1024トリニティ。 あるいは開幕。の、弐のまえ。

・・んちゃん・・・

うん・・・

・ちゃん!・・・

うん。

わかってる・・・・


わたしは・・。この世界は。
色々違ってるんだね。

柔らかい世界。
固い世界。

どっちなんだりょうね~・・。?あれ?

わたしの意識は。

そこで一旦、停止。

ああ。うん。あたしには「アスカロン」がある。
うん・・・・

いいよ。硬くても、やわらかくても。

・・。

不意に。

意識に介入してくる感触・・・


ぺしっ!


ん!?
「ん・・・?」
あれ?
そうか寝ぼけてたんだ。わたし。

「あ!おはよう!あ!?もうそんな時間!?」
驚愕と共に起き上がろうとするけれど、フカフカな寝台なんて。
初めてじゃないのお?と、手を付く場所にすら困って・・・

手を取られて、さらに転びそうになるわたし。

視線の先には、不敵な笑みの相棒、エレディタ。

黒髪を短く、乱雑に切った彼女は、少し年下のはずなのだけど・・。
どこか、懐かしい・・・義姉妹の彼女を思い出させる。

「エリ?」
おもわず、違う名前で呼びそうになったのは内緒だ・・。

あからさまに、片手で顔を覆い はぁ と聞こえそうな表情。

「やっと、目が覚めましたか、我が姫。」

少し背を起こしただけ・・・で、毛布が腰まで落ちてくる。
そして自分が下着すら無く。

うわ?え?どういうコト!
パニックになりつつ、視線の先には・・。

ああ!もう!こういう時まで、あの「子」みたい!!

かしこまった姿勢で、ニヤリ、と見つめている。
(ああ、はいはい!え?いや、ここは!?ちょっと?まって?え?)
「あにょ?」
自分でも不思議な一言。

思考が色々と吹き飛んでいる。
わたし・・・。
どうしたんだっけ?
きおくと、それいがいのいろんなコトをつなげていく。

そう。だ。

この、パートナーと共に、貴族の邸宅に・・。
それで、こんな寝台か。
それで。

呼ばれている、ということは「仕事」だろう。
まさか、だけれど。

「嫁」

は。ないだろーね。
うん。
わたしに、その・・魅力がない、とは・・・
そういう問題じゃなく、ドコから来たかも知れない相手に、貴族サマがあるわけがない。

いや、こんな寝室を用意するって・・?
む?

「りんちゃん?」
パートナーの黒髪の女性。

「あにょ?」ともう一回。

眠気と、妄想?の混じった頭を振りながら、わたしは・・。
近くに立てかけてあった、愛剣。「アスカロン」を見つめていて・・・

「リン!」
「ひゃい!」

この・・・年下の相棒は容赦がない。
まったく、「まyりちゃん」みたい。
あれ?

どうしたんだろう?何か、大事な欠片が・・・


もう・・と溜息混じりの相棒。
「ええけどな。けど、仕事や。用意せえ。」
ぶっきらぼうな声に。

「あ!はい!」
慌てて、寝台から飛び出す。
そして。
「うん、ありがとう。」

さすがは「拳聖」か。すごいな。わたしには、・・

青く。
黒い。 
大剣。

「アスカロン」

由来は、「死の川の守り人」

ここではない、どこなのかわからない神話に出てくる「死神」

子供の頃だったろうか?お伽話に出てきた、その「死神」はとても恐ろしく、夜伽話ではなく、本当の「死神」だった。
何か悪さをすれば、いつも母から「ばつ」みたいに、「そんなわるいこと、してるとカロンがやってくるよ?」と言われて。
怯えながら、寝たふりをして、泣いていた。

