922セブンス。少し先の話。つまるところの剣士の詰まったとこ。

「ふう。」
少年から青年になった剣士、ミッタークはなんというか。
少し気恥ずかしい、というか。
今の今まで、グリダニアという都市国家から出たことは無かったのだけど・・

依頼でもって、この砂漠都市国家に来たのだ。
依頼の内容は、かなり秘匿性の高い、というか、基本的にヒミツにしなけりゃならないコトばっかりで、その件についてはもう慣れっこになっている。
飛空挺での移動も、偽装のパスでクリアができるようになっているあたりなど、さすが、としか言い様がない。

「しっかし、なんにも無いなあ・・」
中央ザナラーンをトボトボ歩いて。
最近は少しオシャレに目覚めた彼は、装備もそこそこに整えよう、なんて考えて機能よりも見た目を重視しようとか。
あと、リムサ・ロミンサには髪型まで整えてくれる「美容師」なるスキルもあるとか。
そんな話を恋人(あと、養い親)であるところの女性に相談したところ「百年早い!」と殴られた。
今は、むしろ養っているのは自分のはずだが・・
なにせ、彼女は自分が「殺して」しまったから。

実際は、いろんな人達の協力と、自分の気持ちのために、隠居身分になってはいるが・・
仕事がこない限りは、ほぼ毎日、彼女の家に通っている。

「黒雪・・」
彼女から渡されたパールはリングなどの装飾品にはつけていない。なぜなら、見つかれば「彼女は死んだ」事が、実は偽装だったと分かってしまう。
これだけは、苦渋の選択だったが、致し方ない。小さな、それこそパール一つ分しか入らない袋を見る。淡い光を通すその袋は、今はなんの兆しも見せない。
ただ。
毎日、伝心しないと、彼女が機嫌を損ねるのは幾度も経験している(例え、それが戦闘中であってもだ)
「まいったなあ。」陽は中天に差し掛かっている。
炎天下の丘陵地帯。
朝食は商店街の屋台で適当に済ませたが、地域柄だろうか?やけにスパイスが効いた食事のせいで、ノドが乾いてしょうがない。
仕事の前に、これでは日差しと乾きで倒れてしまうかもしれない。

仕事、としては、大したものじゃない。野盗の類の討伐だ。それこそ、冒険者を雇えばすぐにケリが着くだろうに。
が。
問題はそこではない。
ウルダハの自警団を自負している連中(名前は忘れた)が、実は一部が野盗化しているという。
中には、ウルダハの豪商の子息もいるらしく、黙認されいたようだが最近「おいた」が過ぎるために、「厳重注意」を「他国」に「依頼」という次第だ。
ウルダハ自体は、そのような状況で動けないが、なんとかしたい。だが、リムサ・ロミンサは喜んで請け負うだろう。
その代わりにどのような「上乗せ報酬」を要求するかわからない。海賊国家と揶揄される理由はそこにある。
まあ、事実なのだが。

そこでお鉢が回ってきたのが、グリダニア、というわけだ。なんせ、カヌ・エ・センナ師は「世界の平和と秩序」を謳っているのだから。
他国の紛争に心を痛め、報酬などいらない、と公言し紛争や、諍いを調停して回っている。
その心意気は非常に好感が持てる上に、師であり、恋人のあの人も自分の手を血で汚す事をとても。とても。
嫌っている。
だからこそなのだろうが。「非殺」を看板にした、自分は丁度、いや、適任なのだろう。
ただ。
喉が渇いた・・・

ふらふらと。
歩いていると、なんの冗談だか知らないが、こんな場所に建物が。
ブラックブラッシュというキャンプがあるらしいのは、地図で確認はした。
が、作戦の隠密性を考慮すれば、大人数が集まるキャンプは控えるべき、との考えでガマンをして通り過ぎた。
だが。
こんなハズレに酒場?宿?何かは知らないが、とりあえずの休憩くらいはいいだろう。
民家なら、隠密性というか、件の野盗モドキの巣かもしれない。
それならそれで、手っ取り早い。
「お邪魔しまーす。」
看板には「酒房-コッファー&コフィン」とある。
(宝箱と棺桶、ね。こりゃ博打だな。)内心、ドキドキしながら、ミッタークは店内に。
「いらっしゃーい!ありゃ、珍しいわね。貴方、グリダニアから?」ふわふわした金髪の女性がにこやかな表情で。
「あ、ええと?」ここで肯定はできない。素性がバレてしまうのは・・「何か?」牽制を。
「あ、ごめんね。わたし、アラミゴ出でね。ザナラーン地方とグリダニアには過ごした経験があってさ。ちょっと懐かしくって。
気にしちゃったらゴメンね。あ。とりあえずはビアでいい?」
「あ、ああ。うん。」「マスター、ビアね!」「おうよ!」
「旧鉄道をどうしようか?って技術者連中か、駆け出し冒険者がよく来るお店なの。こんな荒地にあるから、入るのは相当度胸があるでしょ?」
「そ、そうですかね?」近くで女性に微笑まれると、少しドキドキする。
「マユちゃんの話どおりね。あ、わたしはマルグリット。マリーでいいわよ。」
「あ、え?」
「ミッタークくん、でいいよね?」
「ああ、はい・・」なんで名前が?
(ここでの諜報もしてるの。マスターには黙っててね。)
(じゃあ、この店が?)
(根城、じゃないけどね。たまに来るの。なので警戒と情報集め、かな。)ウインク。
(あなたが依頼者ですか?)疑問符が止まらない。
(ただの家計を支えるための就職よ。たまには、こういう事もするけどね。まあ、ボーナスってところかな?)
「マリー!おしゃべりもいいが、ビアくらいもう出せよ!」
「ゴメンなさーい!」たたたっ、と素早くカウンターに。走らず、駆け足。その足捌きは、彼女が一般人ではなく、手練の武器扱いのできる人物と見て取れた。

大きな陶製のジョッキに注がれたビアで喉を潤す。
真昼間から、などと彼女なら突っ込むだろう。ワイスワインを飲みながら。
(これを)仕事用のパールを渡す。おそらく、彼女が今回の手伝い、なのだろう。
(はいな。)にっこり。
最悪、彼女が手駒だった場合も想定はしておくが・・出てきた名前からして、大丈夫だろう。が、警戒は解かない。
(よろしく。)(うん。)


彼女の警戒具合からすれば、こちらが疑われている事も視野にいれないとね。
そんな考え事の最中に「彼女」から伝心が・・・

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