1018トリニティ。 あるいは開幕。

夕暮れというのは、どの場所であっても。
どの街であっても。
あるいは、戦場であっても。

一時の安らぎを与えてくれる時間。


いや、

違う時間を。

与えてくれる。


「おい。」

執務室に流れる声音と、潮騒。そして、黄昏の灯火。

「はい。」


白亜の塔で飾られる街、いや、国家。
リムサ・ロミンサ。

その一角での会話。

「ウルダハでの話、真実味はあるのか?」
「・・・今のところ、正直。どうとも。申し訳ありません。」
「いや、いい。 あの王族を含め、どうにも理解がしがたいのでね。」
「・・・クォ様。」
「気にするな、アドルフォ。連中は、権力が欲しいのだろうが・・・やり方が、下衆すぎる。」
「で、すな。」
「早急に手を打とう。俺も今から出張ってくる。」
「え!?」
「ちょっとくらいは・・・楽しむ権利が欲しいな。」
「なりません!」初老のヒューラン。
「気にするな。コレ。があるからな。」漆黒の、金色の眼を細める。 その手には、小瓶が。



はがゆいくらいに、懐かしい空気。

それは・・・
鬱蒼と茂る、木立から、森に・・・
黒い影は、止まず、時に開けて。

「うーン。僕的にハだネ?」
黒髪をそよ風に任せながら・・・
   本当は、潮風に任せたいんだけど・・・

「フネラーレ、ごめんよー。わっちの情報でも、キーさんが捕まえられないんだよう。」
茶色のミコッテ。
「あのボンクラなんて・・・(いや、マテ?アイツが居ないと給料・・)」
「フネラーレ?」
「ショコラ。一番ノ情報をよこセ。」
「え?」
「黒猫、ダ。」

あわわっ・・兄様の情報なんて・・掴んでるけど。多分フェイクばっかり・・・
「あー。その。」
「なンだ?」
「わっちじゃ、兄様の情報を完全には把握できない。よ。」
「そっカ。」
「フネラーレ?」
「寝てロ。僕は僕で探す。」
「・・・・」


「キナ臭い話。」
「ですね。」
こういう時は、和やかなカフェじゃなく。
キナ臭い酒場がいい。
久しぶりの空気に、胸がざわつく。

(魔女、ね。)
懐かしい響き。

ウルダハのメインストリートを、ちょっと外れば、その酒場がある。
「クイックサンド」

目の前のふわふわした金髪の女性の顔を見ると、これはやる気まんまんだ。
「んじゃ。」「おう!」



「ありゃま。うちの娘ときたら・・。」ため息。
婿殿に、孫を任せて・・・「あたしも出番かしら?」
これはまた、ムズカシイ。「でも。まあね。」魔女は明後日の方向を眺める・・


「おい・・マユ?」ウルダハのアパルトマン。少し上質ではあるが・・・
一軒家ほどには、遠慮がいらないわけでもない。
「ん?」くせっ毛の金髪の青年。

ブルーグレイの髪の女性・・・2児の母らしからぬ、好奇心旺盛、目立ちたがり・・いや、もう血統だろう・・。ウルラは諦め顔で・・。一応、行き先というか、この後を尋ねる。
「ちょっと、マリーと遊びに行ってくる。子供たち、よろしくね!」
(だろうな。)「いいか、夜までに帰ってこなければ、鍵は閉めておくからな。」
とはいえ、この程度。軽くクリアするだろう。
「はーい!」
「無茶だけはしてくれるなよ・・」 とは言え・・いつもの事だ。
自身の双子の妹も、最近は毒されているような・・・
マルグリット・・マリーは、今や「魔女の」家系に名を連ねるのかもしれない。

「あ。」俺は・・魔女の家系に片足以上を突っ込んでるが・・この場合、どうなんだろうな?
ウルラはどうでもいい悩みと、甥、そして我が子を。「どうなるんだろうか?」と真剣に考えてしまう・・・
で。

