1025トリニティ。 あるいは開幕。の、弐のまえ。(相棒

やわらかい日差し。

というものでもないかもしれない。
薄いカーテンから差し込む朝日は、開けてしまえば鋭く刺さるのかもしれない。
でも、だから、どう?

ばっ!と、開け放つ。

白い景色。
氷のエーテル?のせいで年中雪景色のクルザス地方。
ただでさえ寒いのに、石造りだなんて。
どうかしてるよなあ。

自分で考えをまとめるのも面倒だ。

ほんまに、お人好し、ってのはうちのコトかねえ?

フカフカした寝台から抜け出し、朝日を堪能しながら隣の寝台を眺めつつ。

とりあえずは・・・全身の筋肉をほぐしていくか。
まずはこれから。
だよなー。
ひとりごちながら、まずは腕から・・・

日課の体操を終えて、暖炉に目を向ける。
すでに火は消えかけているが、もう出立だろうし、気にしない。
問題は、だ。

隣の寝台で寝ている「姫」だ。

いくつか年上で、どうにも人付き合いは得意ではないらしい。
まあ、うちは・・特別なんかね?
パートナーとして組んでいる、というか。なりゆきで。

普段は長い黒髪を後ろで束ねているが、今は解いて枕のまわりに、それこそお伽話に出てくる「眠り姫」のように。

そろそろ、起こさんとあかんな。

まあ、その前に。
自分が肌着だけ、というのは説得力に欠ける。
この音で目が覚めてくれたらええねんけどな。と、おもいつつ。

ないやろなあ・・

昨晩は、この館の主 フォルタン伯からの歓待で食事を振る舞われた。
銀髪のおぼっちゃまは、さすがにお酒は飲んでいなかったが、相棒のアイリーンはオルシュファンと意気投合してかなり飲んでいたハズ。
うちも、子息という二人の子息と話を合わせつつ・・・(こいつら、仲悪そうやな・・

ブーツまで履いたところで、寝台を見る。

まだ寝てんのか・・・大丈夫かいな?暗黒騎士。

うちとしては・・その実力を、真価を見たわけでもないから、なんとも言えんけど。
先の宿からの脱出劇で、あの大剣を軽々と振り回し、お世辞にもペラペラじゃないドアを軽く貫通させた技量には、一瞬呆然したけど。

ほんまに、ようわからんわ。

では・・。

ほっぺたを、ぷに。と、つつく。

反応がない。
もうちっと危機意識持てや。

元ギャングの自分からすれば、到底信じられない。
通称「チルドレン」
海上貿易都市国家「リムサ・ロミンサ」の暗部。
海賊と、その撲滅を目指す「イエロー」そして、公認海賊。
その隙間に、アラミゴや、その他難民の子供たちが、食いっぱぐれて、寄り集まった場所。
そうでもしないと、人買いに拐われてその後はどうなるかわからない。
なので、自衛を目的として、半ば自然にできていって
気がつけば、いくつかのグループに分かれて。

そのうちの一つに身を委ね、気づけばリーダーになっていた。
いや、なった。

頭を振る。
苦い記憶を外に追い出さないと・・

今は。

かつての相棒「剣聖」から逃げ出して・・・
いや、逃げたんじゃない・・・。

真っ直ぐすぎる「剣聖」が眩しくて、自分がまた「影」になってる、・・。。なんて・・。

いや、そうやない。
うちは、うちや。
だから、や。

太陽は二つはいらない。月ですら、二つは要らなかったのだ。

でも。

うちは「うち」や。

「困ってるヤツ」がおる。それをなんとかせんとあかん。そう、誓った。そのための「拳聖」やろ?

気持ちを落ち着けて。
もういちど。

ぺち。

黒髪の「姫」の頬を軽く。
「りんちゃん?」

「・・ん・・」
と、「姫」らしい声。

なんか、いらつくわあ・・

もう少しキツメに。
ベチっ。

これで起きなければ、ゲンコでも叩き込んだろうか。


「ん!!」
さすがに目が醒めたか・・・まあ、いきなりの展開、さらにこの寝台とくれば、いつまでも寝たい気持ちもわからんでもないけどな・・・

「エリ?」
まだ少し焦点の合ってない視線で見つめてくる。

しょうがあらへんな、我が「相棒」

右手で顔を覆い、とりあえず。

「やっと、目が覚めましたか、我が姫。」
精一杯の皮肉を。
ため息と共に。

「あにょ!」
と、意味不明な声が「おはよう」と解釈するには難解すぎるので、さらりと流す。

そしてシーツから抜けだした身体は、一糸まとわず、となれば。
(あにょ!)
なんや?それ。

昨晩、飲み過ぎて倒れこむ寸前の彼女を介抱してる時に勝手に脱ぎ散らかして、そのまま「ぬくぬく~」と、好き放題してくれやがったのを・・
いや、今言うとおもろくない。
このネタはもう少し温存しておくのがええ。
クスっ。

表情には、さすがに抑えがきかずに、はしゃあないわな。
「りんちゃん?」

「あにょ?」

だから、なんや?それは!

