1034トリニティ。 浮遊島。 続、その裏で。

びゅうびゅうと、風を切りながら黒翼の騎鳥は上昇と滑空を繰り返し
西方の地へと翼を向ける。

二羽のチョコボはその背に人を乗せ。

此処。ファルコンネストにたどり着く。
チョコボたちはそのまま厩舎に向かい、乗客の女性二人を降ろすとエサをもらいに中に・・
そして。
降り立った女性達・・・姉妹は。

「う~さむ!お姉ちゃん、どっか宿行こう!」
ブロンドを編み上げた(最近、伸ばし始めた)長身の女性。
鎖鎧の上にサーコート、毛皮のマフラーと防寒仕様ながら、流石に金属鎧は冷たかったらしい。
その体格に似合わず童顔の彼女は、両肩を抱き合わせながら震えている。

「せやな。」
こちらも見事なブロンドを腰まで伸ばしている、小柄(妹と比べれば)な女性。
こちらは、毛皮のコートにブーツや、手袋、耳あて付きの帽子と完全防寒。
ヤブ睨みの目付きは、ドコかの犯罪組織に居そうな雰囲気である。
なまじ、ハイランダーにしては小柄で、小顔だけに勿体ない感が溢れる。

宿の確保、とはいえ。
初めて来た場所ゆえに、どうとも勝手がわからない。

しばし、あたりを見回すが、結局チョコボ厩舎の主人に聞くことに。

「ああ。あんたら、冒険者かい。そうさね。あっちに宿があるにはあるが。なんせ辺境でね。一軒しかない。部屋が取れるかどうか、わからないよ。」
と言われ。

ならば、急げと。

結局、なんとか一人部屋を二人で使うことに。

「なあ、お姉ちゃん、うちら、あの貴族のボンボンの依頼なんやから、もうちっと待遇ようてもええんちゃうか?」
「せやなあ、ツラ合わせたら、文句の一つも言うたらんとな。」
「せやせや。ほんまに。・・・で、お姉ちゃん。あのボンボン、名前、なんやった?」
「ユーリ・・・お前なあ、クライアントはんの名前くらい、覚えとき。」
「う!お姉ちゃん、覚えてんのか?」
「当たり前やんけ。」
「ほな、言うてみ?」
「今から連絡するんや。その後やな。」
「なんや、覚えとらんやんけ。」
「アルトアレール・ド・フォルタン卿や。で?ユーリ?」
悪魔じみた笑顔を向ける。
「え?・・・・えええ!?」
「寝台はうちが使う、で文句あらへんな?」
「うん・・・・」
ぐたり、とうなだれる妹。
姉妹の間では、よくある光景・・・


そして。
「やあ。待たせてしまった。」黒っぽい髪のエレゼンの青年、アルトアレール。
腰を折る。
「いや、ええねんけどな。てっきりパールだけでのやり取りかと思うとったわ。」
「こちらには用事もあって、どうしても足を運ばねばならなかったのだ。」
「それはええ。ビジネスの話や。」
「ああ。そうだな。まず、会ってほしい人物がいる。こちらだ。」
そう言って、姉妹を露天のある方に連れて行く。
「レッドワルド。居るか?」
露天の横に駐屯所らしきものが。

「アルトアレール卿!はっ!ここに。」
ブラウンの髪と立派なヒゲの壮年のヒューラン。
「変わりないか?」の問いに。
「その・・そちらのおふた方は?」
「ああ、冒険者というらしい。」
「ほう・・。」

二人で話し合いが始まり。
それを脇で聞いていた姉妹。
「んで?お代はいかほどなんや?」姉妹の姉。ユーニ。
「せやなあ。お屋敷じゃ、此処にっていうただけやし。」ユーリが続く。

「おい。」レッドワルドが咎める。
「フォルタン伯が御嫡子、アルトアレール卿に失礼ではないか?」
姉妹を睨みつける。
「おいおい・・・」と、当の本人はなだめるが、かえって逆効果だったかもしれない。

姉、ユーニ。
ヤブ睨みの眼が剣呑さを増す。
「うちらは、傭兵や。まあ、冒険者と勘違いされてもしゃあないけどな。命の切った貼ったで日銭を稼いどるんや。お貴族サマみたいにはイカン。わかっか?」
「不敬であろう!」レッドワルドの怒声。
「わかっとらへんなあ!オッサン!うちらは。命を張ったからには、それ相応にもらわんと人生が釣り合わへんねン。あ?」

「ぐ・・」自分よりも若い女性に凄まれて、気後れする衛視。

「まあ、いい。レッドワルド。彼女達を紹介したのは私だ。融通を利かせてくれ。」
「はい、卿。」
「君たちにも・・少し、その、悪かった。君たちの覚悟はよくわかった。この、アルトアレール。謝罪と共に、改めて協力を願いたい。」
「さよけ。」
ユーニは、先ほどの剣幕を押しとどめて・・・
「ほんで?」

「この北西に、前線、というか、監視地点がある。そこで報告を聞いて、できれば引き継ぎを願いたい。」
若い貴族は申し訳無さそうに。
「なんや?」
「現地は竜との前線、と言っていい。下級とはいえ、その眷属が多数。そして、竜もいる。」
「めんどくせえな?はっきり言いなや?」
「わかった。  彼の地での探索、それと他家の動向の調査だ。」
「ほぉ。キナ臭さそうやな?」
「ああ。例の異教の輩も居ると聞く。」
「なるほど、それはうちらも因縁があるわ。」
「行ってくれるか?」
「コレ(指で輪っかを作り)次第、やなあ。」
「わかった。」
「任せとき。」「やで!」

