934セブンス。少女たちの日常的な・・・。(少し過去、 追憶 3

午後の実技授業は、構成の編み方や、展開の速さを試される授業で、実際に展開させた術式を発動させる「呪」は禁止されている。
生徒たちは、広めのホールで木人相手に構成を展開させては、教師に注意点や、アドバイス、もしくは叱責をされている。

わたしは・・隣で木人相手に実際に術式を叩き込んでいる主席を眺めている。
術式で強化された木人は、耐久度こそ低いものの、無限ともいえる蘇生を繰り返して立ち上がってくる。とはいえ、攻撃してくるわけでもない。ただ、立ち上がるだけ。
その赤毛の少女は、その容姿と同じく、火炎術式が得意なようで、何度もファイアを叩き込み、
その一撃だけで木人が燃え尽きて倒れては起き上がるのを繰り返している。
「はぁはぁ・・」ミオの魔力が尽きかけてきたのか、肩で荒い息を現し始める。
ぐばっと起き上がる木人に「明けの明星!」と叫び、燃やし尽くす。

「はい。そこまで。ミオ。魔力の限界がわかってきた?」教師が少女を止める。

はぁはぁ・・・「はい。先生。」憔悴の域に行きかかった少女は、胸に手を当て心臓の鼓動を確かめる。
(ま、そうなるよね。)自分もさっき同じことをして、今は椅子に腰掛けて休憩している。
ただ・・雷系を得意とするヴァイオレットは、ミオが空気中にある水分を酸素と水素を分解して、再融合させ、さらに周りの酸素を巻き込んで爆発させるモノとは違い、
静電気を利用して対象に擬似的な雷撃、なわけで。
ここでまた「問題児」認定確定になってしまった。
理由はこうだ。
まず、空気中に帯電している静電気など、たかがしれている。
なので、生体にある静電気と、相手の静電気を繋げるチャンネルが要るわけだが・・生木ならともかく、木人みたいな乾燥しきった木では、チャンネルを繋げない。
屋外ならばともかく、講堂みたいなスペースでは、そうそう周囲の静電気を集めて「無味無臭」な木の人形相手に連打することは、そうそう簡単ではない。
だから。
教師達に協力してもらったのだ。

普段の講義であれば、一人しかいない教師が、教科書の解説をするのみだが、実技だけは事故が起こらないように数人の教師がいる。
一般教室なら、2,3人で20人ほどの面倒を見ているようだが、この上級クラスでは、ほぼマンツーマンで見る、さらに緊急の事故のために医療用に2人がいる。
つまり、14人。そして、周りには11人の生徒がいる。
使い勝手が難しい雷撃術式だが、これだけ「ひと」が居れば問題ない。

死なない程度に生体電流を抜き出しながら。自分は最小限の消費で。チャンネルを繋ぐ術式を構成して、何度も木人を消し炭に変えた後、さすがにこの辺が限界かと、わざと倒れ込んでみた。

そして介抱された後「お前、この場の全員の静電気を使いまくっただろ?」と男性教師。
「なんのことですか?」トボけてみる。
が、やはり12歳やそこらの少女の言い訳なぞ、通じるはずもなく。
「構成見れば、明らかに他人を巻き込んでるだろう!」
そんなわけで休憩というわけで、主席の術式を「見て」いたのだけど。さすがに緻密に編まれた構成はムダが無く、かつ的確だ。
この相手をコテンパンにして、自分が主席になる。決意を新たに。
ただ「問題児」確定と化した自分の相手は、まずはあの姉妹。
この授業には「先ほどの一件」で、謹慎処分が下され、寮で寝転がっている。
もちろんの事、件の男子生徒達も同様だろうが、確認できるはずもなく。
術式披露を許された二人が席に着く。
そして、最後にもう一人だけが術式を披露し始める。

「あれ、だれ?」ヴァイオレットの質問に、汗を拭きながら赤毛の少女は「ラプター。マイン・ラプターよ。教室じゃ、4位に認定されているわ。
問題児扱いはされていないけど、かなりの実力がある。」
エレゼンの男子を見ながら「ふうん。」(また撃破対象が増えた、ね。)未だ、自分の順位は決まっていない。今のうちに彼のやり方を見ておけるのはいい話だ。

結果的に得た情報は、恐ろしく堅実。全く無駄が無く、消費も少ない。
あの暴発双子や、調子に乗ってきたらどんどんテンションが上がっていく委員長のとは違う。もちろん、自分みたいに状況で相手に知られないまま使うようなのでもない。
ただ、堅実。
蒼白、といってもいいエレゼンの少年はこちらを見る。
少し目線を反らせてしまった。
色の薄い金髪の、どこか儚げな少年はそれっきりで、休憩席に。

視線を戻すことに失敗して、隣の主席からは「もしかして、一目惚れ?」などと言われてしまい「まさか。倒すべき相手が増えただけ。」とだけ。苦し言い訳だけど。
特に返事もせず、ミオは立ち上がり「そろそろ終わりよ。」と、先を促す。
立ち上がり「うん。」視線はさっきの少年に向けるがすぐに逸らす。なぜなら、彼もこちらを見ていたから。

後の伴侶との出会いはこんな感じだった。

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