1033トリニティ。 浮遊島。 その裏で。

そよ風に雲がたなびいていく。
爽やかなそれは、目の前の草原と相まってなんとも牧歌的で、心がなごむ。
北方の氷原の国の一角とはとても思えない。 ただ、雲の合間に巨大な岩塊が浮かんでいるのはなんとも奇妙な光景ではあるのけど。
そして高度があるため、見た目ほど暖かくもない。

かと言って。

「暑っちぃナ・・・」
さすがに毛皮のコートはやり過ぎと思えた。
黒髪のスタッバーは、飛空艇乗り場をウロウロしながら脱いだコートを預かってもらえるかどうか聞いてみたが、そういうサービスは無い、そして宿も無い。とのこと。

「使えネぇ・・・」
フネラーレは仕方なく、コートを小脇に抱えながら「冒険者」の一行の後を尾けていく。

幸いにも一行は、後方を気にするでもなく暢気に歩みを進め、駐屯所らしき場所を目指して行くようだ。
なんとなく気が抜けた感じがする追跡だが、依頼とあらば仕方ない。

しかも・・・あろうことか・・・
4人で一行と思っていたが、男性、女性、二人づつは連れ合いで、今、目の前で。
「ねー!!ソコのおねえさーん!?僕達と一緒しなーい?」
などと、大声でのたまうミコッテの青年。

振り返る女性陣と、男性陣が何やら会話をしているが・・残念ながら聞き取れない。
ただ・・。事前情報があまりにも少なすぎて、このアクシデントにどう対応したものか?
が、目標がバラバラよりは一纏めの方が助かる、と考えを改める。
パールで確認したくもなったが、なんとなくバカらしいのでしばらく様子を見ながら。

「・・・・・カルヴァラン・・・め!」
こめかみを押さえながら、旅人を装うと思ったけど。こんな場所にそういった人は居なくて。
仕方なく気配を殺しながら、物陰を探しながら。
ただ、その物陰もろくに無いのでアキラメという言葉も脳裏によぎる。
(最も僕に向かナい仕事じゃないカ・・・)
諜報要員として活動してはいるけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・主に「眼」を使っての、だから。

この、体当たり的なのは本当に向いてない。(ショコラにやらセろヨ。)
が、愚痴っていても仕方がない。
木陰(見たこともないヘンな木)にコートと・・・弓を置いていこうかと思ったが、かえってらしくない、と踏んで。コートは買い直しがきくが、この愛弓だけは流石に。
こっそり追いかける必要はない。
「眼」で確認をしたのだから、もう逃げられはしない。


「ふン。」
この駐屯地の責任者?らしき女性と話終えた連中は、そのまま徒歩で向こうにある大樹を利用した監視台だろうか?な場所に歩いて行く。
(この場合・・)
そのまま追いかけるか、女性に話しかけるか・・。
「う~ン。」ただ、ざっと見た感じ。
この場所から、監視台までは何の障害物もない。素直に追いかけると馬鹿丸出しである。
ならば、ここから「眼」だけで監視をする、というのも選択肢に入る。
そう思い、コートを隠す手間も省けてよかったなと思ったその時。

「お客人?」
不意に声が。
「はイ!?」
見れば、下の方から声をかけてくる女性の姿。
さっきの「連中」が話していた相手。
まさかの不意打ちを食らうとは・・・
「そんなところで、何をされている?もし、よければ案内をさせて頂くが。」
「あ。いエ。大丈夫だヨ。」
「その出で立ち、冒険者であられるか?」
「・・・。・・・そうダ。」
「失礼した。私は薔薇騎兵団のマリエル。ようこそ、キャンプ・クラウドトップへ。」
おそらくは同年代の女性は、腕を振るって「騎士の礼」をしたよう。
「ア。あァ。僕は・・・」言いよどむ。
此処でフネラーレ(葬儀屋)と名乗ってもいいものだろうか?
スタッブ(暗殺)に、監視が専門であって、こういう「体当たり」なやり取りは本当にニガテなのである・・・

