしか言えない・・・」
すでにボトルは3本目。
「あの嬢ちゃんがねえ。異国の空の下の潜入捜査ってか。しかも、魔女もこの辺ウロチョロってな、物騒だな。」
「異国といえば、グリダニアもそうだが・・」
「3国はほとんど、共同体・・・表向きはな。が。北方はやや事情が違う。」
ジャックは、やや睨みがちに。
「オレ達がその情報を活かすには、少々インパクトが無いぜ?」
「海賊の流儀、か。確かに海運はあまり関係は無いかもだが・・・グチなんだよ!聞けよ!」
あーあ、百鬼夜行の棟梁もこうなるとカタ無しだなあ・・・
「まあ、俺からも隠密の技術は叩き込んであるんだから、大丈夫だって。」
「ドコからの依頼だか知らないが・・・、まったく・・・」ブツブツ・・
(大方、提督じゃねえの?と思いながら・・)ジャックはラムを煽る。

ソコに。
「ねえねえ!ちょっとカウンターつかうわよー!」
凛とした、女性の声。

(マズいな、この声・・・ローズウェンの女将だ。)
「おい、とんずらするぜ?」ぼそりと・・向かいの青年は、視点が曖昧だ。コレはマズイ。
視線でウルスリに合図をすると、青年を介抱するように立ち上がらせ、「すまんね、ツケといてくれ。」と声色を変えて酒場を出て行く・・・・・

「おい、ったく。貸しイチだぜ?」
ジャックは副官の一人、ペリム・ハウリムにパールで事の次第を告げ、「棟梁」を「帰還」させるミッションを。

「ま、このくらいはいいだろ。」8割ほど残ったラムの瓶と、ハムを一塊。 もちろん、あの棟梁のツケだ。

なにせ、あの女棟梁があの場に混じってくれば、修羅場というか、鉄火場だ。
そんな場所に居合わせるのは流石に御免こうむる。

「盗賊」ジャックは、お得意のとんずらを決め込んで。アジトで飲み直し。



「提督」に騎士盤(チェス)で大勝した魔女は、秘蔵のラム酒をせしめてご満悦・・・
その時間には・・・



(さテ?)
黒い弓使いは思案に耽る。
マリエルという女性「騎士見習い」に、主である、この地の責任者に是非、会ってくれ、などと。
更には、グチの類を聞かされて・・・「まァ?落ちついテ?」と止めなくてはならない場面まで。
(不満、溜まってるナ・・・)
フネラーレとしては、この「雲海」なる、未知・・のエリアの探索を任されているので、願ったり叶ったりなのだが。
(動機がショボイ・・・よネ?)が本音だったり。

しかしながら、この不可思議な浮遊大陸は好奇心をそそる。
「うン。任せてヨ!(とりあえず、ネガティブなガス抜きにこれ以上付き合う義理も無い。)」
そそくさと準備を済ませると、言われた「ローズハウス」とやらに赴く・・・

「隊長さンも大変だネ。」
周りを眺めると、確かに奇妙な・・3国ではお目にかかれないような木々や、獣、魔獣の類が。
このまま散歩もいいけれど、夕暮れを通りすぎて(今夜はお泊りになられては?)のお誘いに、寝るギリギリまでグチを聞かされても困る・・・ついでに、
いかに自分がラニエット騎兵長を敬愛しているかを語り尽くされるもの閉口だ。
とにかく、善は急げ!とばかりに、マリエルに別れを告げるとこの道中。
幸い、小一時間程度の距離なので、そちらで眠らせてもらう事にしよう。

もっとも、暗闇になったところで「呪眼」があるので気にもしないのだけれど。

(とりあエず、そノ辺りの魔獣を手土産かナ。)
ほどなく、コウモリ?っぽい魔獣?獣?の羽根を数匹分むしりとりつつ・・・
「こンなものかナ。」

大樹に見張り台がひっついている哨戒基地「ローズハウス」に。

「あのサ?」
見張りの衛兵に声を掛ける。
「どちら様で?」
「冒険者だヨ。」
「何用ですかな?」
「マリエルさンから、親書を預かってル。イイ?」
「よろシく。」

とりあえずは、問題は無さそう。
フネラーレは、周辺の地図を記憶に収めつつ・・・
なんだか、よくわからない。が結論。
地図はまだ入手していないが、此処でもらえるだろう。
ただ・・・高低差が激しいので、平面の地図がドコまで信用できるか?に尽きる。

そこに。

「冒険者殿!わざわざのご来訪、痛みいる。私は薔薇騎兵団、団長ラニエット。ここキャンプ・クラウドトップの責任者だ。」
「あ。あァ、僕はリン、でいいヨ。」
「そうか。もう夜も更け始めている。このあたりでも見た目以上に寒くなる。どうぞ、宿舎へ。」

