1031トリニティ。 浮遊島。 その2

風は・・・・

冷たくはない。
涼しい、か。

飛空艇に乗っている時にそう感じた。

アバラシア雲海と言われる場所に立ち。
少しの郷愁をおぼえるも・・

綿の胴着の上に甲冑。
完全武装とも言える女性は、後ろの3人をどうしたものかと・・・

まずは一人。
いきなり飛ばされた異世界での、初めての知人、いや、友人。
ケンカっぱやいのに、ちゃんとした理屈で動いている。
「拳聖」
の名は伊達ではないよう。(あー、わたしも・・)とか思いたくなる彼女は、結構年下だと知り、凹んでいる。

次。
ミコッテの青年。
なんというか。つかみどころがない・・・
いきなり声をかけられて。
成り行きまかせもいいトコで、一緒に居る。
ただ、悪気は無いのだろうが、妙に馴れ馴れしい。
自分としては、少し困る。

で。だ。
最後の一人。

漆黒の青年。眼だけが金色をしていて、少し怖い。
アウラ、という種族らしいが・・・
竜の血でも引いているのだろうか?
硬質な皮膚(ウロコ?)に、角。そして、尻尾。
肌の色も漆黒で(故郷では滅多にみない)、装備までもが漆黒。
加えて、装備が銃。

先日の酒場での事件は、この男性が「やらかした」らしい・・・
が、元はといえば、ミコッテの青年が、とも。

なんとも、行き先が不透明な「おつかい」になってしまった。

アイリーンは、愛剣の柄をとんとん、と叩き、どうでもいい?部分は忘れるよう努力を。



「んでな?」
エレディタは、先を行く相棒を見やりながら・・・

あの子は、人との接点が上手くつかめへん、やなあ。などと、隣の騒音に怒鳴りつけたくなる。

ひょんなことから組んだptではあるけれど。
どうにも、この二人は胡散臭い。

だが、腕前は間違いなさそうだし、利用出来る部分はあるだろう。

そして、問いかけに。

「どうかしたか?」
漆黒の青年。
「いや・・・そっちの、お坊ちゃま。大丈夫なんか?」
「ああ・・・見た限りでは、どうしようもないが、意外と使える。」
「ああ、そうなん?(じゃあ、アンタは?)」
「俺は見ての通り、さ。」 銃を構え、  ばん。

彼方で落ちていく・・・

その影を見ながら、「容赦が無い、ってのはわかったわ。うちらも似たようなモンやけどな。」
「そうだろうね。拳聖。」
「!?」
「そして、異邦人、か。面白い組み合わせだ。な?」
「なんのこと?」
とぼけてみたが、やはりムリだろう・・・かの「黒猫」ならば。

「先程、共闘と言っただろう?君達に不利になるようなことはしない、と約束しよう。が、逆に、不意打ちみたいな真似はしてほしくない。お互いに。で、いいな?」

「・・・ええやろ。黒猫。」
「それは正しくない呼び名、だよ。レディ。」
「違うんかい?」
「俺は、アリア、だ。」
「クォ・シュバルツ、じゃないとでも?」
「・・・・・・・この話は、もう少し後だ。」



「う~ん。あったかいなあ。」
エレン・ローウェルは、陽だまりを見つけて、寝転がる寸前で漆黒の銃士に蹶りをもらっていた。



飛空艇の到着場所、ランディングから少し。
高低差のある場所で、少し足元が落ち着かないが、アイリーンは、ともかく「司令」に会いに行こうと。

「ここ、すごく足元きついですね・・」
重甲冑に、荷物を背負って、となると大変なのは知ってはいるが・・
この、網だの、階段だのを行ったり来たりは・・・流石に辛い。

「リンちゃん、転げ落ちんといてや?巻き込まれたら、大惨事やで?」と笑いながら、エレディタ。
もちろん、転げ落ちる、なんて大失態はしない自信はあるけれど・・。

ちょっとした櫓をのぼると、女性があれこれ指示を出している。
(この人?)と声をかけてみる。

「あの・・、ここの責任者、の方・・・ですよね・・?」
頑張った・・・あたし。

帰って来た言葉は。
「誰?  あー、冒険者さん?ちょっと今忙しいの。それと、挨拶するときは、自分から名乗りなさい。私は騎士叙勲はまだだけど、そのくらいのマナーは知っていてよ?」