とっさに。
「リン。うん、リンだヨ。よろシく。」おもわず、本名の「リッラ」を名乗りそうになり、詰まった結果がこれだ。
「そうか。リン殿。それは奇遇だな。」騎士?
「ヘ?」間抜けな返事。
「いや、先ほどの冒険者方のなかにも、リン、と呼ばれていた黒髪の女性が居たのでね。」
「・・・・。」(しまった・・・・)
「偶然とはいえ、縁を感じるな。 あ、それはそうと、貴女はお一人か?」
「あァ。だヨ。」
「そうか。では、よければお願いをしてもよいか?」
「・・・なンの?」
「大したことではない。昼の休憩までの時間つぶし・・いや、任務でな。育てている菜園のための肥料集めと、個人的な用件、だ。」
「ふうン。どっちガ重要かは、なンとなくわかった、ヨ。」
「助かる。」


(カルヴァラン・・・帰りたい・・・)




「おお!」
「スゴイね!」
「ユーリ、これはまた。厚着が正解やったな!」
「だね!お姉ちゃん!」

二人は、今。
黒いチョコボの上。
そして、その足元には氷原が続く。
ただ、足元とはいっても・・・空の上からの眺めだけれど。

二人は貴族、フォルシュタン伯の子息 その兄の方「名前?おぼえとらんわ。」「え?なんだっけ?」からの依頼で、クルザス西方に派遣の任務を請け負っていて。
そこに行くためには、チョコボでないとムリだとかなんとか。
姉妹は「こんな山、しかもアホみたいな雪と氷やろ?チョコボでどうにかなるんかいな?」「せやせや!」に。
「お嬢さん達。チョコボに乗ったことは無いのか?」と真面目に聞いてくる。
「あ? ナメんじゃねえぞ?お坊ちゃま。うちらは、それなりに名を売ってる傭兵やで?」
「それは失礼。では。風脈、もご存知あるか?」
「なんやそれ?」「お姉ちゃん、知らんの?」「お前、知っとんのか?」「知らへん。」「寝とけ。」

コホン。咳払いの後。
「風の流れを知る、エーテルの流れ、とでもいうのだろうか。この地は、高低差があり人の力では到底行き着くことも出来ない場所が多々あり、
それを先人たちは「風脈」というもので各地に「要(かなめ)」を置いた。さらに、自分達で操れる簡易風脈を持つ事によって、自在に騎獣を翔ばせることが可能になる。
それは、竜族に対しての奪われっぱなしのアドバンテージを補填するのに必須とい言うわけだ。」

「さよけ。」「おもろそうやん。」
「では、行って頂けるだろうか?」
「あいよ。」「うん。」
「では、厩舎に連絡を入れておく。そのまま向かってくれ。」
軽く手を振って、返事の代わりに。

その足で厚手の毛皮を買い付け、今に至る。


足元には氷雪吹きすさぶ地。
「ええやんけ。うち向きや。」
ユーニは、喜色満面で厩舎に降り立つ。
「お姉ちゃん、それやと、的も氷に耐性あるんとちゃう?」
「・・・・・。」
「お姉ちゃん?」
「やかましいわ!うちの方が強かったら、問題あらへん!」

少しばかり、口喧嘩、というか・・


小柄な姉に、ぺこぽこ、とシバかれ続ける妹。
いつもの風景ではある。




潮騒の中。
女性は、ショットグラスのラムを眺めながら。
「カルヴァラン?」
応えて。
「魔女殿の言いたい事は、大体。」
こっちはロックグラスに。

この先は・・政治的な部分と、個人的な部分が入り混じっている。
エレゼンの青年、そして「百鬼夜行」の棟梁は、ぐい。とロックグラスの琥珀色の液体を流し込む。
「なら、いいんだけど。」
「彼女・・・リッラを、遠回しに派遣したことを責めています?」
「いや、ぜんぜん。むしろ、よくも踏ん切りがついたな、かな?」
グレイの髪をまとめた彼女は、「天魔の魔女」の字(あざな)の通り、妖艶とも、天真爛漫とも見える笑みで答える。

「そうですね。個人的には・・・故郷、と言っていいんですかね?に、彼女を派遣というのは、正直なところ・・・複雑、ですね。」
「あら、そう?」
「それよりも、貴女はイシュガルドには赴かないので?」
「あたしは、あたしでやることが山積みでね。」
「ほう?」
「提督とお話に来たついでに貴方とおしゃべり、というと失礼だけど。」
「いや。とんでもない。天魔の魔女殿。」
「もうちょっと、酒席に付き合っていただきたい。かな?」
「はい。喜んで。」

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