姉妹は、ひらひらと手を振りながら、宿に。


「彼女たち、大丈夫ですか?」
「・・・あれだけ大口を叩いたんだ。やってもらわないと困る。」
「ですね。」
(万が一、野たれ死んでも我が家には負担がないからな。)

二人は、2,3挨拶を交わすとその場を別れる。

「アルトアレール様にも困ったものだ・・跡継ぎ問題なぞ、お気にしなければ・・黙っていても伯爵家を継がれるだろうになあ。」

実弟、そして、出来過ぎる異母兄弟。
本人にしてみれば、頭痛のタネかもしれないが、こっちはただの騎士で、出世できるとは思えない。
「有るものねだり、ってやつかね。やれやれ・・・」今夜は一杯飲むとしよう。
レッドワルトは、陽も落ちないうちに持ち場を部下に任せ、いつもの酒場に。

そこで。

「よぉ?オッサン。こんな時間から一杯か?どや、付き合うで?」「せや、せや。もうちょっと情報も聞きたかってん!」
「ユーリ、どうせ聞いても覚えてへんやろ?」「ぐ!お姉ちゃん・・それは、ナシや! な?オッサン、飲もう!」

「あ?ああ・・?」

ここらで酒場など一軒しかなく、もれなく二階が宿だと決まっているのである。



海岸線に夕陽が落ちる頃。

「いいわね。この景色。」

小作りなテラスに、卓が一つ。椅子が二つ。

年齢がわからない女性が、ぽつり。

その向かいには。

「そうだな。魔女殿。」

「提督」メルウィブ。

そして、グラスのラムを一息に煽って「改まって、何用かな?」
眼光鋭く、魔女を見つめる。

「件の、ウルダハの乱、というのかしら。事態の収拾をつけようと。」
「その件では、カヌ・エ殿とも話がついたではないか?」
「そうなんだけどね。足りないんだよ。」
「何が?」
「局長。」
「彼は・・・囚われたとも、処断されたとも・・」
「いや、処断、はされていない・・・内々に毒殺もない。」
「何故言い切れるのだ?」
「宣伝効果が、足りないから。」
「宣伝?」
「ええ。まず、ナナモ陛下の安否どころか、暗殺計画や、砂蠍衆、と。掘っていけば、ロロリト、かなあ?にたどり着くモンだから、連中も小出しにしたいのかね?」
「大問題じゃないか?」
「だから、ちまちまと情報を統制してんのよ。あそこ。」
「どうするつもりだ?」若干、怒気がこもっている。
「まあま。それは、じっくり・・・とは言わないわよ?ただ、タイミングがね。」
「お得意の、か。」
「暁の連中も、坊やと、何人か・・くらいしか、生存情報が掴めてないからね。ヘタに動くと、彼らが危ない。」
「なるほど。では。」
「そう。こっちで、下準備。」
「第一目標は?」
「んー。やっぱり、局長の奪還、ね。ピピン君もいるし。」
「ピピン?」
「知らなかった?局長の子供。」
「!?」
「あ、子供、っても養子。ララフェルのナイスガイ。」
「そうか・・(局長・・ララフェル贔屓なのはわかるが・・)」
「局長の(偏愛)ポイントはこの際、置いといて。彼との通信用のパールが此処に。」

ころころ・・・

「まったく。貴女にはかなわないわ。」グラスにラムを。
「こうでもやってないと、倒れちゃうわ。」ラムを一口。

「さ、騎士盤(チェス)でもやろう!」「ヤだよ。勝てる気がしない。」
「冷たいな、提督。」
「そのまま返すよ、魔女。」


今頃・・・
「提督も、困ってるだろうな・・」
百鬼夜行の棟梁の独り言。


そして私掠船免状を持つ、公認海賊が。
「カルヴァランのトコに出入りした女って、魔女?マジ?うわ、ムカつく・・・」
「まあまあ。その・・」
「ローズウェン一家をそっちのけで、百鬼夜行に?うきー!”」
「落ち着いてくだせえ、姉御。」
「だーってろ!酒もってこい!」「はあい!!!」

こっちも大変そう・・・・



そして・・・。

「リンさん。肥沃、とも言いがたいのですが、作物は育ちます。そして・・」
少し、言いよどむ騎士?マリエル。
「どうかしタの?」
黒い弓使い。
「いえ。この地は、その。異邦の方である貴女には馴染みが無いでしょうが・・。
5年前の第七霊災。これによって、クルザス地方は放牧の大地から、一転、氷雪の地になりました。この雲海とて、実は元々は陸続き、だったのです。」
「・・・」
「ですが、大地を割かれたゆえか、氷雪に見舞われることもなく、草木の生い茂る土地として。」
「デ?」
率直な意見を・・
「此処は、流し島。そのままなのです。」
「僕に。ソれを話していいノかい?」
「皆が知っています。この地が「ただの牧草地」だ、と。騎士たる我らを・・・いえ、下級騎士の居場所である、と。」
「おいおい?悪いけド、僕にフラレても困るよ?」
「申し訳ありません。これは私情・・であります。が。ラニエット様は、こんな場所でくすぶって居てはいけない方なのです。是非、一度。お会いになってください。」
「・・・いいけド。さっきの冒険者連中が行っタだロ?」
「彼らは・・上級貴族の使いです。どうせ、ロクでもない話を持ってきたに過ぎません!」
「おイ?それって・・いいのカ?」
「ラニエット様に、低俗な文を寄越す輩といえば・・」
「待て、待テ、その先は聞きたくなイ!」

ふう。

「では、後ほど用意をしますので、是非ラニエット様にお会いください。」
「あ。あァ。」

厄介事、増えた・・・
フネラーレは、そのままマリエルの自室に連れ込まれ、さらにアレコレと語られるのである。

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