「あ、すみません。アイリーン、といいます。」お辞儀を。

「あ、そう。じゃ。」
そっけなく突き放す女性に、ちょっとだけ。
「名乗ったんです。せめて、お名前だけでも聞かせていただけませんか?」
噛みつく。

「・・・マリエル、よ。」

冷たい返答と、遠眼鏡。
コレで終わり、とばかりの対応。

「ちょい、待ちいな。ねーちゃん。」
自分とさほど変わらないほどの年齢の女性に、拳聖がさらに噛みつく。
「うちらは、フォルタン伯爵のトコから来たんや。そないに無下にしたらまずいんちゃうか?」
「・・・」少しの沈黙。
「エマネラン卿、でしょうか?」
マリエルの言葉は冷えきっている。

「え?そうなの?」と、いきなり割り込んでくるミコッテの青年。
その脇で「くだらん。」と漆黒の青年。

「いやまあ、そうなんだけど。一応、依頼ということで・・・いいですか?」
アイリーンはなんとも気まずそうに。

「で?」
冷たい声。

「視察、という話なんやけどなあ。もうちょっと愛想ようできひんか?」
「騎士団に必要ありません。」そっけない答え。

「まあ、ええけど・・。そういえば、ここってなんて名前やっけ?」
「! そんなことも知らないで来たのですか?・・・・呆れて物も言えないわ・・。」
「あ、すみません。」
「あ、そうだね。たしかクラウド・トップだっけ?」
「・・・くだらん。」

「礼儀をわきまえている御仁が居てなによりだ。」ふぅ。「視察というなら、ギルドンを尋ねるといい。雲海の視察は彼が一番便利・・いや、頼りにしているし。」
「は~い、行ってきます!」駆け出していくミコッテの青年。

「あ・・・、彼が何処にいるか、わかっていないわよね?」
マリエルはこめかみを押さえる。
「あの、冒険者って皆こうなの?」

「いや、アレはよう知らんけど、まあ、そういうヤツなんやろうなあ。」
「大丈夫なんでしょうか?」
「とりあえず、そのギルドンとやらの場所を教えてくれないか?」
建設的な意見に皆が頷く。一人を除いて。

「あいつ、放っておいてええんか?」「彼、大丈夫かしら?」「ああ・・・気にしないほうがいい。」


3人は揃って物見櫓に。

そこには、望遠鏡を片手に雲海を見張っている?男性。

「あー、ちょっとええか?」
エレディタの声に。
「なんであ~る?」
「いえ、その・・」「リンちゃん、さくっといこうや。」「・・・だな。」
「なんであ~る?」
「視察、ということで来たのですけど。」
「おお、そうであ~るか。その前に、お腹がすいたのであ~る。自分はここから離れられないゆえ、お弁当を持ってきてほしいのであ~る。」

(なあ?殺していいか?)(ヤメなさい。)(テメエをこの雲海に突き落とすって手もあるけどな?)
「仕方ない、取りに行ってくるわ。ついでに、暴走の彼も。」
「ああ、頼む。」「コイツは見張っておくから。」