結果。

「なるようにしかならんか・・」
諦めの境地・・・。かも知れない。
愛娘は・・すでに「魔女」の片鱗を見せている・・・。



船室、それも「海賊船の船長室」みたいな、一室。
なぜ?と、問われれば伝声管が幾本もあり、いちいち秘書を通してではなく、自らの「声」を届けるため。

「その情報、間違いではないのか!?」トゲのある怒声。
「そう。わかった。お通ししてくれ。」優しげな声。
「なんだと・・・?」押し黙る・・・声。


しばし・・・
潮騒が・・・
やがて、夕暮れに日が傾こうかと言う時に。

こんこん。
丁寧なノックに、「いいぞ。」
その声に、「失礼いたします。メルウィブ提督。」
白衣の女性は、腰を折り礼を。
「済まない。カヌ・エ殿。」
提督も礼を。

「此度の・・・件。ですが。」たおやかな女性は憂いの表情で問いかける。
「ああ。 そうだな。あの時から・・・まだ、時間は・・過ぎていない。」
「そうですね。」

かの「時間」は・・・内密に、茶会を3人で楽しんだ、そのこと。

「どう・・・お考えですか?」白い貴婦人の問い。

「謀られた、だ。よ。」苦虫を噛み潰した表情の「提督」
「そんな・・・!では、誰が!?」泣きつかんばかりの声。
「ウルダハの政局は、混沌の最中。皮肉な事にな。」と、ウルダハの国旗を見上げ・・
「バランス、か。我が国家、リムサ・ロミンサは、貿易と文化としての地位を築いている。
カヌ・エ殿、そなたの国は、文明としての魔術式、さらには国家を束ねての「森」との共存を成し得ておられる。」
「それを・・自慢にしたことはありません。」少し・・強面に。
「そう、怒らないでほしいんだが。」軽くいなす、提督。

「では・・?」
「ああ。」

お互いの地位はこの際・・が。多少なりとも「損」だけはしたくない。

イシュガルド。
彼の地は、どういった物語を紡ぐのか?






なんて、感傷に浸って居られない。
むしろ、どんと来い。
いや、うそ。ごめん。

「ちょーーーーーっと!聞いてない!聞いてない!」
ララフェルの少女?女性?かの種族は年齢がわからない。
桃色の髪をたなびかせ、雪山を駆けまわる。
元々は「この辺、いい魚が」だった。
でも。
魔物に追いまくられて、竿どころじゃない。慌てて。「死ねる!」

「あれ?ゆいっこ?」
白髪のエレゼンが・・抜刀。
魔物は一刀の元に。
「。。。ガー兄?」
「こんなところに居たのか。まゆ姉は?」
「見てない・・・。」
「そうか。」
「ガー兄。その・・」
「ああ。わかっちゃいるんだけどな。そうそう、上手くいかないのさ。」
「えらそー。」
「っと・・・クロノからか・・。悪い。少し面倒らしい。」
「ヘタレ騎士め・・。」
「そう言うな。じゃあ、後は頼む。」
「まてー!りんちゃんが!」
「・・・知ってる。じゃ。」妙に達観してるサムライと通信を終え・・

「なんじゃそりゃ?」

ユイニーは、眉間にシワを。
軽やかな風。
少しは、気が晴れたのかも。
「ふん。」
この先は・・。



潮風に身を委ねて、そのまま波に拐われてみたい。
ああ、なんと甘美。
そして・・・
なんとも言えない。
「今」
は。
政治的に非常にムズカシイ。が。今の自分は一介の業者にすぎない。
とはいえ・・。
アリティア産業を束ねる、若き女社長は・・・
海運の商業に「ウマ味」を、さらにはその先も見ている。

で。

「気に入らないなら、そうだな。商船の一部に規制をかける事もいいだろう。鉄鋼に関しては、ウルダハに依存もしているわけだから・・っと。君の会社は、そういうのもしていたね?」

頭の先から、尻尾のさきまで真っ黒。瞳だけ金色の豪商が当面のライバルではあるが、協定で今まではどうにか小競り合いで済ませていたのだけれど・・。

「イシュガルド方面の貿易でも上がりがあるんだろう?ここは、少しこちらに譲歩してくれないかな?」
満面の笑み。

もちろん、ここで「ハイ」なんて、言おうものなら、とんでもないことに。
尻尾の毛を丸ごと持っていかれる。

「いえいえ。今までのラインを変える方がリスキーです。どうぞ、よしなに。」
「それはそれは。では、当方は一切の手を引く事を約束しますよ。」
(危機管理はこちらに。いいだろう)
「はい。」
そこに。
「ああ。言い忘れました。イシュガルドを狙った「賊」というのは、「ヒト」に限らない、だそうですよ。例えば・・竜族。」
漆黒の青年は事も無げに。

(参った・・な。冒険者諸君にお願いという感じなんだけど・・)
マルス社長は苦笑いを強調するわけにもいかず、軽く流す。
「なるほど。いいでしょう。逆に言えば。そちらは手出しは出来ない。故に、我が社の独占でいいので?す、よねえ?」

