902セブンス。大団円の裏に・・続き

「こっちよ。」
小麦色のミコッテ。金髪は以前より少し長めになったか。
そんな遠い昔のような、ついこの間のような。
そんな記憶が。
そういえば、自分も大戦前はヒゲなんか伸ばしてなかったな、なんて思う。
シドはミコッテの後について歩きながら、思い出とも、記憶の再生とも判断ができない風景を想う。
そういえば、この娘が自分の工房に見習いと称して放り込まれたのはもう何年前だったか。
二人して帝国で開発中だった兵器の開発を楽しんだものだった。
飲み込みのいいこの娘は、自分でも思いつかなかったプランを持ち込んでは、精度や限界値などで頭を悩ませたものだったな。
「ここよ。」
冷たい声。
「予想外、だな。もっと大豪邸だと思ってたんだが。」
「ここは・・わたしの家。」
「ほう。一軒家が持てるようになったか。」
「・・・望むなら・・一緒に住んでもいいよ。」
「考えておこう。」
「・・・。」
「で、クォ氏は?」
「今はリビングに居るはずよ。」
二階建ての家に入る。
給仕がいるわけではないはずなのだが「おかえりなさいませ。」漆黒の肌、銀髪のエレゼンの女性が出迎える。
「ベリキート!アンタなんで!?」シックスが驚く。
「ご主人様から要請がありましたので。」
「・・・!」
「まあまあ、とりあえず案内してもらおうか。」シドは女同士の確執に辟易しながら・・

少し調度品にお金はかけていないが、品の良さは彼女らしいな、と思いながら廊下を進む。
「こちらでございます。」給仕のエレゼン。苦虫を噛み潰したようなミコッテが「わたしの家だから。」
ノックの後、ドアが開かれる。
「やあ。初めまして。俺がクォ・シュバルツ。現ファルベ家当主だ。お会いできて光栄だよ。シド・ガーロンド機工士。」
漆黒のミコッテの青年。
ソファから立ち上がり、一礼をする。
「ああ。初めまして。シド・ガーロンドだ。一介の技師に大富豪の当主殿がわざわざお招きとは。」腰を折って一礼。
「いやいや。このシックスの師となれば、相応の対応が必要かと。それに、帝国に一撃、さらに蛮神掃討にも一役買われたそうじゃないですか?」
「お耳が早い。ですが、ただの脇役ですよ。」
「まあ、おかけになってください。」ソファを進める。

(きゃあ!)ガチャン(ちょっと!なにしてくれてんのよ!わたしのお気に入りのカップ!)(ご主人様とお客様にお茶を・・)(もういい!わたしがやる!)

「すまないね。彼女達は少々そそっかしいのでね。」苦笑で
「いや、構わないですよ。それこそ工房の連中は焼き物のカップなんて使わせたら一日に一ダースは使いますんでね。
そのへんの板金でカップを作るところから修行させてますよ。」
「はは、なかなかジョークのセンスもお持ちのようだ。」

クション!酒場にて。
「ビッグス?」「いや、なんか噂されたかな?」

「で、どうして俺なんか?」シドの目が真剣に。
「なに。大したことじゃない。貴殿の腕前を見込んで、だよ。」クォの金色の瞳が妖しく・・
「どういうことかな?」
「実は君の弟子のシックスがねぇ。立ち上げたプランなんだが、少々軌道を変える事になってしまってね。アドバイスをいただけたら、という運びなんだ。」
「俺はアイツに「艇」の設計をさせたことも手伝わせたこともないんだが?」
「ほほう。それは興味深い話だね。」
「なので、その「プラン」とやらは、俺には関係なさそうだな。じゃあ、これにて失礼させていただこうか。」ソファから・・
「ご主人様。」エレゼンの女性給仕。ジャキっ。長身の銃の弾丸装填の音。
ソファから立ち上がる所だったシドは凍りつく。
「おいおい。冗談はこの辺にしとこうぜ?クォさんよ。」(アレを独自で完成させてたってか。シックスめ。)
「ああ、あれか。「マスターキー(合鍵)」だよ。どんな「ドア」だろうが「開けられる」んだ。どうかな?興味はあるかい?」
「イヤな予感はしてたし、そういうのは大抵は当たるモンだ。」ソファに座りなおす。
「じゃあ、商談を始めようか?機工士、シド。」
かちゃり。
「どうぞ。」給仕服に着替えたミコッテの女性がお茶を出す。

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