940セブンス。少女たちの日常的な・・・。(少し過去、 追憶 9

午後の授業も終え(あんまり頭に入らなかった)食堂での夕食も、持ち帰りのお弁当にしてもらい、部屋でモソモソと食べおえ、予習を再開する。

ヴァイオレットは、基本的にハデに見られがちだが、実は用意周到なほうだ。地味と言ってもいい。
ただ「ハデ」な方がそのイメージで見てくれるので、対策がしやすい。
この辺はかの「第4位」も似たようなものだろう。彼の場合は、地味だが、その実力を隠していると思える。勘ぐりじゃなければ、だけど。

ノートに、構成の展開の順番をつけていく。
まずは牽制、が定番だが、彼相手にそれはおそらく読み筋だろう。
いきなり大技?ないない。そんな事をすれば、あっけなく引っくり返されるだろう。
実際に術式の展開はすれども、発動は固く禁じられている。
要は、いかに相手の裏をかいた構成を展開できるか?だ。
エレゼンの少女は頭を抱える。
先手の先の先を読んで、相手にこの構成を出させた上で、それを上回る構成を展開させればいい。
そのためのフェイクや、欺瞞がおそらく一番、いや、その前の挨拶からすでに戦いは始まる。

想定・・
「よろしくお願いします。」「ああ、君か。」「はい。お相手させていただきます。」「うん、僕もがんばるよ。」

この時点で、すでに負けてしまっている。
理由は、最初っから相手に「下」に見られているからだ。こんなメンタルでは勝つことなど不可能だ。
10歩譲って負け確定でも構わないが、いい勝負をしなければ上にはいけない。
それでなくては、意味がないのだ。
もう一度、戦術を練り直す。

そして、もうひとつの懸念。
クレストというララフェルとの対戦。彼とは交流はないが、芸達者とのこと。できれば、・・・いや。
第4位との後の方がいい。
無様に負けることで、彼は慢心するだろう。
彼との実技でラプターに手札を晒すようなマネはしたくない。

一通りの戦術を組立て終わると寝台に寝転がる。
姉妹が喚きながら入ってくるが、気にせず、眠りに落ちる。



翌朝。

講義堂の広いスペースで、実技、ランキング認定も兼ねた試験が始まる。
まずは、下位になっている子達が実技を披露していくが、やはり、というか。上級クラスとはいえ、教科書通りの使い方。
それはそれで、基本に忠実だ。が。やはり、そのレベル。

遠目に見ながら、こっそりと自分なりの評価を。
そして・・自分の出番はできるだけ、早いほうがいいな、なんて。
「ヴァイオレット?」肩を叩かれる。思わずビクっとなって。振り向くと、もう親友と言ってもいい赤毛の少女、ミオが心配そうに。
「あ、うん。大丈夫。ちょっと緊張してるだけ。」かろうじてそう言えた。
「ならいいけど。まあ、普段の実技みたいな感じでやればいいから。」にこやかな笑顔で緊張をほぐしてくれる。
「うん。ありがと。」とだけ。

そして、名前が呼ばれ。
「はい。」
正面には、期待を裏切ってララフェルの少年。(ま、そりゃそっか)
「始め!」

ララフェルの少年はいきなり大規模な構成を展開させた。
(うわ、やるわね!)対抗するのではなく、小規模な構成で、相手の構成を展開させないための牽制をする。
が、それはフェイクで・・同じ考えだったのだろう、ララフェルの少年もあっさりと構成を破棄して、細かい構成を編んでいる。
逆にこっちも細かい構成を破棄して、大規模な構成を編んでやる。
向こうはそれもフェイクだと踏んで、細かい構成をいくつも並列で組み込んでくる。
しかし。
わたしは、その大規模構成をそのまま叩きつけるように展開させた。
術式発動はしないが、構成が見える術士としては、岩が落ちてきたくらいの、いや、落雷か。
まさか、フェイントじゃなく、コレを叩き落とす、なんて考えられなかったらしい。
「降参します・・・。」

意外とあっさり勝てた、かな。と安堵で胸をなでおろす。

「勝者、ヴァイオレット・シール。」判定の声に溜息一つ

向こう側では、当然のようにサララにラプターが負けていた。
(やっぱり・・)
この後、少しの休憩を挟んで彼と対戦だ。そして、確実に負けるだろう。

見せたく無かった、手札を一枚切ってしまった。
それだけでも痛手なのだが、問題は彼は全くと言ってもいいほど手札を晒さない。

だが、今回はそれでいい。
なぜなら、奥の手は、取って置きがあるから。このトランプ(切り札)は、どうにも対処できまい。なぜなら・・・


見事に敗北したヴァイオレットだが、次回は次席との対戦もあると。
これで、勝てる。
そう、第4位と、再戦があるから。
「これで、次席はもらったわね。」寝台でゆっくりと。

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