だったら。
自分が、その「カロン」になってやる。そうすれば、もう怖くない。

我ながら、幼稚な出発点だった。
けど。

目の前の大剣「アスカロン」を観ると、感慨にふけってしまう・・。
だめだな・・またエリに叱られちゃう。

昏いプレートアーマーを身につけつつ、まずは。

重いのは、想いなのか、装備なのか?
どっちなんだろ?わたし・・・・。よくわからないよ。「まyりちゃん」・・・

意識は何処かに行きそうなのに、手は機械みたいに甲冑を身に付けていく。

ぽん。

「!」
「大丈夫か?」
肩に手を置かれ・・。

「うん。」
「ほな、行こか。待たせすぎやで。」
うん。

彼女の怒ったような言い方、そして。
笑顔。

「はい!」

そう、今はこのエレディタと一緒に。
進む。
わたしは。

仮に選択肢があったとしても、振り払うだろう。

だって。
「あたしはね!」と、一本気だった、相棒みたいになりたかった・・。
いや、なってみたいかな?
うーん?
なったら、絶対
いや、ここは、ソコではない。

とりあえずは、進まなければ「彼女」に遭う事はできないだろう。進むだけだ。

「リンちゃん?」
「大丈夫。」

凍てつく領土にある、貴族の館の中を進みながら。
わたしは。
そう。わたし達は。

「進んでる、んだね。」

「へ?」きょとん、とする相棒は、表情を笑みに変えて。
「ああ、そうやで。せやないとあかん!行こう!」


そして・・。
なんてこった・・・。

前日、フォルタン家、当主と挨拶を交わした部屋には。

「よ!オレ。オレ様。覚えてるかな?」
エレゼンの貴族、エマネラン。あえて、そこに家名を付けないと到底・・。貴族よりは、そこらの酒場で女性を口説いているバカにしか見えない。
が、残念ながら、彼は貴族の一員で、恩人であるフォルタン伯、それも「八家」に名を連ねる上位ときたもんだ。

こんな時、あの子なら・・

なんて、思っていたら。

「おう!おもろい兄ちゃんやな!おぼえとんで。なんや?おとんはおらへんのか?」

・・・・・・
えーと?
「空白」という言葉は、頭の中ではこういう風になるんだなあ・・・・







「あ、りんちゃん?・・・りんちゃん?」

「あ・はい?」
正直、今の呼びかけがなければ、自分は失神していたのではなかろうか?

「この兄ちゃんな、なんたらっていう場所に・・」
後ろで、「アヴァラシア雲海だ!!まったく!」と聞こえてきた。

ぷふ。
つい、笑いがこらえなくて。
しまったなあ・・。

「あ!りんちゃん?そこは、笑うとこあったん?」
「そこの女!笑うな!」
「うちも、女やけど?どっちやねん?」
「ああ!これだから、ヒューランというやつは!オレ様は!」
「はいはい。そこに調査に行けばええにんやろ?」
「・・・ものわかりのいい奴は、・・いいだろう。」
貴族の青年は、一通の封書を出し。
「ついででいい。現地にラニエット、という騎士がいる。ソイツに渡しとけ。」
「はぁ?」

相棒の返事に。
「はい!わかりました!」
そして、エリの頭を下げさせ・・。
とにかく、応接室を出て・・。

「エリ?」
この相棒は、便りになる。確かに。
けれど、ケンカっぱやいし、クチは悪いし・・・。
「こちら」の世界に慣れていない自分にとっては、頼りがい、以上のものを求めてしまう。
「もうちょっと、その・・」
「えー?なんで、ラブレターの配達を、うちらの「公務」に入れて来るヤツに敬意がいるのん?」
「・・・え?」
「会うた事、あらへんけどな。女の名前やろ?ラニエットって。で、親父さん、兄貴も居ないときにこっそり「もってけ」なんて、それ以外何があんねん?」

絶句。

えーと。そういうものかな・・?
わたしは、恋愛経験自体、無くもないし、失敗ばかり。

「mゆりちゃん」いわく、真面目すぎ、らしいけど・・。
ああ、引込み思案、とも。

言われてみても、そう?と思わなくもない?とも思えないけれど。

とん。

突かれて、思索から現実に。

「まあ、何はともあれ。や。行こう。」
相棒の女性。 エレディタは、ニンマリと、指を指している。

そう、だ。ね。
「うん。まずはアバラシィア?」
「惜しい。ま、言葉に慣れるのもええな。」
「それ、エリが言う?」
「うちは、誇りを持ってるんやで?」
「それは、失礼。」ぷふ。つい。
「わろたな!」頬を膨らます
かと、思ったら、満面の笑顔で。
「せや。笑うんが一番やで!」

「あははは!」涙がでるくらいに笑った。何時ぶりだろう?
「うん。そうだね!」まずは、どんな案件であれ、新しい世界が観れる幸運に。

凍える風の中、街の中を進む。

(この先に。  )

(   逢える。)

と信じて。

進むしかないじゃない。
アイリーンは、背中に吊るした愛剣「アスカロン」の「想さ」を確かめる。

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