誘われ、そちらに。

温かいシチューと、寝床を提供されて。
「ありがトう。」思わず、本音で感謝してしまった。
「手土産」が功を奏したのかもしれない・・・
とりあえず、探索、情報収集は明日だ。
毛布にくるまり、ゆっくりと睡魔に身を任せる・・・
(今日の伝心・・・まぁ、いいか・・・・・・・・・・・・・)



雪の降り仕切る砦、ファルコンネスト。
この砦は、かつては草原生い茂る土地で、砦など必要もなくもっと大きな村落だった、と。
目の前のヒゲの衛視(騎士)が言う。

テーブル越しの男、レッドワルド。

「せやけどなあ・・・」
長いブロンドの女性、ユーニは火酒を煽りながら。
「現状は現状やろ?」
「確かに。」応える。

「なあ、さっき言うてはった「監視地点」や。どんなトコや?」
「聖フィネア連隊の駐屯地、だ。最も多くの竜を発見し、駆逐している。が、それこそ先の話題にもしたが・・異教徒、竜との共存を謳う連中が出てきている。
そのあたりでも調べて欲しいというのがアルトアレール卿の言い分なのだ。」
「んで?うちらに白羽の矢、ちゅうの?が気になるねん。」グラスに火酒を注ぐ。
塩漬け肉とチーズ、この寒さでも耐えうる野菜・・・の盛り合わせは、妹にまかせながら。

「君たちは・・俺に食ってかかっただろう?傭兵だ、と。それを卿は見ぬいた上で指名されたんだろう。」
「さよけ?」
「正直、俺も実戦は経験しているが、君に凄まれた時には「覚悟」を求められた気がしたよ。」
「ほうか。うちらなんて、まだまだカワイイで?」
「そうなのか?」
「うちのオトンなんて、ナニするかわからへんからな。」
「オトン?」
「親父。」
「ああ・・・なるほど。君たちのバイタリティはそこからか・・」
「ムズかしい話はいらへん。んで、明日にその監視地点に行けばええんやろ?」
「そうだ・・」
「わかったで。まあ、まかしとき。 おい!ユーリ!いつまでも食ってるんやない!」
「え?」
「仕事の時間や。」
「あい!お姉ちゃん!」

二人の女性を見送りながら・・

「あの火酒をボトル一本空けてるが・・・大丈夫なのか?」 レッドワルドはさすがにこの辺りで宿舎に。

ちなみに彼は、ショットグラスで6杯。ボトルで言えば四分の一程度。
それでも酩酊感はある。この寒冷地では、体内を温めるためにキツイ酒を習慣として嗜むが、それもこの数年の話。

ヴォドカ、といわれる火酒が出回りだしたのも、ほんのわずかな歴史ではあるが、あの飲みっぷりは。

「大丈夫かね・・?」


翌日。

「おう!オッサン。どうしたらええねん?」昨夜の飲みっぷりからは想像もつかない程の元気さで。
「ああ。ユーニさん。ここのチョコボ厩舎に話をつけてあるから、チョコボに跨ってくれれば目的地、聖フィネア連隊に運んでくれる。
あとは、現地の指揮官、ジャントゥロー殿に聞いてくれ。」
「分かった。 おい、ユーリ?」妹を振り返る。
酒自体、それほど飲んでいないハズだが・・・

「お姉ちゃん・・・また、あの空飛ぶチョコボに乗るの?」
「なんや?イヤなんか?」
「・・・寒いのはイヤや・・・」
「毛皮足したやんけ?」
「うち・・・思ったんやけど・・・高すぎるの、ムリやわ・・・。」
「死ね。ほんで、空の上からせいぜい高いトコを見とけ。」
「!!!むり!むりや!!お姉ちゃん!」
「せやったら、銭の分くらいは仕事せえ。」
「はい。」


姉妹の向かった先。

「ようこそ。此処が最前線、みたいな感じだ。俺はジャントゥロー。これでも一端の貴族なんだが。その辺は気にしないでいいぜ。館籠もりの連中より接しやすいだろ?」
エレゼンの男性が大仰に挨拶を。
「うちは、ユーニ。ユーニ・ロアー。こっちは妹、ユーリや。」
姉妹の挨拶を受けて。
「ああ。よろしくな。」

「最前線、とはいうが・・見てのとおり貧乏所帯でね。ハッキリ言うが。此処は「竜殺し」の銘が欲しいヤツだらけでな。出かけて行っては返り討ち、な有様。俺も出張りたいんだが・・」
ちらっと脇をみて。