アイリーンは、農園?にほど近い場所まで。
そこで・・・。

「なに・・・?コレ・・・」
浮遊島に浮かぶ、見たこともない巨大な船。

お使いも忘れて、見入ってしまう。

「おや、お嬢さん。どうかしたかい?」

振り返ると、銀髪に、ヒゲにゴーグルという人物。
「え?いえ。その・・大きな船ですね。」
「ああ。プロテクトゥール号、だ。ああ。自己紹介がまだだったな。俺はシド、だ。」
「(シド!?) ああ、はい、こちらこそ。わたしはアイリーン、といいます。」
(シド・・・こちらにもいるのね・・)
「このじゃじゃ馬の担当を任されてね。」
「そうでしたか。」
少し、表情に出たのかも。

「ん?」
「いえ、知人に同じ名前の人が・・」
「ああ?そうか。それほど珍しい名前じゃない、と思うよ。この船に興味が?」
「あ、いえ。用事の途中だったもので。   失礼します。」
「ああ。ごきげんよう。」


驚きの連続、とはこの事か。
なにはともあれ、「お弁当」と、ミコッテの彼を探さなくては。

しばし、うろついた後、彼(と、お弁当)を発見する(お弁当を食べていた。)


「なあ。あんた。」
エレディタは、声を潜めながら。
「なんだ?」
応える黒い青年。
「うちの予想が正しかったら、やけど。」
「だから?」
「黒猫。」
「ほう?」
「じゃないやろ?」
「どうしてかな?」
「コロセウムで見た、黒猫とは、「気」が違う。」
「これはまた、懐かしい話じゃないか?」
「アリア、って言う名前は偽名なのは承知やけどな。」
「それで?」
「どういう了見でこっちに?」
「それは、お互い様、だろう?」
「意味がわからん。うちらは、旅の途上や。なんでとしか言いようがあらへん。」
「なるほど。君たちはそこに意味を見出そうと、というんだね?」
「ほんで?」
「俺は、いや、私は、主のために潜入捜査、とでもいうのかな?この地域での需要を探っている。」

・・・・・・・・・・


「あんた、誰や?」
「答える必要は無いが、その洞察力に敬意を評して、改めて名乗らせていただこう。」

一瞬の緊張。

「私は、アドルフォ。クォ様の忠実な執事であり、替え玉としてこの場にいる。」
「銃で殺害、とか、お前っ!」
「必要、と判断したまで。」
「信用ならへんな、このptは解散させてもらうで?」
「いや、私の素性を知らしめた以上、そうそう簡単には離れてもらっては困ります。」
パチン。
指の音と同時に、小さな機械?が放り投げられる。
「な!?」
「コレは、オートタレット、と言います。」
「・・・」
「貴女は、ターゲットとして認識されました。逃れる術は、私を殺す以外にありません。」
「く・・・!」
「さて、交渉再開いたしましょう。私の素性は、この地ではさほど価値のある情報ではありません。脅しに使うには、いささか物足りないのです。」
「ほんで?」
「翻って、貴女はフォルタン伯の依頼だそうで?」
「何が言いたいんや?」
「もちろん、イシュガルド貴族のコネですよ。」
「交渉、というからには、対等な条件があるやろ?」
「そうですね。私は全力で貴女達を支援する。まあ、例の彼は手綱が取れないのでなんともいえませんが。」
「・・・信用は出来ひん。」
「そうですか。では、お連れの女性が銃撃された、としても「不幸な事故」でかまいませんね?」
「テメエ!!!!」
「信用して頂くしかありませんし、我が主も穏便に済ませたいのです。」
「この野郎・・・」
「では、交渉はこれにて終了でよろしいですね?」
「くそったれ!」



「なあ、ギルドンのおっさん?」
監視役のオジサンに。
「ああ?」
「ここで釣りしてて思うんだけどさ?」
ララフェルの青年?
「雲海って、魚釣れるって、やっぱ連中は泳いでるんだなあ。」
「今更じゃないか?」
「そうだなあ。でっかい白いのもたまに見かけるからさ。」
「あれは、・・蛮神だ。」
「そうなのかよ?コレは参った。俺、見ちまったよ。」
「それは災難だ。」


二人の冒険者の会話には気が付かずに、二人は話し込んでいる。

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