「リン!」
「ひゃいっ!」

やっと目が覚めたか。本当に大丈夫なんかいな・・
まずは。

「ええけどな。けど、仕事や。用意せえ。」
完全装備状態で、裸の相棒を見る。


「あ!はい!」
慌てて装備を整え始める相棒を見ながら。

もう、どっちが年上なんやか・・・

「うん、ありがとう。」って・・え?
テキパキと装備を整えていく姿は、ゴーレムみたい・・・
機械的に完成されていく「暗黒騎士」

その突然の謝辞に、こちらを見ながら。
装備するにはムズカシイやろう、脚のプレートも。

そしてその視線は、一本の大剣に向けられていく。
もしかして・・・
その剣に呪われてる?

恐る恐る、相棒の肩に手を。



突然の事に驚いたのか、顔がこちらを向く。
その反射的な、というか・・・
よく死体兵は「ぐりん」とコッチを向くというし、実際に見た、ようなこともなく、自然に振り向いた彼女に安心して。

「大丈夫か?」
魔剣に魅入られている、というのは杞憂やったようで・・・

「うん。」と返事。

「ほな、行こか。待たせすぎやで。」
実際、時間指定があったわけでもないのだが、先ほどの着替えの最中にドアの下に書付が差し込まれて。内容は「至急、応接間に。」とだけ。
サインもないので、誰の差金かは分からないが、ともかく自分達を利用したいらしい。
考えてみれば、いくら身内の紹介とはいえ、お尋ね者を匿っている。
それも、紹介状?まで用意してくれる厚遇とあれば、このテのは、あって当然やろう。
さて、ヘビが出るやら竜が出るやら。
イシュガルドだけあって、竜くらいは当たり前か。

開き直ったところで「エリ!おまたせ!」と、声。
冥闇の甲冑に大剣を背負った彼女は、朝日を背にしているはずだけど、その朝日は夕日に観えた。

「ああ。」

部屋を出て、すぐに給仕の女性が居て、「こちらです。」と案内されながら・・・
ふとした・・不安を。

「リンちゃん?」
さっきの背負ったような「闇」みたいなものはなんだったんだろう?
気のせいか、微笑すら浮かべていたような・・・
「大丈夫。」
そういって、微笑みを。

その笑みを消して。
「進んでる、んだね。」

「へ?」問いなのか、確認なのか、自問自答なのか、返答にこまるなあ。
でも。
そうやないと、話にならん。
もう一回、笑え!
うちも笑うから。
「ああ、そうやで。せやないとあかん!行こう!」
「うん!」
満面の笑顔を交換する。


そして応接室に案内された後、給仕娘は下がっていく。

ほんで。

目の前に居たのは、チャラチャラした宝飾品をこれみよがしにつけた、バカ息子(認定)
厳格そうな伯爵や、生真面目すぎて配下が苦労しそうな兄ではなく。

弟。
たしか、エマネラン、といったか。
爵位のある家系にしては・・いや、あるからか。
こういう連中はイヤというほど見てきた。
ただ、いい金づるだ。

あ。
やっばー。
つい「チルドレン」時代の思考になりかけてた・・・
あかんあかん・・・
もう、まったくなにやってんねん・・・うちは・・。

そこに。
「よ!オレ。オレ様。覚えてるかな?」
軽い声。
まったく、こういうヤツらは・・

隣を見ると、バカ丁寧に挨拶をしている相棒。
そこに割り込んで。

「おう!おもろい兄ちゃんやな!おぼえとんで?なんや?おとんはおらへんのか?」
わざとらしく。

あんまり、といえばあんまりすぎる光景に、開いたクチが塞がらない、といった表情の相棒。
これはこれで可愛いのだが、まずは相手の思惑を知ることが大事だ。
こんな対応をされる、なんて恐らく思ってなかっただろう。
貴族の子息としては、無礼討ちも辞さない、ということもあり得る。
ちょっとした賭け、だけれど・・・本意がドコなのかは、知っておかないと銀髪総裁の身の安全にも関わる。
あの、甘ったれの坊っちゃんは、どうしても憎めない。
それに、甘いが故に、うちらみたいなのを拾ってくれたし、裏切られた。
なら、うちらはせめてもの恩義を。
海賊の流儀、ってのかなあ?あの「葬儀屋」なら言いそうやけど。


