929セブンス。少女たちの日常的な・・・

その瞬間、ちょっとした、そうちょっとした緊張感が。

グリダニアにある「家」の中、4人の女子達の空間。
少し広めのリビングに、4人だと少し小さめのテーブル。椅子は最近購入というか、もって来られたモノが一脚。残りも似たようなもので、同じデザインのものはない。
そして、テーブルを囲う女子達のカップもまたバラバラ。
「主のセンスを疑う」などと部外者が見れば言うに違いない。
違いないが・・・事情が・・・

「ンで?」
先程、まずこの「家」の主人たる黒髪の女性、フネラーレが先ほどの問いに言葉を待つ。
主題は「晩ご飯」だ。とりあえず、午後のスイーツを半ば以上食べ、この後の食事に意見を待つ。
居候一番乗りの給仕エレゼン、ことベリキートは「お嬢様にお任せいたします。」と至極まっとうな意見を述べる。
このスイーツをかなりコボしてしまったからか、ハナから参戦しようとしないのか。
「そうだねえ、わっち的にはやっぱり屋台かなー。」茶色いミコッテのショコラ。「お嬢様(元)」の彼女はこういう情報だけにはトコトン詳しい。
裏の情報屋よりは、グルメガイドの方が絶対に向いている。
「あー、わたしはさ。こう、ちゃんとしたレストランがいいなあ。」褐色の肌に金髪という少し目立つミコッテの女性。
「シックス、てンめえ、鏡見てから言いやがレ。」
黒髪、白磁のような肌。遠目にではなくとも「お人形」という形容詞がピッタリの女性、フネラーレ。ただ少し変わった髪型や、その「左目」があまりにも目立ち過ぎる。
そして、その正反対の銀髪、黒い肌、更には給仕服といった、エレゼンの女性。ベリキート。
「お嬢様」こと、ショコラも目立ちにくい服装とは言え、茶色い肌に茶髪、碧の瞳。
こんな面々が「立派なレストラン」なんて行った日には、都市伝説になりかねない。

「フネラーレ?わたしにケンカ売ってる?」シックスと名乗るミコッテが。
「サイフの中身と、家賃と見テからケンカ買エ。シックス。」少々クセのあるイントネーション。
「以前にボロ雑巾にされたクセに、上等じゃない。」
「その後、魔女に助けられなきゃハリネズミだったのにナ。」
「家賃ですって?そもそも、あなたたちがわたしの家を壊さなけりゃ、ここで居候なんてするハメなんてならなかったのに!」
「弁償代に売ったンだロ?たいして壊れてもイないボロ家。しかも、職まで追われてナ。」
「いいだろう!そのケンカ、買ってあげるわ!」
「吠え顔かくなヨ?言っとくガ、コイツはサービスだ。僕は何も弓だけジャなイ。」ピン!と音がしそうな勢いでダガーが差し出される。
まさに手品の類かと言われんばかりの速度と正確さでシックスの喉元につきつけられる。

ゴクリ、と喉が鳴る。
確かにスタッバー(暗殺者)としての名は十分以上に知っていたが、遠距離狙撃や、至近距離からの速射くらいには・・確かに接近されれば、
何らかの手段が必要だとは思っていた。しかしながら、このダガーの扱いとは・・。銃よりも速いかも知れない。
クイックドロー(早撃ち)体勢だったが、相手の方が一歩上なのは思い知らされた。
しかも、彼女には「イージス」がある。最悪、相討ちで仕掛ける可能性も否めない。
「わかったわよ、わたしの負け。これで二敗目かあ。」両手で降参のポーズ。
(しかし、相手の手の内もわかった。コレは決して一方的な負けではない。だが、いったいどこから?今の彼女には武装できるような場所などないのだが?)

「ふン」とダガーをどこにかしまってしまう。(コッチの手の内を全部明かすほど馬鹿じゃないンだよ)テーブルの下にダガーを仕舞う。
もちろん、椅子や、寝台、玄関やキッチン、コフィンメイカーにまで短剣は隠してある。当然、一本ではなく、必ずスペア付きでだ。
最近、仕事をしてないので、今の騒動は久しぶりの緊張もあって楽しめた、か。

「はいはい、そこまで、だよね?」ショコラが一瞬の攻防に「あ」すら言えず、息を飲んでというか、ポカンとして。そこから何とか現実に立ち戻り。
「お嬢様のご意見、お伺いしてもよろしいでしょうか?」間を取った給仕、ベリキート。
「あ、うん。そうだね、屋台が少し性に合わないという、シックスさんにその魅力を教えてあげたいね!ソコに行こう!」
「アー、あそこカ。」「はい。ワタクシはお嬢様のオススメの場所でしたらドコへでも。」「なんか胡散臭いなあ・・」

しばらくして。

「なんコレ?美味しっ!」シックスは屋台の魅力にハマったようだ・・・
「だロ?」先輩が。「こンなのつきあわされテもうしばらくだけド。コイツに聞いてりャ、問題なイ。」
「さすがはお嬢様です。この倒れかけの椅子も微妙なバランスで楽しめます。」
「わっちのチョイスに間違いは無いのであーる!」自慢げに最後の一口をほうばった後、綺麗にイスごと倒れて、
それを救おうとした給仕と共倒れ、さらに持っていた皿の中身を見事に頭から二人して被り「ああ!お嬢様!なんてこと!」と。
「いつもどおりだナ。」「いつもなんだ・・」

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