小声で(お目付けもいるんで、ふんぞり返ってるしか芸が無い有様だ。)

「ほんで?うちらはどうしたら?」
「そうだな、ここの環境を知ってもらうため、それと異教徒の情報を集めてくれるとありがたい。」
「ほうか。せやったら好きに見学させてもらうわ。後、異教徒を見かけた、ちゅう情報はどこからや?」

「ああ・・・ここから東にゴルガニュ牧場、いや、元牧場があってな。哨戒をしてる奴が報告したんだ。こんな場所に人が集まるのはおかしい、とな。」
「へぇ?」
「そいつは命からがら・・まあ、本人に聞いてみるといい。ルシェー小母さんが気にかけててな。なんでも、本人がすごく落ち込んでて、その報告以降、誰とも話をしない。」
「ほうか。いくで、ユーリ。」「あい。」

「あ、ルシェーはんでっか?」
突然の声に、炊事担当の女性。
「そうだけど・・見ない顔ね?また竜退治に憧れてきた騎士見習い?」
「ちゃうわ。まあ、そうなるかもやけどな?」
「異国の方?」
「ザナラーン生まれ、や。」
「・・・そう、で。何か?」
「さっき、ここの隊長サン?から聞いたんやけど。異教徒の報告に帰って来た人の事。」
「ああ・・。彼は・・・・・・」目が泳ぐ。
「歯切れが悪いな、こっちは仕事なんや。よろしゅうしてんか?」
「よろしゅう・・?」
「よろしく、や。説明させんなや?」
「あ、それは・・・すみません。彼は・・あの柵のところでしゃがんでいる、」と、青年を指差す。
「彼は、哨戒任務でチョコボの騎手として、練達の・・・でも、この度の哨戒任務で、愛鳥を失ってしまって。とても。
今、声をかけるのはとても酷だと思うわ。しばらく、見ていてあげなきゃ・・」

「そんな甘やかしが、そいつをそうさせたんやろ?ほなら、黙ってうちらのやり方を見とき。」
「え!?ちょっと!」

「なあ、兄ちゃん。」
ユーニは、しゃがみこんだ青年に声をかける。
「・・・なんですか?貴女は?」
「うち?うちらは、あんたが掴んだ情報を元に動いとるんや。せやさかい、キリキリ喋ってもらうで?」
「え!?ええ?」
「ああ、うちはユーニ。こっちは妹のユーリ。」「です~。」「だあっとれ!」「・・・。」
姉妹のやり取り?をみながら、怖気づいたのか、ぽつりぽつり。

「僕は、エスカバル、といいます。定期哨戒の最中に不審な集団を見つけて。少し後をつけようとしたのですが・・。」
「それが異教徒、やって?」
「結論はできません。が、周囲の魔物を意に介していないように見えました。」
「ほんで?」
「自分では、これ以上は追えないと思って、此処に向かいました。もちろん、パールでの報告も済ませましたし、帰還しろ。と命令も。」
「ふん。」
「それで、帰還の途中、あろうことかイェティに見つかってしまい・・・普段なら、軽く逃げ切れるのですが、帰還命令を最優先した結果、の失態。です。」
「ほうか。ほんで、騎鳥を?」
「そうです・・」沈痛な面持ちで。

「シエルボは、最高のパートナー、です・・・・でした・・・。」
「さよけ。」
「彼女は、僕を無理やり振り落とすと、イエティに立ち向かって。ひと鳴きしました。
「逃げて!と。」
「お涙頂戴、やな。」
「なんと言われてもしょうがありません。おそらく、彼女は・・・」
「なるほどな。で?」
「僕から出来る話はこのくらいです。ただ、牧場にはただならない雰囲気を感じました。」
「ほう。」
「そして、もし牧場の探索をされるのでしたら、おこがましいのですが・・彼女、シエルボの消息・・最悪、羽根の一枚でもいいんです。持ち帰っていただけませんか?」
「あー、悪いけどなあ、うちらは傭兵やねん。銭いただかんと、生計が立たへん。」
「・・・・。」
「まあ、通り道やしな。見かけたら、拾い物があるかもしれへん。」
「! 感謝します!!」
「もののついでや。気にすんなや。」「せやで?」


氷雪を歩いて。
この辺かいな。
白い地面、黒い岩。
その狭間に、蠢く巨体。

「アレかいな?」「せやとおもうで?」
「ほな、いっちょぶっ飛ばしたろうかい。」
「あい!」斧を振りかざして突撃する妹の後ろから、「この程度の寒さじゃもの足らへんやろ?」


巨体の近くを捜索すると。
チョコボの遺骸が。
「ようやったな、オマエ。」「うんうん。」
「ご主人トコに連れていってやっからな。」羽根を一枚。

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