同じく、クチをポカン、としていたエマネラン。
「・・・・・・・・いや、使いを頼む。」
やっとこさ声が出てきて。
「ほう?」
「アバラシア雲海、という。ここ、聖都イシュガルドから東に向かう。そこのキャンプ地から離れた場所、ローズハウスに・・ラニエット、という隊長がいる。彼女に書簡を届けて欲しい。」
「え?」
「い、いや、書簡を、だな。」
「自分で行けや。」
「オレ様は、こう見えて忙しいのだ。それに、調査隊の要望が来ている。そのついで・・いや、まあ、そういうコトだ。」
「へえ。」

なんや、ラブレターかいな・・・こういうのを人頼みって、まず「あかんわ」。
隣をみると、まだ呆然としているのか、無表情のアイリーン。
やれやれ。

仕方なく。

「あ、りんちゃん?・・・りんちゃん?」
少し肘でつつきつつ。

「あ・はい?」
なんとも頼りない返事。これは、聞いてなかったな・・

「この兄ちゃんが、なんたらいう場所に・・」「アバラシア雲海だ!・・」
無視しながら、「やってさ。」
そこで。
「ぷふ。」
「あ!りんちゃん?そこ笑うとこあったん?」
つい聞いてしまう。なにがおもろいんや?

「そこの女!笑うな!」
自称「オレ様」なお坊っチャマが喚くが、それはそれで確かに笑える。
なので。「うちも女やけど?どっちやねん?」と、からかってみる。

「ああ!これだから、ヒューランというやつは!・・・!!!」
と聞こえたが、相棒のクスクス笑い(耐えているのだろう)が、ツボにハマって、こっちまで笑いが伝染してきた。

腹筋の鍛錬、ということでなんとかこらえながら・・・(オルシュファンにこの鍛錬法を言えば、笑ってくれるやろか?)
「はいはい。そこに調査に行けばええにんやろ?」 噛んだ。
だめや、あかん。これは相当キツい。

「・・・ものわかり・・・」なんだか、言っているが、まあ万事OKや。

そして、いまさらながらに封書、それも蜜蝋に印までつけて。
うちやなく、相棒に突きつけて、「ついででいい。現地にラニエットという騎士がいる。ソイツに渡しとけ。」ぶっきらぼうな指令に「はぁ?」と気のない返事の相棒。
ウケる。

「はい!わかりました!」と返事の後で笑いを抑えてるうちの頭を下げさせ・・・


「エリ?」
応接室を出てすぐに。
「あん?」
「もうちょっと、その・・」
少しばかりお姉さんな彼女が説教っぽく。
「えー?なんでラブレターの配達を、うちらの「公務」に入れてくるヤツに敬意がいるのん?」
本音だ。
「・・・え?」やっぱり、気づいてへんかったか。
「会うた事、あらへんけどな。女の名前やろ?ラニエットって。で、親父さん、兄貴も居ないときにこっそり「もってけ」なんて、それ以外何があんねん?」
少し意地悪く。

やっぱり、というか・・絶句する相棒は、可愛いな。こう、年上とは思えない。

硬直し続けるのを見ているのもナンやし。

とん。
指で額を突く。

「まあ、何はともあれ。や。行こう。」
見知らぬ世界とやらも、面白そうやし。

「うん。まずはアバラシィア?」
「惜しい。ま、言葉に慣れるのもええな。」
「それ、エリが言う?」
「うちは、誇りをもってるんやで?」
「それは失礼。」ぷふ。
笑いやがった。釣られて笑いそうになりながら。
「わろたな!」頬を膨らませてごまかす。
やっぱり、耐えれんわ。
「せや。笑うんが一番やで!」
大声で笑いながら、館の中を歩く。
気持ちええわ!
隣では、涙すら浮かべて笑う相棒。

ほんなら、いっちょやりますか、ってな!
エレディタは、「拳聖」としての名を馳せるために、もう一歩。

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