(あの黒猫・・・悪人過ぎます。)筆頭秘書のつぶやき。

「なるほど。どうぞ。」
漆黒のミコッテの青年は場を・・・


「面白い提案、でしたね。」漆黒のミコッテの青年。
「お互い、損のない取引、が一番ですからね?」女社長。
「ああ。そうだ。今度、食事でも如何です?」
「・・? ええと?」なんとか口に。
「いえ。名だたる、やり手の女性と是非とも。」クォは笑みを。
「いえいえ。お心遣いだけ、頂きます。」マルスは、引きつった笑みを隠せない。
「フラれましたか。 もう少しレディに配慮をさせていただきましょう。」黒猫は笑みを崩さない。



「全く。神経がどんだけぶっ太くでも、アレの相手だけは。」
執務室にて。
「ですね。彼に。 あ。」
「なに?せんちゃん?」
「いえ・・。その。憚りながら。適任といいますか。いい人材を社長はお持ちです。」セネリオはむしろ、サバサバと。
「へ?」応える社長は、ナンのことやら?
「エレン氏、です。」
生真面目極まる表情と、口調。
「は?」
応えて、東洋の土器のような顔。
「ハニ・・わ?ですか。社長も芸が増えましたね。」
「は・・・?」
「いえ。彼なら適任では?」
「・・・・まさか?」
「これまで、かつて無い奇跡を起こしています。彼を今回の責任者としてまとめて行くのは、決して悪く無いと思います。」(万が一。ポシャっても、ダメージが一番少ないですし・・)
「そこまで言うなら・・。」(アイツも、せんちゃんから信頼をもらってるなら、任せるか)



「で、だ。」
「はい。クォ様。」
「アドルフォ。任せてもいいのか?」
「今更、でございます。」
デスクの上の小瓶を見る。
「こんなもので、素性をごまかせる、とはな。」漆黒の「総帥」は小瓶を弄ぶ。


3日後。

「ああ。せんちゃん?」
「はい?」
「エレンが、まあその。アレだ。」
「あれ、ですか?」
「1人、捕まえてきた。」
「ほう?」
「それがな・・。」
「はい?」
「アウラの青年、銃使い・・・機工士だって。」
「それは、頼もしいのでは?」
「いや・・。私も詳しくは知らないんだけど・・・見た目は真っ黒、瞳が金色・・だそうだ。」
「・・・・・」
「ああ。アイツ、かもしれん。最近は・・・困った薬品が出回っているからな。」
「アウラ族、でしょう?」
「関係あるまい。見た目、を偽装するならいくらでもな。後は・・中身だ。」
「素人では?」
「エレンを抜きにptを試した。が。」
「が?」
「申し分ない、どころか、だったんだと。」
「なるほど。で、名前は?」
「アリア、だとさ。フザけやがって・・・なにが「空気」だ。」
「どうするおつもりで?」
「ミコッテの男、それも黒髪、黒い肌、金色のなら、排気管に詰め込むがな。それが、アウラだと、そうはいかない。なにせ、難民でかなりの数が入り込んでる。」
「で?」
「このへんは・・もう、エレンのボケに任すしかない。」
「投げやり・・です?」
「いや、中和剤として、最適だろう。」
「ですか・・(あと、二人は欲しいところですが・・! 突っ走る二人、なら適任が居ますね。)では、この件はこれでいいですか?」
「ああ。ベスト、と思いたい。」
「なるほど。」

(かのペアからすれば、最悪のカップリングだな・・すまん。)

セネリオは・・・この先の判断は、まさに丸投げにした後で・・いいんじゃないか?と、気持ちを落ち着かせて・・・。



時間は少し坂戻って・・・

執務室にて。

「おい、アドルフォ?」
「はい。クォ様。」
「本当に、大丈夫なんだな?」
「はい。お任せください。」
「まあ、いいが。これも余興の一つ、か。ナイトメア(銃)の整備も出来たところだしな。」
「新式の物も用意出来ております。」
「お前に任せる。」
「かしこまりました。」
「しかし・・こんな薬品で・・種族を超えれるとはね。」青い小瓶を見つめる。
「実例もございます。」
「いい。知っているのと、半信半疑では、意味も変わる。」
「はい。」
「じゃあ、後はよろしく頼むぞ。アドルフォ。」
「はい。」


漆黒のミコッテの青年は・・・

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