923セブンス。少し先のお話。詰まりに詰まった剣士の落としどころ。

「彼女」はパールを取り出す。
この二日くらい連絡がない・・・相手は恋人とはいえ、今は「仕事」中だ。仕方がないのかもしれない。でも。
(くぉらっ!ミッターっ!!ちっとくらいは返事しろっ!)
黒髪の美女、黒雪は寝台で横になりながらパールを握りつぶす勢いで伝心していた。


「わっ!」
炎天下が当然なザナラーン地方。主都ウルダハから少し離れた酒場にて、ビアを煽っていた青年が、突然の伝心にビックリする。
「あら?どうかした?もしかして、彼女から?」にっこりと笑うふわふわの金髪の女性。
「あ、まあ・・」しどろもどろに答える。 マリーと名乗った彼女はどこまで知っているのだろう?普通に考えれば、彼女「黒雪」の事は知っていると思われる。
だが?彼女が「死んだ」はずが・・「実は生きている」事は?ここはものすごくデリケートな問題に発展しかねない。
裏の外交でウルダハ、グリダニア間に妙な影を落とす事にも繋がりかねない。
「あ、はは・・・」と乾いた笑い。「もう。隅に置けないわね。若いのに。」とニコニコしながら、マリーがカウンターに戻っていく。

もちろん、その間中二人だけのパールからは罵詈雑言が出っぱなしだ。
曰く「汝、何たるや?」「我、悲痛の極み」「租は、我関せず、を是とするか?」
伝心からの言葉を、グリダニア古語(少年時代に家庭に呼んだ教師に習った)に頭の中で置き換えて。
ちなみに、元はこうだ・・「お前、ナニサマだっ!」「私がこんだけツライのにっ!」「自分のコトだけでいっぱいいっぱいで、私の事はほったらかしかっ!」

あいすみません・・・・

「彼女」にどういった事が起きてるのかわからないのが、はがゆいがコレばかりは仕方ない。
なにせ、彼女は「死人」扱い、それも非公認の組織の中での非公認メンバー。
しかも、最近は故郷を同じくする人もたまに顔を出す。
正直コレには参ったが、「魔女の家」という、特殊な環境なのでバレてはいないようだが・・
キサラギと名乗った彼女と、黒雪は確かに親友だったらしく、他愛のない話に水を差さないようにしてはいた。
同じく渡ってきたユウギリなる女性は、レブナンツトールの開拓リーダーとして忙しいらしく・・その彼女を「昔っから、貧乏くじだね!」「まったく、アイツらしい。」とか。

いや、現状に話を戻そう。
銅刃団のリーダーになったララフェル・・・名前は忘れた。
彼の話によると、旧団長、いや、その前か。
2代前の団長から、信頼を得ていた自分だったが、どうにもそのために空回りが続き、焦った自身がトラブルの原因となってしまった。
だが、ある冒険者のおかげでなんとか威信を取り戻すことができ、不埒者を捕縛できたとの事。
その時の冒険者が「マユ」という名の少女だったらしい。
これは先ほどのマリーの言葉から「マユ」の名が出た時に納得できた。
やはり、この街の暗部もあるのだ。

その時に捕縛された者達が、保釈され(金に物をいわせて)、現団長のララフェルをおびき出し、帰らぬ者にする気らしい。
ただ、そのような危機的状況になる前に「仕留めろ」がメインの任務。(ただ、殺すことはしない。)
しかしながら、水面下ではコソコソと動いている連中に手が出せないウルダハの都合で自分が来たのだが、有力な情報も。

「あ、キミ!ビアのおかわりは?なんだか深刻そうな顔だからね。」「じゃあ、もう一杯。」

コレは、彼女(マリー)からの情報の符丁だ。「おかわり」をキーワード、「深刻」は場所(笑えない・・)、「顔」はトップが来ている、だ。
そして、おかわりをお願いすれば、援軍としてマユという女性が駆けつける。もちろん、場所はマリーが教えているだろう。
先程、パールで説明を。
ミッタークはジョッキを一気に飲み干して、ギルを。「ごちそうさま。何やら呼ばれちゃって。では!」
「がんばってねー!」金髪の女性が手を振る。


軽装の鎧に、片手剣。盾はない。くしゃっとした髪を砂塵混じりの風にまかせ。そろそろ、夕闇迫る頃合。
銅刃団と呼ばれる4人ほどのグループを見つけ、声を。
「あの・・ここって、どう行けばキャンプまで?」
「あ?ブラックブラッシュならすぐそこだろうが。外地のヤツか?俺らの邪魔すんな。」
団員の一人が。
「あ、そうでしたか。すみません。僕、グリダニアから初めて来たもので・・」
「ち、いいから、キャンプまではあっちだ。俺らの邪魔すんな!」
そこに。
「あら?あたしも道中の案内、いいかしら?」ブルーグレイの髪を肩までで切り揃えた女性。いや、少女にも見える。
「!?」
今まで、確かに5人しかいなかった。それは間違いない。4人の団員と、自身もそう認識していたはずだ。
「だ。・・いや・・あ?もしかして?」
「え?なんのこと?」女性?いや、少女か?は、その服装とあどけない、にっこりとした表情からは、想像もできない行動を。
すっぱーっん。
ひょい、っと近寄った片足を軸に頭ひとつ分上の男のアゴを兜ごと回し蹴りで倒した。

「え!?」少女?を除く、全員が引きつる。

これは、好機。ミッタークは鞘から剣を抜き放つ。「草薙の剣」
数多の名を冠したその名刀を振るうが、致命的な傷は一切付けず、相手を無力化していく。
「ふーん、キミがあの。」と、名前だけしか知らなかった女性から。
「後継者、ですね?お手伝い、ありがとうございます。」一礼。
「なーんだ、あたしイラナイじゃないの・・」
「すみません。保険ということで。」
「(ま、母さんの出番が無いとはいえないけど)精進してね。」
「はい!」この後は、出先機関が処理して、またしばらくは「牢屋」でおねんねだろう。

よし、これでグリダニアに戻って・・・黒雪のお叱りを受けねば・・・それはそれで幸福でもある。

その後、違う意味での幸福も知ってしまうのだが。

「ミッター、子供、できちゃった。」彼女の言葉に凍結術式以上に凍りついた。

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